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【裁判例メモ】商標権:審決取消訴訟(商標法第4条1項11号(商標の類似性、指定商品等の類似性))(知財高判令和5年1月31日(令和4年(行ケ)第10090号))

※商標の類似性に関する主張・判断については、割愛


第1 商品・役務の類否の判断基準について

1 裁判実務の考え方

リーディングケースとなる橘正宗事件最高裁判決(最判昭和36年6月27日民集15巻6号1730頁)は、商品・役務の類否の判断基準について、下記のとおり、判示している。

「商標が類似のものであるかどうかは、その商標を或る商品につき使用した場合に、商品の出所について誤認混同を生ずる虞があると認められるものであるかどうかということにより判定すべきものと解するのが相当である。そして、指定商品が類似のものであるかどうかは、原判示のように、商品自体が取引上誤認混同の虞があるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞があると認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互に誤認混同を生ずる虞がないものであつても、それらの商標は商標法(大正一〇年法律九九号)二条九号(※旧法第2条9号)にいう類似の商品にあたると解するのが相当である」
「本件においては「橘正宗」なる商標中「正宗」は清酒を現わす慣用標章と解され、「橘焼酎」なる商標中「焼酎」は普通名詞であるから、右両商標は要部を共通にするものであるのみならず、原審の確定する事実によれば、同一メーカーで清酒と焼酎との製造免許を受けているものが多いというのであるから、いま「橘焼酎」なる商標を使用して焼酎を製造する営業主がある場合に、他方で「橘正宗」なる商標を使用して清酒を製造する営業主があるときは、これらの商品は、いずれも、「橘」じるしの商標を使用して酒類を製造する同一営業主から出たものと一般世人に誤認させる虞があることは明らかであつて、「橘焼酎」なる商標が著名のものであるかどうかは右の判断に影響を及ぼすものではない。それ故、「橘焼酎」と「橘正宗」とは類似の商標と認むべきであるのみならず、右両商標の指定商品もまた類似の商品と認むべきである。」

2 商標審査基準の考え方

特許庁編「商標審査基準〔改訂第15版〕」第3・十・11・20頁によれば、商品又は役務の類否判断の基準については、以下のとおりである。

「商品又は役務の類否は、商品又は役務が通常同一営業主により製造・販売又は提供されている等の事情により、出願商標及び引用商標に係る指定商品又は指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるかにより判断する。
(1) 商品の類否について
商品の類否を判断するに際しては、例えば、次の基準を総合的に考慮するものとする。この場合には、原則として、類似商品・役務審査基準によるものとする。
① 生産部門が一致するかどうか
② 販売部門が一致するかどうか
③ 原材料及び品質が一致するかどうか
④ 用途が一致するかどうか
⑤ 需要者の範囲が一致するかどうか
⑥ 完成品と部品との関係にあるかどうか
(2) 役務の類否について
役務の類否を判断するに際しては、例えば、次の基準を総合的に考慮するものとする。この場合には、原則として、類似商品・役務審査基準によるものとする。
① 提供の手段、目的又は場所が一致するかどうか
② 提供に関連する物品が一致するかどうか
③ 需要者の範囲が一致するかどうか
④ 業種が同じかどうか
⑤ 当該役務に関する業務や事業者を規制する法律が同じかどうか
⑥ 同一の事業者が提供するものであるかどうか

(3) 商品役務間の類否について
商品と役務の類否を判断するに際しては、例えば、次の基準を総合的に考慮した上で、個別具体的に判断するものとする。この場合には、原則として、類似商品・役務審査基準によるものとする。
① 商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか
② 商品と役務の用途が一致するかどうか
③ 商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか
④ 需要者の範囲が一致するかどうか
(4) 商品又は役務の類否判断における取引の実情の考慮について
本号に該当する旨の拒絶理由通知において、引用した登録商標の商標権者(以下「引用商標権者」という。)から、引用商標の指定商品又は指定役務と出願商標の指定商品又は指定役務が類似しない旨の陳述がなされたときは、類似商品・役務審査基準にかかわらず、出願人が主張する商品又は役務の取引の実情(ただし、上記(1)から(3)に列挙した事情に限る)を考慮して、商品又は役務の類否について判断することができるものとする。」

