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【裁判例メモ】商標権:審決取消訴訟(商標法第4条1項11号(商標の類否)(知財高判令和5年3月9日(令和4年(行ケ)第10122号))

第1 商標の類否の判断基準

1 裁判実務

商標の類否について、最判昭和43年2月27日(民集22巻2号399頁【氷山印事件】)は、次のとおり判示した。

「商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観観念称呼等によつて取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする」
「商標の外観,観念または称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,従って,右三点のうちその一において類似するものでも,他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によつて,なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解すべきではない。」

また、商標権侵害訴訟においても、最判平成9年3月11日(民集51巻3号1055号【小僧寿し事件】)は、氷山印事件を引用しながら、次のとおり判示した。

「商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標が外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。右のとおり,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,右3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違するか,又は取引の実情等によって,何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては,これを類似商標と解することはできないというべきである」

2 判断要素

(1)総論

商標の類否の判断においては、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるかどうかによって判断し、その判断にあたっては、商標の外観、観念、称呼等を取引の実情を考慮して総合的に考察することになる。

(2)判断主体

取引者又は需要者

(3)外観

商標の外観的形象

(4)観念

商標から生ずる意味内容(例:「天使のスィーツ」、「エンゼルスィーツ/Angel Sweets」のいずれからも、「天使の甘い菓子」、「天使のような甘い菓子」という観念が生じるとした裁判例(知財高判平成21年7月2日判時2055号130頁)。)

(5)称呼

商標の呼び方・発音

(6)取引の実情

商標登録の場面、すなわち、商標法4条1項11号に該当するか否かの場面において、取引の実情について、どのような事情を考慮することができるか。

最判昭和49年4月25日(昭和47年(行ツ)第33号【保土谷化学工業事件】)において、次のとおり判示した。

「商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実情とは,その指定商品全般についての一般的,恒常的なそれを指すものであつて,単に該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的,限定的なそれを指すものではない」

しかし、保土谷化学工業事件を引用する裁判例もあるものの、その後の裁判例においては、出願商標、引用商標の使用態様、周知著名性を考慮するものも存在する。
知財高判平成22年8月19日(平成22年(行ケ)10101号【サクラサク事件】)では、次のとおり判示し、それぞれの使用態様を考慮した。

「本件商標は,受験シーズンに専らキットカット商品に用いられ,このことはよく知られており,本件商標の付されたキットカット商品はかなりの売上げを示しており,他方で,引用商標は,受験シーズンに関係なく,袋菓子や焼菓子などに用いられていることが認められる」
「このように,本件商標が用いられたキットカット商品が,受験生応援製品として持つ意味合いは大きいものと認められ,このような本件商標の用いられたキットカット商品と,そのような意味合いの薄い引用商標が用いられた袋菓子等との間で誤認混同が生じるおそれは非常に低いものと認められる」

3 要部観察

商標の類否の判断においては、原則として、商標の外観、観念、称呼等を総合して全体的に観察する。
もっとも、商標の構成要素のうち、取引者・需要者の注意を引く部分とそうでない部分があるときは、注意を引く部分を要部として抽出して観察する方法も行われる(要部観察)。
指定商品の普通名称に過ぎない部分(例:指定商品をゼリーとした場合に、商標の構成要素に「ゼリー」を含む場合)、商品の原材料や性質を表示にするに過ぎない部分については、当該部分以外が要部とされることが多い。

第2 本件の概要

本件は、商標登録出願の拒絶査定についての不服審判請求を不成立とした審決(以下「本件審決」とする。)の取消訴訟である。

①本願商標
商標:「朔北カレー」
指定商品:第29類「レトルトパウチされた調理済みカレー、カレーのもと、即席カレー、カレーを使用してなる肉製品、カレーを使用してなる加工水産物、カレーを使用してなる加工野菜及び加工果実、カレーを使用してなるなめ物」

②引用商標
商標:「サクホク」(標準文字)
指定商品:第29類「乳製品、肉製品、加工水産物、加工野菜及び加工果実、油揚げ、凍り豆腐、こんにゃく、豆乳、豆腐、納豆、加工卵、カレー・シチュー又はスープのもと、レトルトパウチされたカレー・シチュー・みそ汁・スープ、豆」及び第30類
特許庁は、次のとおり本件審決をした。

