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【試し読み2】『結局、他人の集まりなので』(主婦と生活社)刊行のお知らせ(11/8発売です)
11/8(金)に3冊目『結局、他人の集まりなので』が出版されます。今回は、試し読み第二段、そのほか執筆に関するしょうもないあれこれです。
第一弾はこちらです。
Amazon、楽天Booksからも予約受付中です。ちなみに電子書籍版もありますので、電子派の方はそちらをドウゾ。
【試し読み】実家のルールを塗り替えろ!
人生で初めておかひじきを食べた。5分ほど湯がいてから冷水に浸し、そのあと食べやすい大きさに切る。油をきったシーチキンと白ごま、中華の素、ごま油と醤油、かつおぶし、にんにく少々に味の素を入れて混ぜ合わせ、おかひじきとシーチキンのナムルが出来上がる。仕事終わりには、それをつまみにハイボールを飲みながら読書をしたり映画を観たりする。初めてのおかひじきは、シャキシャキとしていて美味しい。味付けも適当だった割にちょうどよく、晩酌のお供にはぴったりだった。
毎週末、近所の激安スーパーで1週間分の食材を購入して作り置きをする。私はガサツで面倒臭がりで、食事にあまり興味がない。基本的に、なんでもいい。その割に、コンビニ弁当やスーパーのお惣菜を毎日食べ続けていると、体調を崩す。毎日買い出しに出かけて、その日の気分で食事を選ばなければならない心理的なハードルが高いので、できれば避けたい。
誰かと食事をしたりお酒を飲んだりするのは好きだ。でも、毎日の食事にそこまでの楽しみは見出せないのかもしれない。食事にお金を使うくらいなら、その分を趣味に回したい。そんな理由で始めた自炊だったけれど、私は自分のための料理が案外好きなのかもしれない。栄養バランスも特に考えていないし色鮮やかでもないから人をもてなせるほどではないけれど、料理をしている間は目の前の食材をどう処理するかだけを考えればよく、他の雑念が一瞬でどこかへ吹き飛んでいく。不安にもならない。レシピ通りにさえ作れれば、それなりに美味しくなる。失敗したところでちょっと不味くなるだけで、未来の私が我慢しながら食べればいい。材料が揃えられれば、いつでも自分の好きなごはんを作ることができる。
休日に何品か作り置きをしておくと、平日には冷蔵庫を開ければ何かしらの食べ物が見つかる。自分の好きな味のおかずがたくさんのタッパーに詰められている。冷蔵庫を開けるたび、過去の私の努力を確認できる気がして、少しの達成感を覚える。
見知らぬ野菜を見かけると、購入してレシピを検索し、自分なりに調理してみるのが私のちょっとした趣味だ。ヤングコーンのスパイス和え、ロマネスコとタマゴのサラダ、ビーツと牛肉のスープ、山東菜とタケノコ炒め、コールラビの浅漬け、つるむらさきのマヨネーズ和え、カリフラワーのピクルスなど、ひとり暮らしを始めてから、色んな種類の野菜を食べてきた。レシピ通りに作るたび、初めての味わいを噛みしめるのだった。
実家では、食卓に並ぶレシピがある程度決められていた。カレーやシチュー、肉じゃが、生姜焼きなど、基本的に何かしら肉の入った料理ばかりが出てくる。弟と妹がかなりの偏 食で、好き嫌いが激しい。見知らぬものや初めての料理を食べようとせず、世間ではあまり見かけないような野菜が我が家の食材として採用されることはない。ズッキーニやなすですら、家で食べたことがなかった。そうなると、基本的になんでも食べる私の希望は常に後回しにされる。
母も、料理がそれほど得意ではなかったのかもしれない。母の得意料理が一体何だったのか思い出せないし、食事に対して何かこだわりがあるようにも感じられなかった。それでも、ほとんど毎日キッチンに立ち、何かしらの食事を用意してくれた。毎日ちゃんと料理を用意して子どもたちを空腹にさせないことが、母なりの愛情表現のひとつだったのかもしれないと今なら思う。
「大人になったとき、子どもの頃手に入らなかったものに執着するようになる」と聞いたことがある。新しい野菜を調理するたび、ネットで見かけた異国の料理のレシピに挑戦するたび、本当かもしれないと思う。母の作った料理が不味かったわけではない。でも、私が食べたかったものが採用されることは滅多にない。こだわりを持てるくらいの料理が出てくることもなかった。だから今大人になってから、新しいものを食べたいという欲求を私は強く持っているのかもしれない。