第2 本件について

1 事案の概要

原告は、令和元年12月5日、「HEAVEN」の文字を標準文字で表してなる商標(以下「本願商標」という。)について、第43類に属する願書記載の役務を指定役務とする商標登録出願をしたところ、拒絶理由通知、手続補正書の提出を経て、令和3年8月6日付けの拒絶査定を受けたため、同年11月9日、拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は、上記請求について、令和4年7月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。
原告は、令和4年8月22日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2 本件審決の概要

本件審決では、「本願商標は、本願の出願日前の商標登録出願に係る別紙2の構成からなる登録商標(商標登録第6026916号。出願日・平成29年6月6日、登録日・平成30年3月16日、指定役務・第43類「インドカレー・インド料理の提供」。以下「引用商標」という。)と類似する商標であり、本願商標の指定役務中「ホストクラブにおける飲食物の提供又はこれに関する助言・相談若しくは情報の提供」は、引用商標の上記指定役務と類似の役務であるから、本願商標は、商標法4条1項11号に該当し、登録することができない」とされた。その理由については、下記のとおりである。

⑴引用商標を構成する「インドカレーヘブン」の「インドカレー」の文字は、その指定役務との関係で提供される対象物を表したにすぎないから、識別力を有しないか又は極めて弱い。また、その下の「Heaven」の欧文字は、看者に強い印象を与えるものであり、図形部分や他の文字部分とは視覚上分離して認識されるものである。さらに、当該欧文字は、引用商標の指定役務との関係において、自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものであって、図形部分や他の文字部分と常に一体不可分のものとして認識しなければならない関連性は見いだせない。そうすると、引用商標の構成中の「Heaven」の欧文字を要部として抽出し、本願商標と比較して商標の類否判断をすることも許される。本願商標と引用商標とは、外観において相紛らわしく、称呼及び観念を共通にするものであるから、両者は相紛れる類似の商標と判断するのが相当である。
⑵本願商標の指定役務中、第43類「ホストクラブにおける飲食物の提供又はこれに関する助言・相談若しくは情報の提供」と、引用商標の指定役務である第43類「インドカレー・インド料理の提供」とは、提供する店舗の形態が異なる場合があるとしても、共に、飲食物を提供することに変わりはなく、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務は、類似する。
⑶よって、本願商標は、引用商標と類似する商標であって、かつ、引用商標の指定役務と類似する役務について使用をするものであるから、商標法4条1項11号に該当する。