1 要部観察・称呼・観念

 本願商標の構成中「朔北」の文字は「北。北方。」等の意味を有する語(「広辞苑第七版」株式会社岩波書店)であるものの、我が国において一般に親しまれた語とはいい難いものであって、直ちに特定の意味合いを想起させることのない一種の造語として認識されるものである。また、「カレー」の文字は「カレー粉を用いて作った料理。」等の意味を有する語(前掲書)である。
 特定の意味合いを想起させることのない一種の造語として認識される「朔北」の文字は、本願の指定商品との関係においては、「カレー」の文字よりも自他商品の識別力が高く、取引者、需要者に対して強く支配的な印象を与えるものといえる。そうすると、本願商標の構成中、「朔北」の文字部分と「カレー」の文字部分とを、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められないから、本願商標から「朔北」の文字部分を要部として抽出し、この部分のみを他人の商標(引用商標)と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである。
 したがって、本願商標は、全体の構成文字に相応して生じる「サクホクカレー」の称呼のほかに、その要部である「朔北」の文字部分(以下「本願要部」ということがある。)に相応して、「サクホク」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

2 引用商標の称呼・観念

 引用商標は、「サクホク」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合い想起させることのない一種の造語と認識されるものである。したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「サクホク」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

3 本願要部と引用商標の類否

 本願要部と引用商標とを比較すると、外観については、構成文字の種類及び数において差異を有するものであるものの、両者はともに一般的な書体で表されたものである。
 次に、称呼については、両者は共に「サクホク」の称呼を生じるから、両者は称呼において同一である。
 そして、観念については、共に特定の観念を生じないものであるから、両者は観念において比較することができない
 以上からすると、本願要部と引用商標とは、外観においては、両者は、文字の種類が漢字と片仮名とで異なり、文字数も相違するものであるが、ともに一般的な書体で表されているものであって、称呼においては、本願要部と引用商標から生じる「サクホク」の称呼を共通にするものであり、観念においては、両者は、いずれも特定の観念を生じないから、比較することができないものである。
 そして、商標の使用においては、商標の構成文字を同一の称呼が生じる範囲内で漢字、片仮名及びローマ字等の文字の種類を相互に変換して表記することが我が国において一般的に行われている取引の実情があることに加え、特定の観念を有しない文字商標においては、観念において商標を記憶できず、称呼において記憶し、これを頼りに取引に当たることが少なくないというのが相当である。
 以上によれば、本願要部と引用商標は、両者の外観が相違し、観念において比較できないとしても、上記取引の実情を考慮すると、これが、取引上必要な役割を果たす称呼についての共通性を凌駕するほどには顕著なものとは認められないものであるから、本願商標と引用商標は、その外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すると、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。
 したがって、本願商標と引用商標とは、互いに紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。

4 指定商品の類否

 本願の指定商品中「レトルトパウチされた調理済みカレー、カレーのもと、即席カレー」と引用商標の指定商品中「カレー・シチュー又はスープのもと、レトルトパウチされたカレー・シチュー・みそ汁・スープ」とは、その需要者、原材料、用途、販売場所、流通経路等を共通にするものであるから、両商品は同一又は類似の商品である。また、本願の指定商品中「カレーを使用してなる肉製品、カレーを使用してなる加工水産物、カレーを使用してなる加工野菜及び加工果実」は、引用商標の指定商品中「肉製品、加工水産物、加工野菜及び加工果実」に含まれるものであるから、両商品は同一又は類似の商品である。

5 結論

 本願商標と引用商標とは、互いに紛れるおそれのある類似の商標であり、かつ、本願の指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似のものである。したがって、本願商標は、商標法4条1項11号に該当する。