我が家では、朝ごはんにお茶漬け、夜ごはんにカップ麺を食べることが許されなかった。お味噌汁も滅多に出てこない。母が好きではなかったから。バスタオルは家族で使い回し、誰かの使ったあとの湿り気の取れないタオルで身体を拭かねばならないのが本当に嫌で、 こっそりひとりだけ違うタオルを使っていた。トイレには芳香剤がなく、最後にいつ洗っ たのかもわからないダサいトイレカバーがかけられていた。ドライヤーを買ってもらった のは中学生の頃で、それまでは生乾きの状態で布団に入っていた。服や靴はいつも中古で、安いほうがいいというのが母の主張だった。それが我が家のルールであり、当たり前だと思っていた。
ひとり暮らしを始めると、たったひとり自分だけがルールになる。欲しいもの、タイミング、お金のかけ方を、好きなように選べるようになる。夜中に大声でスピッツを歌っても誰にも迷惑をかけない。3日間お風呂に入らなくても怒られないし、一日中下着姿で過ごしたっていい。深夜にコーラとポテチを片手にたくさんの人が残酷な殺され方で死んでいく映画を観てもいい。料理に失敗してキッチンがめちゃくちゃになっても、2週間分の洗濯物が溜まっていても、提出期限が明日に迫った書類の対応をしていなくても、困るの は自分だけで、どんな生活をしたって構わない。朝起きられなくても、夜中に目を覚まし て深夜徘徊をしても、中国の通販で大量のド派手な服を買っても、誰にも何も言われない。
初めて買った野菜を食べ、異国の料理をうまく作れるようになり、毎日バスタオルを変えて、トイレにも芳香剤を置く。毎日面倒臭いと思いながらドライヤーで髪を乾かし、新しい服を衝動買いして「また無駄使いをしてしまった」と思うのに、まったく反省はしない。たまにカップ麺もファストフードも食べる。
私は何をしたっていい。自分だけがルールだから、何をしたって許される。ちょっとした初めてを自力で見つけ、ひとりで勝手に経験し、子どもの頃決められていたルールを軽々と破る。そのたびに私は、自由だと思う。両親の顔色をうかがうことなく、なんだってできる。自分の意志ひとつで、好きなように生きていける。
執筆に関する雑記もろもろ
宣伝だけだとnoteのアクセスが伸びないし読まれもしないと思うので、今回は執筆の関する雑記です。
死ぬ気でやっても確かに死なないが、死にそうにはなる
6月中旬ごろから執筆を始め、最終確認の完了が10/14……11/8発売の書籍なのにこんなにも近々のスケジュールで全国流通ってできるんだ!と未だに驚くのですが、約4か月間関わり続けてできあがった1冊となります。本を作るって本当に本当に大変!
この期間中、まあフジロックは仕事で行くにしても友達からの誘いもすべて10月以降に延期しまくり、趣味の映画鑑賞や読書もほぼせず、あれだけ大好きだったお酒も週2ペースになるという生活の変わりよう……!それでも時間が足りていたわけではなかったんですよね。いや~、忙しかったな。
本業は本業で、現在は兼務で2つのチームを掛け持ちしながら働いており、なんとか早めに切り上げて執筆時間を捻出する……という毎日は、パズルのようで集中力が続く限りは楽しくできていたけれど、腰と睡眠障害がとんでもないことになった。やるもんじゃない。
私の友人/知り合いには、仕事をしながらバンドを組んだりライターをやったり、それこそ兼業で活動されている好きな作家さんも山ほどいて、みんなどうやって時間と健康の管理をしているのだろう……本当に不思議。
ちなみに、執筆し続ける未来はわかりきっていたので、今年のはじめくらいにニトリで購入した3980円のオフィスチェアからCOFO Chair Premiumという10万円くらいするオフィスチェアに買い換えました。
「10時間座っても疲れない!」と書かれていて、まあ毎日12~14時間くらいは座っているんですけどね……それでも腰への負担が軽減され、今年購入してよかった買い物のひとつになりました。
年齢を重ねると、人類はオフィスチェアと睡眠グッズに課金をし出しますが、この2つは本当に大切だと実感……!