3 原告の主張

(1)指定役務の類似性の判断に誤りがあることについて
ア 提供の手段、目的及び場所について
 本願商標の指定役務は、ホストクラブにおいて提供されるものであるところ、ホストクラブは接待型の飲食店であるから、接待を伴う飲食が役務提供の主たる手段及び目的であり、営業地域は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)の下で厳格に規制される。これに対し、引用商標の指定役務は、単に通常の食事を提供することを手段及び目的とするものである。そうすると、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務の提供の手段、目的及び場所が異なる。
イ 需要者について
 本願商標の指定役務の主たる需要者は、ホストクラブの店員による接待を求める女性であるが、引用商標の指定役務の需要者は、通常の食事として単にインドカレー及びインド料理を食することを目的とする者である。
ウ 宣伝広告について
 本願商標の指定役務については、そのウェブサイト及び店舗前等において、在籍するホスト(男性店員)を前面に出して宣伝及び紹介する手法が取られることが一般的であるのに対し、引用商標の指定役務については、ウェブサイトや店舗前等において、提供されるインドカレー及びインド料理を訴求し、掲示することが一般的である。
エ 価格帯について
 引用商標の指定役務については、食事として平均的な価格が想定されるが、本願商標の指定役務の価格帯は、少なくとも数万円であり、注文内容によっては100万円を超える場合もあり、一般に、高額である。
オ 店舗の外観及び内装について本願商標の指定役務が提供される店舗前には、在籍する店員の写真が掲示されており、内装は、極めてきらびやかなものである。これに対し、引用商標の指定役務が提供される店舗前には、メニューは掲示されるが、店員の写真は掲示されず、内容は飲食店として標準的なものである。
カ 規制法について
 本願商標の指定役務が提供されるのは接待型の飲食店であり、風営法による厳しい規制を受けるものであって、その営業にあたり、公安委員会の許可を要するものである。
キ 提供に関連する物品について
 本願商標の指定役務には、顧客と店員とのコミュニケーションが取りやすくなるようなテーブル、ソファ、食器や、きらびやかな内装、顧客を接待する店員やこれをサポートする店員との連絡がスムーズに行われるような通信手段及び設備が関連する。他方、引用商標の指定役務に関連する物品は、インド料理調理用の設備、食器等であり、両者には相違点が多い。
ク 同一の事業者が提供することが通常であるかについて
 インドカレー及びインド料理の提供を業とする事業者が、インドカレー等の店舗に加え、わざわざコスト及び労力をかけて、厳しい要件を必要とする公安委員会の許可を得て、ホストクラブの営業をも行うのが通常であるとの事実や取引の実情は存在しない。
ケ 役務の類似性についてのまとめ
 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務とで一致する要素はなく、両役務が、通常同一事業者によって提供されているなどの事情はないから、両役務を類似と判断すべき理由がない以上のとおり、本願商標と引用商標とを、それぞれその指定役務に使用した場合に、出所の誤認混同を生ずるおそれはないから、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務とは非類似の役務である。