第3 原告の主張

1 「朔北」の語義について

 「朔北」の語は、一般的国語辞典の代表である平成30年発行の「広辞苑第七版」(甲6)のみならず、「幅広い読者層の要望に応じられる小辞典」たる国語辞典(甲7)や「現代人の言語生活に欠かせない語を厳選」した国語辞典(甲22)その他の国語辞典(甲27~33)に加え、各種漢和辞典(甲8、9)にも掲載されている熟語である。具体的には、「朔北」の語義は、「北。北方」、「北方の地。特に、中国の北方にある辺土」(甲6、22)とされるほか、「きた。北方。特に中国の北方に連なる辺境地方」(甲7)、「北。北方。北方の辺境の地」(甲8)、「北の方角。」「中国北西の異民族の地」(甲9)とされる。
 しかも、表意文字である漢字で表記されており、日本人であれば、構成漢字の意味から「北方」や「荒涼たる北の辺地」、「北方の辺境の地」といったイメージを持つことは十分可能である。なお、「朔」は、国語辞典では、「(「朔」は北の方角)」、「太陰暦の一日(注:ついたち)」、「新月」(甲6)、「月の第一日。ついたち。新月」、「北方」等とされ(甲7)、萩原朔太郎の名や果物の「八朔」でも用いられ、親しまれている文字である。「北」は、「四方の一つ。日の出る方に向かって左の方向」(甲6)、「方角の一。北極点への方角」(甲7)等のように、方角の北を指す語である。
 「世界的なゲームシリーズの一つ」である「ファイナルファンタジーシリーズ」(甲10)の「ファイナルファンタジーXI」(甲11)のイベントクエストにおいて、「朔北の爪牙」(甲12、13)の名称が用いられ、「北方へ出兵」するイベントが用意されている(甲12)。また、「清の初代皇帝、英雄・ヌルハチの生涯」を描いた小説の題名として、「ヌルハチ朔北の将星」(甲14)等もあり、ゲームや文学の世界においても、「朔北」の語が「北方」や「荒涼たる北の辺地」、「北方の辺境の地」等の情景イメージを想起するものとして使用されている。

2 分離観察について

 本件審決は、本願商標を「朔北」と「カレー」に分離して観察して類否判断を行ったが、その手法には誤りがある。
 本願商標は「朔北」と「カレー」の2語から構成される結合商標といえるが、「朔北カレー」の5文字を各文字の大きさ及び書体を同一にして、その全体が等間隔に一行でまとまりよく表示されているものであるから、本願商標の構成中「朔北」の部分だけが独立して見る者の目を惹くように構成されていない。本願商標の称呼「サクホクカレー」は僅か6音であり、語調良く淀みなく発語し得る音構成であるから、敏活を貴ぶ商取引においても、殊更「カレー」の部分だけを省略称呼すべき必然性はない。さらに、「朔北」は、「北方」や「荒涼たる北の辺地」、「北方の辺境の地」等の情景イメージを想起するものと言えるので、本願商標「朔北カレー」は、「朔北」の語の情景イメージや観念に、温かく香辛料の効いた「カレー」の観念が結びついて、「北方の寒冷地で食する香辛料の効いた温かいカレー」等の観念やイメージが生ずるものであって、本願商標において、「朔北」と「カレー」の語は、観念的に関連して、不可分に結合しているといえる。「カレー」の部分を省略すると観念が変わってしまうことは、多数の「カレー」を含む商標の登録事例(ボンカレー、ククレカレー、五十六カレー等)に照らしても明らかである。
 そうすると、本願商標については、「朔北」の部分が「強く支配的な印象を与える」ものではなく、その称呼の短さに加え、「朔北」と「カレー」の各語の観念的結合により本願商標の観念やイメージを想起させる効果を発揮していることからすれば、簡易迅速を貴ぶ商取引においても、各構成部分を分離して観察することは取引上不自然であり、本願商標全体として一体不可分である。
 従って、本願商標の構成から「朔北」の部分だけを分離抽出して観察し、引用商標との類否を判断することは許されない。

3 本願商標の観念

 本願商標は、その漢字部分「朔北」から「北方」や「荒涼たる北の辺地」、「北方の辺境の地」等の情景イメージを想起するものであり、「朔北カレー」の全体で、「北方の寒冷地で食する香辛料の効いた温かいカレー」等の観念やイメージを生ずる。また、本願商標の使用態様(甲5:商品パッケージ)からは、「「北方の地」である北海道名寄市所在の「陸上自衛隊名寄駐屯地」において自衛隊員が愛好するカレー」等の観念を生じ、「北方の辺地である名寄駐屯地で自衛隊員が暖を取りながら食するカレー」とのイメージを想起し得るものである。