睡眠障害に関してはもともと寝つきも悪いし中途覚醒するし睡眠も浅いしでそこそこの悩み続けている問題でしたが、ここにきて一睡もできないもしくは2~3時間くらいしか眠れない日が1週間ほど続き、入眠剤をいただいて服薬していました。身体の不調は札束で叩け!で生きている。
薬を飲み始めてから、身体の浮腫みも治ったのでこれも睡眠不足から来るものだったのか……そもそも、よくこんな眠れない状態で今まで生きてきたな……と思いながら、気絶するように毎日眠っていました。ちゃんと眠れるってこんなに素晴らしいことなんですね。
それから、少し前の1~2週間くらいはなぜか固形物が食えず、人との飲みの約束を取り付けてそこで注文した酒とつまみを摂取しつつ、自宅では2~3時間置きにゼリーや豆腐をなんとか飲み込むことで生命を維持していました。お腹はかなり空いているはずなのに、自宅にひとりで食べているとなぜかたくさん咀嚼ができなくなるんですよね……。
別に痩せ型というわけではないんですけど、ダイエットしたいと思っていないときに食欲がまったくわかず、どんどん痩せていくのは自分でもちょっと不安。去年コロナにかかったとき5キロくらい痩せて、そこからまた変な感じに痩せてしまった。あれだけ「楽して痩せたい」と言っていたのに、いざ楽して体重が落ちるとそれはそれで怖い……どうしちゃったんだ。何?年ってこと?
そのほか、お世話になったものたち
平日は本業で10時間ほど働いたあと2~3時間執筆して就寝、という生活をしていて、流石に身体にも限界が来ていましたが、それでもなんとか駆け抜けてられたのでお世話になったものたちを紹介します。
メディキュット
もちろん着圧が一番強いフルレッグEXです。運動している時間なんてあるはずがなく、パンパンに足が浮腫んで足が痛すぎて眠れない/目が覚める日も多くありました。マッサージとかもするんですけどね。意味ないよね。履いた日と履かなかった日は雲泥の差です。いつもお世話になっています。休足時間
「何か嫌な予感がするな……。」という際にふくらはぎ&足裏に貼り、できるだけ足を浮腫ませないように努力していました。これ気持ちいいですよね……あと本当に足がすっきりする。サロンパス
反り腰で腰がすぐ痛くなるのですが、サロンパスは本当にどうもありがとうございます……人類最大の発明と言ってもいいのではないでしょうか。毎日座り続けることができたのは、サロンパス先輩のおかげです。寝る前に2枚ほど背筋に貼りつけ、なんとか長時間座れています。ピップエレキバン
購入した瞬間、「加齢……。」と思ったり思わなかったりしましたが、そんなことはどうでもいい。こんなにも肩こりに効くのか!と感動しました。ピップマグネループというネックレス型のものもかなりいいらしいですね。今度使ってみようと思います。甘酒、コーラ、7プレミアムのゼロサイダーなど
とにかく酒を飲んだら終わりなので、炭酸で気分を味わいつつ甘酒で騙し騙し生き抜く日々を送っていました。甘酒、飲む点滴と呼ばれているくらい栄養価も高いので、ちょうどいいかな……と思っていたのもあります。甘酒:豆乳=7:3くらいで飲むのが好きです。今は、ちゃんと飲酒できています。幸せです。森永製菓 大粒ラムネ
平日仕事終わりはアドレナリンが出まくっていたのでそのまま23時くらいまでぶっ通しで執筆を続けてもなんら問題がなかったのですが、土日にずっと文章を書き続けているとどうしても集中力が続かない……というときにお世話になりました。あとはハイチュウや硬いグミなど。あの手のお菓子は10分以内に一袋丸々食べてしまうのですが、定期的にお菓子を摂取し続けていると頭のなかはすっきりする気がするけれど、翌日に疲労が少し残る気が。糖分の取りすぎはよくなかったのかもしれません。コーラとか1本飲んでいたし。
とにかく身体の異常を感じたらドラッグストアに駆けこんで金で解決!という日々を送っていました。もちろん書くネタが思いつかない、集中できない、インターネットを見てしまう、などはあったけど、精神的に追い詰められる……みたいなことはなかったな。
自分で書いた文章を読みたくない問題について
皆さんは、自分で録音した声を聴いて「気持ち悪いな」「こんな声じゃないのにな」と思ったことはありませんか?
