請負と準委任について(民法改正のお話)

「民法」が大きく変わります。一般には、成年年齢(20歳から18歳)の引き下げや相続に関する改正が取り上げられていますが、契約関係の部分で、100年以上変わらなかった部分が大きく変わることになります。

いくつかの会社で法務担当として、勤務してきた経験があります。
いずれの会社においても、システム開発の業務委託契約のチェックの依頼があります。

業務委託といっても法律上名前のある契約(専門用語では「有名契約」といいます。)としては請負か準委任に分類されます。
請負なのか、準委任なのか、法律的にどちらかに決めておかないと、何か気持ち悪いという理由なのか、何か起こったときどうするのかという漠然とした不安が原因なのか、分からない部分はありますが、依頼者のこだわりが強く、依頼者としては請負か準委任かを何とか区別しようとして、ともすればこれは請負なのか、準委任なのかと詰め寄られることもあります。
ただ、法律実務の観点からすれば、請負も準委任も「他人から依頼を受けて、仕事をする」という意味では同じですし、契約は法令で制限がない限り、自由に内容を決められることが原則です。
そのため、内容を適切に契約書で記載している以上、事実上、請負か準委任かはそれほど問題とならないことになります。このことが、今回の民法改正でより明確となったと考えます。

なぜ請負と準委任の区別に実益がない場面が多いのか、民法で定められている請負と準委任の定義や要件、効果の違いなどからご説明します。

現行法での請負と準委任の違い

請負とは、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」(民法第632条)とあります。
すなわち、請負とは、①ある仕事を完成することを条件に②その結果に対して報酬を支払うことになります。
他方、準委任とは文字通り委任に準ずるものです。
本来委任は、「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」(民法643条)ことです。
「法律行為」を他人に依頼する、例えば、不動産を売る場合の意思表示(売るのか売らないのか価格はどうするか)や契約の取りまとめを代わりにお願いすることを指します。
(※法律行為は、一個または数個の意思表示を法律事実たる要素とし、それによって一定の法律効果を生じる行為です。法律的な効果を生み出そうとする行為と言い換えてもよいでしょう。)

システム開発などは、何か法律的な効果を生み出そうとする行為ではなく、作業をすることがメインです。すると、本来の委任の定義には当てはまらないことになります。ただ、何が法律行為で何が法律行為ではない(事実行為)のかはっきりしない場合もあります。先ほどの不動産を売る例でいえば、価格はいくらで売りたいなどの交渉をして合意するところまでは、法律行為と言えますが、不動産を買主に引き渡す行為についてはそれだけでは法律行為とはいえません。他方、契約書を作成する行為は法律的な効果を生み出そうとする行為と言えなくもなく、契約書を作らなかったところで、契約が成立しないわけでもありません。(契約書を作成しないと契約の成立を証明するのはなかなか難しいので契約書を作ることが多いのです。)
そこで、法律行為でなくても、委任に似た行為があるという場合を考えて、「この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。」(民法656条)として、「準委任」として委任の規定を準用して対応するということを明記しています。

請負は、①仕事を完成させたことで、②報酬が支払われるという形になっています。他方、準委任は、事務の依頼と受任が条件となっており、特に報酬も仕事の完成とも条件ではありません。報酬は特に定めがなければ受け取ることはできません。委任は、もともと高度な事務を代わりにやってもらうことから、(現在では少々違和感はありますがローマ時代の名残で)下位の者が上位者にお願いするという性質とされており、委任事務に対して報酬を支払う、その結果に責任を取るという概念がなかったとも言われています。
このことから、請負と準委任では、仕事の完成義務があるか、報酬がいつ支払われるかという点が異なることになります。(また、細かいところでは、請負の場合仕事を行う際の費用は基本的に請負側が負担し、委任の場合は、仕事を行うのにかかった費用を依頼者に請求できる(民法第649条、第650条、以下法律名の記載がなければ条文は「民法」とします)請負の場合、条文上、仕事が完成しない限り報酬は支払われません(第633条)が、準委任の場合は、条文上、基本的には仕事が終わってからの報酬の支払(第648条第2項)ですが、仕事が途中で終了しても受任者の責任でない場合はその仕事した量や期間に応じて報酬を請求することができます(民法第648条第3項)。
請負の途中で、仕事が完成できなくなった場合の報酬は全くもらえないとすると、あまりに不公平なことがあります。
例えば、メインのプログラムもUIも完成していて、あとはUIの色味だけ整えれば完成というレベルまで仕上がったような90%以上仕事が完成したケースです。
プログラムとして使用はできるのですが、仕事は「完成していない」という状態です。もちろん使えるものなので、仮に納品してもそれほど問題にはならないでしょう。
そのような場合にも、一切納品を受けないし、報酬も払わないでは、さすがに非効率的ではないかと思います。
条文上請負は、仕事の完成と報酬支払が同時であるとしていますが、実際紛争になれば不当利得(第703条)などの条項があるために、結局中途の報酬と同様の金額を請求できる余地もあるので、実際のところは、準委任と変わりがない形になります。
(第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。)