4 引用商標について

 「サクホク」は、確かに国語辞典等に掲載されている用語ではないものの、指定商品との関連でいえば、「サクホク」という仮名表記から「サクサク(さくさく)」や「ホクホク(ほくほく)」の擬音語を想起し得るといえる。
 そして、「さくさく」(サクサク)は、「菓子・果物・野菜などの嚙みごこちや切れ方が小気味よいさま」(甲6)、「歯切れのよいものを軽快にかむ音」(甲7)をいうとされる。「ほくほく」(ホクホク)とは、「ふかしいもなどが水気が少なくて、おいしいさま」(甲6、7)であり、擬音語としては、「火を通した澱粉質の実が水分が少なくて柔らかく、おいしいようす」(甲15の305頁)とされる。
 ところで、擬音語の形態として、「二拍の語根の繰り返し」「に似て類音のものを重ねるもの」があるところ(甲15の16頁)、味覚に関する擬態語は、「口の中に感じる触覚の違いを表す」ものであるが(甲15の18頁)、子音の「k」は「堅いことを表し」、「s」は「摩擦感のあること」、「h」は「抵抗感のないこと」を表すとされる(甲15の20頁)。そして、「さくさく」と「ほくほく」とは、二拍で「く(ku)」の音が共通しており、双方の「語根」は類音といえるので、これを重ねた「さくほく(サクホク)」という擬態語・擬音語は、食品(特に具材等)を食べる際に「口の中に感じる触覚」を表す言葉(造語)として生じ得る。「さくほく(サクホク)」の「さく(サク:saku)」は、ある程度堅さを有する食材を噛んだ際の摩擦感を示し、「ほく(ホク:hoku)」は、ある程度堅さを有する食材を抵抗感なく噛む歯触りの感覚を示すともいい得る。
 この点、引用商標の商標権者であるカルビー株式会社(以下「カルビー」という。)が、自社製品(ジャガイモの加工菓子)について、「サクサク、ほくほくとした食感」、「サクホク食感」(甲16)と表現しており、「サクサク」と「ほくほく」の食感を併せた擬音語、換言すると、「ク(ku)」の音が共通して類音である「二拍の語根の繰り返し」をさせた擬音語である「サクホク」という言葉が造語されているといえる。
 このほかにも、カルビー製品(ジャガイモの加工菓子)について、需要者が、「サクホクの食感」(甲17)、「熱々サクホクの揚げたての「じゃがりこ」」(甲18)、「さっぱりサクホク-カルビー」、「さっぱりサクホク」、「そしていつものあのサクッホクッとした食感」(甲19)、「厚切りでサクホクっという食感」(甲20)、「サクホクで最高だったなぁ」(甲21)と表現した例があり、温かくて「サク(サクッ)」とした歯ごたえとともに「柔らかい」食感を表す擬音語としての「サクホク」を、需要者が多用していることがうかがわれる。
 他方、カルビーは、東京都千代田区に所在し、全国的にスナック菓子等の加工食品類を販売している企業であって、「朔北」を想起させる事業体ではない。「サクホク」の文字構成や称呼から「朔北」の熟語を想起せることもない。エしたがって、引用商標からは、温かくて「サク(サクッ)」とした歯ごたえとともに「柔らかい」食感を表す擬音語「ホク(ホクッ)」としての観念やイメージが生じ得るが、「朔北」との観念は生じ得ない。

