Food Safety Culture(食品安全文化) / Food Safety-Ⅱ を考える ⑤これからの食品安全管理 ~Food Safety‐Ⅱ~(続)
こんにちは! あたたけ です。
引き続き、『食品と科学』2021年11月号および12月号に寄稿した内容です。
前回からは、あたたけが『今のところ最も理想的』と考えている食品安全管理の概念『Food Safety-Ⅱ』を紹介しています。
前回は、現在の食品安全の考え方の主流である、『ルール・基準で管理する=Safety-Ⅰ』の問題点をまとめました。
今回は、それを踏まえて、『Food Safety-Ⅱ』の利点&欠点みたいなものをまとめます。
※参考資料
◇Safety-Ⅰ&Safety-Ⅱ 安全マネジメントの過去と未来(海文堂出版)
エリック・ホルナゲル 著 / 北村正晴、小松原明哲 監訳
◇レジリエンスエンジニアリングが目指す安全 Safety-Ⅱとその実現法
北村正晴
それでは、第5幕第2章、はじまりはじまり~
(本文の頭は前回の最後と同じです)
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5)これからの食品安全管理 ~Food Safety‐Ⅱ~
品質管理・食品安全担当の立場では、「事故を起こしたら会社の危機に繋がるから、完ぺきなルールを作る。現場の従業員はゼッタイにルール厳守(人として守るのが当然)。」と言いたくなるのは理解できますが、膨大で非現実的なルールを守らせようとするほど、現場はルールを守らなくなるという悪循環が起こります(作った側ですら全てのルールを把握していないということもありえます)。
実際、食品関連企業の品質管理・食品安全担当の方の話を伺うと、「現場がルールを守らなくて困る」という意見が多くあります。ですが、そういう方が目を逸らしている(が、本当は気づいていることが多い)のが、「現場は思っている以上にルールは守ってない、でも事故は起こっていない」という現実です。
「このままだと、いずれ大きな事故が起こる」という意見もありますが、「そんなに大事なルールを守っていないなら、既に事故が起こっているのでは?」という疑問もあります。
なぜ、ルールを完ぺきには守っていないのに事故が起こらないのか?
まず一つは、ルールが過剰という可能性があります。
もう一つ考えられること、これがSafety-Ⅱに繋がりますが、「状況に合わせて、現場の人が、なんとなく調整をしている」という可能性です。
例えば、「作業中に汚れている可能性があるものを触ったあと、ルールでは手順通りに1分手洗いとなっているが忙しいからしない。でも、とりあえず、手指にアルコールを噴霧し除菌はしておく。」というようなものです。また、生鮮原料にありがちな原料のブレに対し、カット方法や加熱時間等を適宜調整し、製品の品質(安全性含む)を一定に保っている場面を見ることもあります。
作業環境や原材料などの変動に合わせて人も変動しておおよそうまく処理する、人間の柔軟性を活かしシステム全体の柔軟性・強靭性を実現する、というものがSafety-Ⅱの狙いだと考えられます。(Safety-Ⅰでは、人の柔軟性は変動の要因(≒悪)となり、制約されます。)
ここまでSafety‐Ⅱ(=現場従業員に任せる管理)の長所を見てきましたが、当然、短所もあります。それは、「現場従業員に多大な力量が求められ、負担が大きくなりすぎる」というものです。職人の世界ではSafety‐Ⅱのみで充分かもしれませんが、一般的な食品関連企業では中々に難しいことだと考えられます。そのため、取り組む際にはSafety‐ⅠとSafety‐Ⅱを組み合わせることが望ましいと考えられます。
つまり、「想定できることは今まで通りの管理(Safety-Ⅰ)を行い、想定しきれないことにも対応が必要なため、人(人の集合である組織)に柔軟性・強靭性をつけていく(Safety-Ⅱ)」というものです。
もう少し具体的には、「既存の管理(Safety‐Ⅰ)を継続しつつ、従業員に臨機応変な対応ができる力量をつけていく(Safety‐Ⅱ)」となります。
Safety‐Ⅰ(既存の管理)はそのまま継続するのであれば何も変わらないと感じるかもしれませんが、従業員に臨機応変に対応できる力量がつくことで、「必ずする・しないこと(=ルール)」の範囲をより狭くする、つまり、細かいルールを減らし、従業員の判断に任せる範囲を広げていくことも出来るでしょう。
この「ルールを減らす=従業員に任せる」という取り組みが、「ルールが少なく覚えるのが楽⇒ルールを守る精度向上」「認められたという実感を得る⇒モチベーション向上」と繋がり、良いスパイラルになると理想的です。なかなかそんなに理想的には進まないのが現実ですが、「任せるのがコワい・メンドー」で話を止めるのではなく、「任せるにはどうすれば良いか」を考えないと組織は成長しないでしょう。
「従業員に臨機応変な対応ができる力量をつけていく」ことが、食品関連企業でSafety‐Ⅱ、つまり、Food Safety-Ⅱを実装するためのポイントとなります。臨機応変な対応ができるようになるためには、従業員が「専門知識」と「倫理観」を備えることが必要だと筆者は考えています。
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とりあえず、今回はこの辺りで!