私にとって自分の文章を後日の自分が校正しなければならない作業は、正しくこの苦痛に当たります。正直、1冊目2冊目はとてもしんどくて仕方なかったのですが、3冊目に関しては2度ほど校正をし、担当編集者と日暮里の 談話室ニュートーキョーでああでもないこうでもないと言い合いながら、できるだけ読みやすい文章にすべく修正をしまくっていました。
最後に出てくる念校を読んだとき、自分でも自分の文章に対する嫌悪感や羞恥心みたいなものが驚くくらい少なくなっていたので、個人的にもよいものになったのではないかなあ?と思っています。自分でも、成長を感じる。
書くことによる精神衛生の改善方法
「売れなかったらどうしよう」「間に合わなかったらどうしよう」という不安がなかったというと嘘にはなりますが、自分の本を完成させなければならないというタスクがある以上、決められたゴールに向かってひた走る必要がありました。その間、ほぼ誰にも会っていないということもあって、特に人間関係に悩むことなくここ最近は過ごせていたような気がします。
最近読み終えた何かの本で、「人間の退屈は不安を上回る」というような一節があり、自分の書き続けた日々を振り返ってみると確かにそうだな……と考えていたりしていました。
結局、私って頭のなかが暇のなるとあらゆる不安を手繰り寄せてしまうんだろうな。それで眠れなくなるし食べられなくなると。
漠然とした、自分だけの力ではどうすることもできないような悩みを抱えるくらいなら手を動かしていたほうがよく、執筆というやるべきこと・タスクを抱えていたほうが私個人としての精神衛生は保たれるし、とても充実していたように思います。
私は「いつか離れていってしまうのでは」「そのうち、失望されてしまうんじゃないか」という思いや罪悪感が誰に対しても平等にあって、それは自分ひとりではコントロールができないので、その気持ちを無視し続けて構築した人間関係に介入させないという方法しか見つけられていないんですよね。今まで、他者の言葉の裏側、意図、コミュニケーションの深層心理を考え続けた時間を執筆に回していたので、もう本当に他人のことはいい意味でどうでもよくなっていた期間でもありました……。
そして、少なくとも私の友人/知り合いは執筆で忙しくしていると知っているし、こうして文章に書き残しておくことで自分の立場も守られる感覚があって、書いている間はひどく落ち込むこともなかった。何か文章を書くことは結局頭のなかであれこれ考えなければならず、他の要素まで思考を巡らす余裕もないわけで。いい意味で精神的に健康でいられたし、自分との付き合い方がよりわかったような気がします。
そう思うと何かを書くこと、私はしばらく辞められないんだろうな。そもそも私は本当に一体何が怖くて、何に対して怯えているんだろうね。もういい年した大人なんだけどな。
まるで小学生のような11月
今後の予定をまとめていきますが、カレンダーを見たら11月はお菓子交換会・散歩・凧あげの予定が入っている。
やっぱり友達と話をしていても「最近、友達が増えない」「人と会っていない」という話を本当によく聞くので、今年~来年にかけては色んな人にしょうもないことに付き合ってもらいつつ、自分から誘うのにも慣れ、更に友達をたくさん作るようにしたいですね。
10/31(木) 22:00~ X内スペースにて担当編集者とお話
11/5(火) 22:00~ X内スペースにて担当編集者とお話
11/8(金) 『結局、他人の集まりなので』発売日&刊行記念トークインベント@渋谷LOFT HEAVEN
ひらりささんをゲストにお招きしています。11/17(日) 刊行記念トークインベント@梅田Lateral
永田夏来先生をゲストにお招きしています。先生は電気グルーヴのファン。12/1(日) 文学フリマ東京39@東京ビッグサイト 西3+4ホール
日記を売ります。最近書いてないや、やばい
さいごに
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