5 本願商標と引用商標の類否

(1)外観
 本願商標は「朔北カレー」の5文字を同書同大等間隔にまとまりよく横一連に表記した構成であるのに対し、引用商標は片仮名4文字の「サクホク」を同書同大等間隔に横一連に表記したものである。
 本願商標と引用商標とは、文字数や文字構成が異なるほか、表意文字である漢字を含んでいるかどうかにおいても外観上顕著に相違する。
(2)称呼
 本願商標は「サクホクカレー」の6音構成であり、引用商標は「サクホク」の4音構成であるところ、冒頭の4音「サクホク」は共通するものの、「カレー」の2音で相違する。相違音「カレー」は、語末に位置するものではあるが、有声音であり、4~6音程度の音構成において2音の相違は大きく、互いに相紛れることなく聴別可能であって、称呼は非類似である。
(3)観念
 本願商標は、その漢字部分「朔北」から「北方」や「荒涼たる北の辺地」、「北方の辺境の地」等の情景イメージを想起するものであり、「朔北カレー」の全体で、「北方の寒冷地で食する香辛料の効いた温かいカレー」等の観念やイメージを生ずる。
 また、本願商標の使用態様(甲5:商品パッケージ)からは、「「北方の地」である北海道名寄市所在の「陸上自衛隊名寄駐屯地」において自衛隊員が愛好するカレー」等の観念を生じ、「北方の辺地である名寄駐屯地で自衛隊員が暖を取りながら食するカレー」とのイメージを想起し得るものである。
 これに対し、引用商標からは、食感を表す擬音語「サクサク」と「ホクホク」を想起するとともに、その合成造語「サクホク」として、温かくて「サク(サクッ)」とした歯ごたえとともに「柔らかい」食感を表す擬音語としての観念やイメージが生じ得るので、本願商標とは観念が相違する。仮に引用商標が特段の観念を生じない造語商標であったとしても、本願商標とは観念が共通するとはいえない。
(4)「朔北」と「サクホク」との対比
 仮に本願商標から「朔北」の部分を商標の要部として分離して観察することが可能であるとしても、表意文字である漢字「朔北」と、表音文字である片仮名「サクホク」とは、外観及び観念において顕著に相違するので、称呼が共通するにしても、なお相互に非類似の商標というべきである。

第4 裁判所の判断

1 商標の類否について

 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。そして、商標の外観、観念又は称呼のうちの一つにおいて同一又は類似する場合であっても、他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって、商品の出所に誤認混同をきたすおそれのないものについては、これを類似商標と解することはできない(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
 また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

2 本願商標について

(1)「朔北」について
(略)・・・我が国においては、「朔北」はおおむね「北の方角」又は「北方の地」を表す単語として理解されるものと認めるのが相当である。

(2)「カレー」について
 本願商標の指定商品との関係では、需要者、取引者は、商品の性質又は原材料を表すものと理解すると認められ、当該部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じるということはできない。

(3)分離観察の可否について
 本願商標は「朔北」と「カレー」からなる結合商標であるところ、前記のとおり、「カレー」の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じるということはできない一方で、「朔北」については、需要者、取引者をして、「北の方角」又は「北方の地」を表す単語として理解されるにすぎず、具体的な地域を表すものと理解されるものではないから、指定商品との関係において、出所識別標識としての称呼、観念が生じ得るといえる。そして、需要者、取引者をして、「朔北カレー」を一連一体のものとしてのみ使用しているというような取引の実情は認められない
 そうすると、本願商標について、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないから、「朔北」の部分のみを抽出して他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。

3 本願商標と引用商標の類否

(1)外観
 本願要部は「朔北」という2文字の漢字からなるのに対し、引用商標は「サクホク」の4文字の片仮名からなり、外観が明らかに異なる
(2)称呼
 本願要部の称呼は「さくほく」であり、引用商標の称呼も「さくほく」であるから、同一である。
(3)観念
 本願要部からは「北の方角」「北方の地」の観念を生じるものであるのに対し、「サクホク」は、辞書等に掲載されていない造語であって、特定の観念を生じないものであるから、観念が明らかに異なる

 以上のとおり、本願要部と引用商標は、称呼が共通するものの、外観及び観念は明確に異なっているところ、需要者、取引者が「朔北」から引用商標である「サクホク」や引用商標の権利者を想起するというような取引の実情はなく、また、本願商標及び引用商標の指定商品において、需要者、取引者が、専ら商品の称呼のみによって商品を識別し、商品の出所を判別するような実情があるものとは認められず称呼による識別性が、外観及び観念による識別性を上回るとはいえないから、本願商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。
 そうすると、本願商標が引用商標に類似するとはいえない。

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