4 被告の主張

⑴指定役務の類似性の判断に誤りがあるとする点について
ア 本願商標の指定役務について
(ア)本願商標の指定役務は、第43類「ホストクラブにおける飲食物の提供又はこれに関する助言・相談若しくは情報の提供」であり、その主たる内容は、あくまでも「飲食物の提供」である。
 「標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関するニース協定」(以下「ニース協定」という。)の「商品・サービス国際分類表」の第43類の注釈(乙6)によれば、第43類に属する「飲食物の提供」の役務は、「主として、消費のための飲食物の用意に関連して提供されるサービス」であるから、本願商標の指定役務の内容は、ホストクラブにおいて、主として、消費のための飲食物の用意に関連して提供されるサービス又はこれに関する助言・相談若しくは情報の提供と解される。
 第41類には、「娯楽」を基本的な目的とするサービスが含まれる(乙7)ところ、本願商標の出願の時点で適用される同分類表「第11―2019版」(乙8)の第41類には、「ナイトクラブの提供」が例示されており、さらに、最新版である「第11-2022版」(乙9)の第43類の注釈では、ナイトクラブにより提供される、飲食物の提供が付随し得るものを含む娯楽の提供が、第43類から除かれており、ホストクラブにおいて提供される娯楽の提供も同様に第43類から除かれる。
 以上を踏まえれば、原告が強調するような、ホストクラブにおける娯楽サービスから派生している特徴は、本来、第41類に属するサービスの特徴であり、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務との類否判断においては、第41類に属する娯楽サービスの側面ではなく、「飲食物の提供」の側面から比較するべきである。
(イ)近年においては、ホストクラブであっても、アルコールの提供だけでなく、レストランや喫茶店等で提供されるようなフードメニューを提供したり、マグロの解体ショーを行う等、レストランや居酒屋等と同様のメニュー(料理)を提供したりしている。
イ 引用商標の指定役務について
 引用商標の指定役務は、第43類「インドカレー・インド料理の提供」であり、インドカレーやインド料理を提供する役務であるところ、近年の飲食店では、料理とともにアルコール飲料を提供することは一般的である。
ウ 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務の類否について
(ア)業種について
 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務は、いずれも飲食店における飲食物の提供に係る役務であって、これを提供する事業者は、食品衛生法で定義される「すべての飲食物」を提供する「食品等事業者」であり、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(以下「食品リサイクル法」という。)における「食品関連事業者」であり、日本標準産業分類において同じ分類に属する「飲食サービス業」であるから、接待の有無が相違するとしても、同じ飲食物を提供する業種として一致する。
(イ)提供の手段、目的又は場所について
 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務は、いずれも飲食物を提供する役務であるから、注文により直ちにその場所で料理や飲料を作るという提供手段及び料理や飲料を飲食させるという目的において一致する。
 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務は、いずれも飲食物の提供手段を確保し、飲食させる目的を叶えるために設けた「場所(店舗)」において、その場所で飲食物を提供する役務であるから、役務の提供場所が一致する。
 様々な飲食店が入る建物において、寿司店や焼肉店などと共にホストクラブの店舗を営業している例では、ホストクラブにおける飲食物の提供を含む各種の飲食物の提供が、同じ「場所(建物)」で行われているといえるし、ホストクラブが開店する前の時間帯にカフェとして飲食物を提供する形態を採る店舗もある。
(ウ)提供に関連する物品について
 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務に関連する物品は、飲食物を提供する際に必要となるものであって、料理のための食材をはじめ各種食品や飲料の他に、例えば、おしぼり、割り箸等の消耗品や飲食に必要な食器、スプーン、グラス等であるから、これらは一致するものである。また、これらの物品については飲食店向けの専用業者が存在しており、同じ専用業者から同じ商品等がそれぞれに納品、販売される場合もあり得る。
(エ)需要者及び取引者の範囲について
 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務の需要者は、いずれも飲食を求める人達であるから、一般需要者である。
 本願商標の指定役務は、ホストクラブにおいて「飲食物を提供する」役務であって、ホストクラブにおいても飲食物は提供されているのだから、本願商標の指定役務の需要者は、ホストと飲食することを目的としている一般の女性である。
 一方、引用商標の指定役務はインドカレーの提供を主とするところ、その需要者には、飲食することを目的とする一般の女性も含まれる。
 よって、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務の需要者の範囲は、いずれも飲食することを目的とする一般の女性という点で共通する。
 また、前記のとおり、飲食店向けの物品について専用業者が存在するから、取引業者も一致するものである。
(オ)当該役務に関する業務や事業者を規制する法律について
 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務に係る飲食店は、安全性の確保のための公衆衛生、国民の健康の保護のために、食品衛生法に基づいて営業許可が必要であり、食べ残しや製造過程において発生した食品廃棄物の抑制と減量を目的とする食品リサイクル法において食品廃棄物等の量が規制されていることを共通にする。
 風営法も、店内が非常に暗いカフェ(低照度飲食店)や深夜営業する飲食店等、接待行為はできない飲食店についても規制する法律であるから、飲食店に関連深いものといえる。
(カ)同一の事業者が提供する役務であるかについて
 飲食業界においては、提供する飲食物が相違する様々な店舗を同じ経営者が運営している。
 また、本願商標の指定役務に係るホストクラブの経営者においても、ホストクラブとそれ以外の飲食店、例えば、カフェ、炉端焼き、レストラン、タピオカ店、ピザレストラン、カレー屋、寿司屋等の飲食店を運営している場合もある。
エ 役務の類似性についてのまとめ
 以上のとおり、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務とは、接待の有無において相違するとしても、前記の各事情を総合的に考慮すると、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務に同一又は類似の商標が使用されたときには、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるといえる。そうすると、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務は、商標法4条1項11号にいう類似の役務にあたるというべきである。

4 裁判所の判断


知財高裁(第4部 菅野雅之裁判長)は、以下のとおり、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務は、商標法第4条1 項11号にいう類似の役務に当たると判示した。

