クラフトマン探訪/自らの最先端を楽しむ天才畳アーティスト山田憲司さん
「クラフトマン探訪」は、愛知の伝統工芸コーディネーター中村亜弓が様々な伝統のものづくりの作業場へ訪問し、クラフトマンの作品や想いなどを発信する取材記事です。
第1弾は畳アーティストの山田憲司(やまだけんじ)さん。
誰も作ったことないデザインの畳作品を作り続け、メディアにも多く取り上げられるクラフトマン。畳のポテンシャルを最大限に活かし、畳でいかに人を感動させられるのかを日々考えている山田さんの作品の特徴と今後を伺いました。
山田さんの代表作「龍の畳」
この龍、歯やヒゲの色が白く見えていますが、実は全て同じ色の畳で作られているんです。畳の“い草の目の向きよって光の反射が変わる“という性質を生かし、濃淡があるように表現しているのです。
自分の立ち位置を変えると畳に当たっている光の向きも変わるため、床の間側に立つと龍の色が反転し白龍のようにも見えます。
それは…まるでマジック!
山田さんは、この“畳の目の向きによって濃淡を表現できる“ 畳の可能性を
「畳のポテンシャル」と言い、取材中も常にポテンシャルを最大限に活かした畳作品を作りたい!と話していました。
ちなみに龍の畳は新潟県加茂市の本量寺でも見ることができます。
そもそも、この畳はどうやって作っているの?
まずは材料。
昔からの伝統的な畳は、藁を芯材とし表にい草のゴザ(畳表)を巻いて作りますが、山田さんの作品には、木製ボードの芯材に、い草や和紙の畳表を使用した畳を用いられます。
これはカットされた芯材。技術の進歩により、藁に代わる様々な工業的芯材が発明され、従来では不可能だった0.1mm単位の成形ができるようになりました。
左は“和紙”の畳表、右は伝統的な”い草”の畳表。
比較してみると目の大きさや詰まり方、均一性が違いますね。
*私的には右の方が実家を思い出して親近感を持ちますが…
和紙の畳は、色の経年変色が少なく、バリエーションも豊富!
一見畳には見えない、こんなものまであります。
次に作る工程。
通常の長方形の畳は規格が決まっているため4畳半の部屋は1〜2日で作れるそうです。
しかし山田さんの畳は、まずは現場にサンプルを持って行って、どの角度からどんな光が入ってくるのかをチェックするとことから始まります。そして畳を敷き詰めるスペースを計測し、手書きでスケッチしながら畳の目の向きをパーツごとに考慮して描く。
そして最後はパソコンのCADに落として実寸大のパーツの型紙を作成する…
ここまで、まだ畳を触ってない!
ここからの制作過程は山田さんのYouTubeを見ると大体の作業量がわかるので、ぜひ見てもらいたいです。めっちゃ早回しでどんどんパーツが出来上がっていく様子は見入ってしまいます。
この龍は初めて制作した龍で、完成までに4ヶ月かかったそうです!
そうして出来上がっていく畳はこんな感じ。
一番発注が多いのはこの直線をランダムに用いた「石型デザイン」だそうです。
これなんかリビングの一角にあって子供の遊びスペースに良い感じ!
なんだこの旅館!オシャレ!
たしかにこの空間には山田さんの畳(鱗模様)がマッチしますね〜。
「炭平別邸 季ト時」公式URL: http://www.tokitotoki.com/
次の挑戦
山田さんは、藁を芯材とした伝統的な畳も製造し、神社やお寺に納めています。
お店の裏には大きな倉庫があり、その一角に藁の芯材を作る大きなミシンのような機械がありました。
しかし、山田さんが子供の頃、倉庫の2/3を占めていた藁は、需要の不足と芯材の登場によりどんどん減り、今ではほんの一角に積んであるだけ…
右の超端っこ!
藁の畳はもう目にすることが無くなるかも…という状況にあります。
でもそれじゃ寂しい。
そこで山田さんが思いついたのは「スケルトン畳」
*スケルトン畳は私が勝手に命名したもので正式名称ではありません。
まだ試作段階ですが、中の藁が見えるように”い草”の畳表をあえて透明なゴザ風の工業製品にしたのです。
左側、藁の繊維が透けて見えるの分かりますか?
琉球畳のようにスクエアの畳の一部が、このような変わった畳でもデザインとしてアリかも知れませんね!