現状の業務委託契約書に一般的には報酬の定めや報酬の支払い時期やについて定めのないものはほとんど見受けられませんので、結局、口頭で約束をしてその約束の詳細が証明できない場合に請負か準委任かが問題となります。

ちなみに、契約書のタイトルに契約の区別(例えば、「請負契約書」、「準委任契約書」など)を記載しておけば、その契約書の記述の内容にかかわらず、タイトル通りの請負、準委任契約の効果を認められるのかというと、そうとは限りません。
すなわち、仮に、「請負契約書」と書いてあっても、「時間当たりいくら、その時間作業した分だけお支払いします、成果物はなし。」という内容であれば、「請負」とは判断されにくくなるでしょう。

契約自由の原則

民法の根底には、「契約自由の原則」という原則があります。契約自由の原則とは、法令の制限がない限り契約の内容と契約をするか否かを自由に決定することができる原則です。今までも民法の一番大きな原則でしたが、今回の民法改正で条文に明記された形です。
この原則からすると「民法」の条文は当事者間の合意の内容を補完するという形で適用されることになります。当事者の合意が先にあって、合意がなされていない部分をどのようなルールに当てはめるかというスタンスです。
ただ、当事者間の契約で一方があまりに不利であったりすれば、他の法令(消費者契約法、下請法など)で契約が修正されたり一部無効となったりすることになります。
消費者契約法であれば、消費者に不利な契約はその不利な部分について無効になりますし(消費者契約法第8条から第10条まで)、下請法(下請代金支払遅延等防止法)では、第4条等で親事業者が禁止される事項があり、この禁止事項に該当する内容について契約することはできません。

民法改正後の請負と準委任の違いについて

請負も準委任も、報酬の支払い時期は目的物の引き渡しを目的とするのであれば、目的物の引き渡しと同時(請負は第633条、準委任は第648条の2に規定、準委任は第656条で委任の規定を準用。以降の条文は改正後のもの)となりますし、目的物を引き渡さない場合は業務が終了した後(請負は第633条、準委任は第648条に規定)となります。また、一部だけ業務を行った場合の報酬についても請負では第634条、準委任では第648条、第648条の2に事実上同じ内容の規定があります。請負も準委任も不履行の責任の制限は、請負では第637条、第638条に、準委任は報酬の定めがあれば、有償契約なので、売買の規定を準用(第559条)するため、売買と同じく第566条、第562条などに請負の場合と同様の規定があります。

注意

「請負」とした場合に一点だけ問題があるとすれば、何か不具合があった場合でも仕事の目的物(成果物)を引き渡したあと、現在の民法では1年経過すれば、原則責任を負うことはありません(民法第637条)でしたが、今後は1年経過したのちでも債務不履行としての責任を負うことになりますので、引き渡し後〇か月(1年)以内に請求があった場合は責任は負いますが、その後は責任を負いませんという条項は入れておく必要はあるかと思います。基本的にこの条項も入っている契約書もあるのであまり変更する必要はないのかとも思います。

結論


ここまで、請負と準委任について色々と説明しましたが、今回の民法改正で、請負と準委任の違いがほぼ薄れていることがお分かりになられたのではないかと思います。
今後は、請負か、準委任かという区別より、契約書の具体的な条文の内容を読み込んで、どのような契約になっているのかを判断する必要がますます出てくるのではないかと思います。


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