1 指定役務の類似性について
⑴ 商標法4条1項11号における役務の類否は、出願商標及び引用商標の指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又は提供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるかにより判断すべきであり、具体的には、提供の手段、目的又は場所、提供に関連する物品、需要者・取引者の範囲、提供主体の業種、当該役務に関する業務や事業者を規制する法律、同一の事業者が提供するものであるかどうか等の取引の事情を総合的に検討し、個別具体的に判断すべきである。
ア 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務
(ア)本願商標の指定役務は、第43類に属する別紙1の役務であり、「ホストクラブにおける飲食物の提供又はこれに関する助言・相談若しくは情報の提供」が含まれる。また、引用商標の指定役務は、第43類「インドカレー・インド料理の提供」である。
(イ)商標登録出願は、商標の使用をする商品又は役務を、商標法施行令で定める商品及び役務の区分に従って指定してしなければならないとされているところ(商標法6条1項、2項)、商標法施行令は、同区分を、ニース協定1条に規定する国際分類(以下、単に「国際分類」という。)に従って定めるとともに、各区分に、その属する商品又は役務の内容を理解するための目安となる名称を付し(同令2条、別表)、商標法施行規則は、上記各区分に属する商品又は役務を、国際分類に即し、かつ、各区分内において更に細分類をして定めている(同規則6条、別表。また、別表の備考一によれば、別表に掲げられていない商品又は役務の分類に際しては、国際分類の一般的注釈に即するものとし、その㈥によれば、役務は、別表に掲げられている比較の可能な他の役務から類推して分類し、その㈧によれば、助言、指導及び情報の提供は、その内容に対応する役務と同一の類に分類することとされている。)。また、特許庁は、商標登録出願の審査等に当たり商品又は役務の類否を検討する際の基準としてまとめている類似商品・役務審査基準において、互いに類似する商品又は役務を同一の類似群に属するものとして定めている。
 以上によれば、商標法施行規則別表において定められた商品又は役務の意義は、商標法施行令別表の区分に付された名称、商標法施行規則別表において当該区分に属するものとされた商品又は役務の内容や性質、国際分類を構成する類別表注釈において示された商品又は役務についての説明、類似商品・役務審査基準における類似群の同一性等を参酌して解釈するのが相当である(最高裁判所平成21年(行ヒ)第217号同23年12月20日第三小法廷判決・民集65巻9号3568頁)。
 そうすると、商標法6条2項の商品及び役務の区分は、商品又は役務の類似の範囲を定めるものではないが(同条3項)、上記のような観点に照らして各区分に属する商品又は役務の意義を確定しておくことは、商品又は役務の類否の判断の前提として必要である。
(ウ)商標法施行令別表は、第41類として「教育、訓練、娯楽、スポーツ及び文化活動」を、第43類として「飲食物の提供及び宿泊施設の提供」を規定している。
 商標法施行規則別表によれば、第41類の中に「十三 娯楽施設の提供 囲碁所又は将棋所の提供 カラオケ施設の提供 スロットマシン場の提供 ダンスホールの提供 ぱちんこホールの提供 ビリヤード場の提供 マージャン荘の提供 遊園地の提供」が挙げられ、第43類の中に「二 飲食物の提供・・・(三)中華料理その他の東洋料理を主とする飲食物の提供 インド料理の提供 広東料理の提供 四川料理の提供 上海料理の提供 北京料理の提供 (四)アルコール飲料を主とする飲食物の提供」が挙げられている。
 類別表注釈の「第11-2019版」の第43類の項(乙6)によれば、同類に属する「飲食物の提供」の役務は、「主として消費のための飲食物を用意することを目的とする人又事業所が提供するサービス」とされる一方、国際分類の「第11-2019版」(乙8)には、第41類として「ナイトクラブの提供」が例示されている。また、類別表注釈の「第11-2022版」の第43類の項(乙9)には、「この類には、特に、次のサービスを含まない:」として、「例えば・・・ディスコ及びナイトクラブにより提供される、宿泊又は飲食物の提供が付随しうるものを含む、知識の教授及び指導並びに娯楽の提供(第41類);」が挙げられ、第41類の項(乙7)には「娯楽又はレクリエーションを基本的な目的とするサービス」が挙げられている
 以上の点を参酌しつつ、「ホストクラブ」は、「ホスト(クラブなどの接客係の男性)が主に女性客をもてなす酒場。」(広辞苑第7版、平成30年1月12日発行、甲5)であり、飲食物の提供が付随する娯楽を提供するものとしてナイトクラブと同様であることに鑑みると、本願商標の指定役務の「ホストクラブにおける飲食物の提供又はこれに関する助言・相談若しくは情報の提供」は、娯楽サービスの提供(接待等)の面でなく、飲食物の提供の面から検討するのが相当である。