「畳=い草」の概念を覆す斬新なアイデアです。
畳アーティストになったきっかけ
岐阜県羽島市、昔ながらの住宅街に、山田さんが営む山田一畳店(やまだはじめたたみてん)はあります。
山田さんは1869年に創業した山田一畳店の5代目。
大学では建築を学び東京の建築事務所に就職、実は当時は畳屋を継ぐ意思はなかったそうです。
それもそのはず、畳の需要は住宅の洋風化とともに年々減少し、国内の生産枚数は2006年の2,694万枚から令和元年の250万枚と1/10以下になりました。(農林水産省:い草(畳表)をめぐる事情)
畳屋としての未来は明るくはありませんでした。
しかしある日、東京の建築事務所を3年前に退職&帰省した山田さんのところへ、地元の友人から「車の後部座席スペースに畳を敷いて欲しい」と依頼がありました。
車の形に合うように“曲線を用いた畳“を作るきっかけになった出来事です。
山田さんは制作する中で、畳のポテンシャルに気づきました。
・自由に形を作れる
・畳の目の向きによって濃淡が表現できる
・取り外しができる
畳は約1300年の歴史があるのに長方形という形がアップデートされていない…
山田さんはその可能性にピンと来ました。
その後は、次々とアイデアを生み出し、気づけば畳の魅力にすっかり虜になっていた、ということです。
山田憲司という天才は好奇心と努力の塊だった
山田さんと話して思ったのは、好奇心旺盛だということ。
そもそも友人からの依頼(車の後部座席に畳敷くやつ)も、まぁ畳屋で材料あるからやってみようか、という些細な好奇心から作ったもので、そこで畳のポテンシャルを生かしたアート作品が作れるかも!と思ったのも好奇心。
龍の畳を制作している時は、いつ完成するか分からない不安の一方で
龍なんて作れるのか、そんなことが可能なのか。
でも、まだ誰も作ったことのないものを見てみたい!
これができたらめちゃくちゃ凄くないか!?
という前向きな好奇心が手を動かしたそうです。
次なるアイデア、スケルトン畳だってそう。
「自分の作品にワクワクするんだ!」と目をキラキラさせている山田さんは少年のようでした。
しかし山田さんが本当にすごいのは…
粛々と営業活動をしているところです。
Facebook、Instagram、Twitter、YouTube等で情報を発信し、プレスリリースを有料・無料共に送っています。
リアルやオンラインの様々なコミュニティに顔を出しています。
今も1日に30件の営業メールを送っています。
海外での販売も視野に入れていらっしゃいます。
そのためには国内外でもっと認めてもらい、ブランドとして価値を高める必要性がある、という思いから…
12月に、東京で個展を自主開催します!*記事最後に情報を記載
アートとして多くの人に見ていただき、自分の作品を売り込む機会を、ひたすら創出しているのです。
今後は色々な芸術展にも積極的に応募していく考えだそうです。
「天才は1%のひらめきと99%の努力」
まさにそれが当てはまる方だと思いました。
12月の個展情報
12月の個展ですが、この記事で紹介させていただいた龍の畳も展示されますよ!
メインの展示物は私が取材した時に製作していた六角形の畳。
これはいわゆる点描の「点」を「畳」で表現するものです。
全く同じ六角形の畳を1000個作って、それぞれの畳の目の向きを変えることで濃淡による絵を浮かび上がらせる作品です。
これで200個弱。
完成するとこんな絵が出来上がるそうです↓
しかも、展示中に“各パーツの畳の目の向きを変えて絵を変化させていく“ライブパフォーマンスも予定しているそう。
音楽をかけながら、お客様の目の前で山田さんが畳をくるくる動かす、絵が変わっていく!面白いことを考えますね〜。
同じものを作るのだから作業効率はいいのかな、と思いましたが、
逆に精度が求められる作品になるため、常に緊張しながら製作しているそうです。
作りながら気づく改善点もあり、なかなか思うように進まないそうです。
12月までに1000個の完成、そしてライブパフォーマンスの練習、
大変だと思いますが頑張ってください!
山田憲司さんの個展情報 ↓↓↓
「東京芸術オリンピック2020」
2020年12月16(水)〜12月20日(日)
弘重ギャラリー
長文お読みいただきありがとうございました。
伝統産業の世界では
『ここが代々続いてきたのは、新しいことに挑戦してしてきたから』
という言葉をよく聞きます。
「自分の未知の作品にワクワクする」と語る山田さんを見ていると、
“伝統の重みを背負って“というより“伝統の最先端を楽しみながら“新しいことに挑戦しているように感じました。
まだまだアイデアはたくさんあるみたいなので、今後どんな「最先端の畳」を生み出すのか楽しみですね!
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