初めてBarの扉を開けた日
20歳を迎え、お酒が飲めるようになってから行ってみたかった憧れの場所がある。バーだ。漫画を読んでいていつも思っていた。色とりどりのボトル、落ち着いた大人の空間、そして一杯を生み出すバーテンダー。
アルバイトで得たお給料を片手にいそいそと夜の街へと繰り出した。ネオンが輝くありとあらゆるお店には目もくれず、目的のバーへと向かう。茶色の重厚そうな扉の前に立つ。中の様子はわからない。急に心臓の鼓動が早くなる。緊張している・・・。息を整えて扉を引く。
「ギイィィィィ。」
扉が開く。中の様子が現れる。薄暗い空間に黒く光るカウンター。ありとあらゆるデザインのボトルの数々、そして一人のバーテンダー。僕が想像していた以上に目の前に広がる、今まで経験したことのない大人の空間。緊張しすぎて言葉が出ない。
「初めてですか?こちらへどうぞ。」
促されるままに目の前に座る。バーテンダーと思いがけずカウンター越しに向きあう。お店には僕とバーテンダーの二人しかいない。お願いするカクテルは決めていた。ジントニックと青い珊瑚礁。
素早い手さばきであっという間にジントニックが出来上がる。ほろ苦くそれでいてスッキリとした甘み。バランスの取れ、爽やかな味わいがたまらない。次に「青い珊瑚礁」をオーダーする。戦後の日本で初めてコンテストを勝ち抜いて生まれたカクテル。初めて目の前で見るバーテンダーのシェイク。「キンキンキン。」と、氷の砕ける音が店内に響く。背の低く外側に広がった形のカクテルグラスにそれは注がれた。エメラルドグリーンに輝く液体。その中に添えられた赤いチェリー。まず一口。ミントの清涼感がありアルコールの強い味わい。それでいて、フレーク上になった氷が涼味を与えてくれる。古くから伝わる変わらない味わい。
「若い人が扉を開けてくれるのは嬉しいですよ。」
バーテンダーとの会話に華が咲きつつ、初めて味わう大人の空間と味わいを心ゆくまで楽しんだ。
あれから四年が経つ。今も時間を見つけては、財布と相談して「Bar」の扉を開けている。新しい味わいと驚きを探しに行っている。
Bar=止まり木、tender=優しさ。心と身体が休まる場所にいる、優しい止まり木を意味するバーテンダー。
少し背伸びをして感じた新しい世界。そこは自分が想像している以上に深さと優しさで溢れる素晴らしき世界だった。
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