イ 提供の手段、目的又は場所
 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務は、いずれも飲食物を提供する役務であるから、注文により直ちにその場所で料理や飲料を作ったり、調理済みの料理を用意したりするといった提供手段及び料理や飲料を飲食させるという目的において一致する。
 提供の場所に関しては、引用商標の指定役務では通常インド料理店であるが、それに限定されるものではない。ホストクラブで、インド料理店勤務の経験もあるシェフが料理を提供している事例があり(乙13)、また、ホストクラブのオープン前の時間帯にカフェを営業する事例もある(乙22)ことからすると、引用商標の指定役務と本願商標の指定役務で提供の場所が一致することがあることは否定し得ない。
ウ 提供に関連する物品
 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務に関連する物品は、飲食物の提供という観点からすると、食材、各種食品、飲料、例えば、おしぼり等の消耗品や、食器、スプーン、グラス等であり、共通する。
エ 需要者、取引者の範囲
 本願商標の指定役務の需要者は、ホストクラブにおいて飲食の提供を受けようとする女性であり、引用商標の需要者は飲食の提供を受ける者であって、そこには女性も含まれるから、飲食の提供を受けようとする女性という点で共通する。
 また、前記ウのとおり、本願商標の指定役務及び引用商標の指定役務に関連する物品は共通するので、これらについての業者すなわち取引者も共通する。
オ 業種
 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務に係る飲食店は、飲食の提供という点で共通し、その提供者は食品衛生法3条にいう食品等事業者や、食品リサイクル法2条4項2号にいう食品関連事業者に当たり、また、日本標準産業分類において同じ大分類「飲食サービス業」であり、中分類「飲食店」でも一致するから(乙18)、業種が共通する。
カ 当該役務に関する業務や事業者を規制する法律
 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務に係る飲食店は、食品衛生法54条、55条、食品衛生法施行令35条1号により営業許可を受けなければならず、また、食品リサイクル法2条4項2号、8条により、主務大臣の指導及び助言の対象等となる。また、本願商標の指定役務の提供は、風営法2条1項1号、3条より公安委員会の営業許可を受けていることが前提となるが、引用商標の指定役務も、営業所内の照度や構造によっては風俗営業に当たり得る(同法2条1項2号、3号)。
キ 営業主体について
 飲食業界においては、提供する飲食物が相違する様々な店舗を同じ経営者が運営することは珍しくない(乙27、28)。また、本願商標の指定役務に係るホストクラブの経営者においても、カフェ、炉端焼き、レストラン、タピオカ店、ピザレストラン、寿司屋、さらにインドカレー店等の飲食店を運営している場合もある(乙22、30ないし33)。
⑵ 前記⑴によれば、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務とは、飲食物を提供するという点で共通し、当該役務に関する業務や事業者を規制する法律も共通し、役務を提供する業種、役務の提供の手段、目的又は場所、役務の提供に関連する物品、需要者等の範囲が共通し、かつ、同一の事業者が提供する場合もあるから、これらを総合的に考慮すると、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務に同一又は類似の商標が使用されたときには、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるといえる。
 原告は、前記第3の1⑴のとおり、本願商標の指定役務と、引用商標の指定役務は、需要者、宣伝広告、価格帯、店舗の外観及び内装、提供に関連する物品等において異なる旨主張するが、同主張は、本願商標の指定役務でないホストクラブにおける「接待の提供」に着目したものであり、直ちに採用できない
⑶ そうすると、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務は、商標法4条1項11号にいう類似の役務に当たるというべきである。原告がるる主張する事情は、いずれも上記結論を左右するものにはなり得ない。


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