シルバー事件25区を遊んだ話
シルバー事件25区は2005年に携帯用アプリとしてリリースされたゲームだ。開発はクリエイターの須田剛一が率いるグラスホッパー・マニファクチュア。その後シルバー事件25区は、前作にあたる初代PS用ゲームソフト「シルバー事件」と共にそれぞれリマスター・リメイクされて、PS4用ソフト「シルバー2425」という一つのパッケージで発売し直された。今回己がプレイしたものもそれ。
前作「シルバー事件」では一人称が己のおっさんがたくさん登場する。
一応ルビでは(オレ)と表記されているけどそれにしたって文章の圧が強い…
舞台は国家経済行政特別自治区カントウ25区。約9万世帯が暮らす集合住宅地「ベイサイドタワーランド」(以下タワーマンション)の一室で女性が殺害されたのを皮切りに、奇妙な事件が頻発する。[correctness]・[matchmaker]・[placebo]の三つの物語が展開し、三者三様の視点で事件を追う。
Wikipediaのシルバー事件25区の項目には物語がこう説明されている。ここだけ読むと真っ当に面白そうなシナリオだと思えるかもしれないけれど、断じてそんなストレートに「おもしろかった」で終わらせてくれるゲームではない。
だってのっけからこれ。wikiのあらすじにも載っている女性の殺害事件に対する感想を男が述べているシーンだが、画面の抜き差しならないシリアス度に比べて男のコメントが軽すぎる。「う~ん ヤバイね 素直にさ」じゃないんだよ何だお前その顔。
この顔の陰影が濃すぎる男はシロヤブ モクタロウという新本格系の作家でも付けなさそうな名前で、同僚達からは「ジャブロー」という愛称で呼ばれている。
画像右がシロヤブ。一応シナリオ[correctness]の主人公という扱い。前作の時点で名前は既に登場していたデスファイリングという捜査方法を習得しており、デスファイリングを使うと相手を殺すことができる。なんで?
デスファイリングが何なのか具体的にはさっぱり説明されないので詳細な説明は不可能だが多分スターウォーズに登場するメイス・ウィンドウが使うヴァーパッドみたいなものだと思う。どうも継承制っぽいし。知らんけど。
本人は嫌がっているのに同僚のほぼ全員からジャブローと呼ばれている上に、直接の上司からはジャブローに絡めてガンダムネタで小技を効かせつつ凄まれるという嫌すぎるパワハラを受ける苦労人である。
でも嫌がっているくせにシロヤブもたまにガンダムネタを使う。お前マジで何?ていうか、絶対須田剛一がガンダム好きなんでしょどうせ、これはさ。
そして上の数枚のスクショを見れば明らかだと思うけれど、このゲームUIが超かっこいい。システムメッセージのフォントも、ウィンドウの配置も、ウィンドウの後ろのモーショングラフィックにも、全てに優れたデザイン性があって、色々システム的に不便すぎるんだけど、かっこいいからなんやかんやで許してしまう……
一応ADV系のゲームな癖にバックログも無ければ、文字のスキップ、早送りも存在せず、しまいには
このクソみたいなボール型の仮想キーパッドをコントローラーのスティックで滑らせてパスワードを入力させられる。ちなみにこのゲーム、基本的にパスワードの入力によって話が進むのでこの作業を何十回と繰り返させられる。率直に言って苦行。
でもかっこいいんだよな……
シルバー事件25区は基本的にイラストがモノクロームで統一されていて、それが物凄く格好良いんだけど、これって多分元々は携帯の通信料対策なんだろうと思う。たしか、当時のガラケーでこういうゲームをプレイすると、制作側が気を付けないと通信量がバカみたいなことになってしまうみたいな話をどっかで聞いた気がする。何にせよ確実にガラケーの画面で見るっていう制約があっただろうに、そういう制約からクリエイティブな要素に繋がるアドバンテージを創出するのはホントに凄い。
で、このシルバー事件25区。上述の通り、異なる視点のストーリーが三本あって、それぞれに挟まれるイラストの描き手も異なっているのでわりと三者三葉に異なる印象を受けた。
シロヤブくんが主人公の[correctness]は一番メインとなる枠で、シナリオもディレクターの須田剛一が直接手掛けている。これがまあ超強烈で、前作からしてそうだったけどキャラクターも、そのキャラの吐く台詞のキレも、とにかく半端ない。受け付けない人は臭いと一蹴するかもしれないけれど、個人的にはクリーンヒットで、文章を読むのが楽しくて仕方なかった。
だって「殺戮ギグ 開演」なんて普通書けるか?「殺戮ギグ 開演」はヤバイでしょ。一瞬思いついたとしても一瞬で記憶の彼方に葬るやつじゃん。めちゃくちゃ堂々と「殺戮ギグ 開演」出て来るもんだから、もうそれは8周くらい回って逆にカッコイイよ……
そんな須田剛一が手掛けるシナリオで展開される[correctness]は、タワマンの一室で起こった女性の殺害事件を凶犯課刑事シロヤブと、そのバディであり上司にあたるクロヤナギ シンコが調査にやってくるところからスタートする。
凶犯課とは凶悪犯罪を専門に取り締まる課のことであり、正式名称は凶悪犯罪課。そのまんま。
ではここからイカレた凶犯課メンバーの紹介だぜ。
まず左下。シロヤブのバディであり先輩、クロヤナギ シンコ。優秀な捜査官でありながら性格は完全に終結を迎えており、後輩のシロヤブをいびりにいびり倒す。
どこに行っていたのかきいただけでこの始末。絶対一緒に働きたくない。でも「結論として 教えてくれ!」が個人的に結構気に入っている。
(しかし、クロさんの出自、そしてシロヤブの隠された秘密を考えると、シロヤブに対して嫌悪感のような複雑な感情があったのかもしれない。なんやかんや最終的には助けてくれはするので100%の最悪な人間ではない)
あと語彙が作中一古臭く、「何してんだよ一体全体少女隊」「専攻は湯けむり殺人事件か?」等々最早おっさんよりおっさんらしい。挙句の果てに公務員でありながらリボルバーを所持したいという理由だけでバウンサーのバイトを裏でこなす、エロチャットで小遣いを稼ぐなど、あの手この手で法を犯している。
かわいいね。
上のスクショではわかりにくいが、攻殻機動隊SAC版草薙素子が着ていたクソダサボディコンのような服装が普段着のご様子。ちなみに、当然この発言は野音で発せられたものではない。[correctness]は色んな意味でノリが全てのパートだと思う。
続いて集合スチル真ん中にいるコナン君の犯人一歩手前の黒い男がウエハラ。一応前作の主人公と同じ立ち位置なのだが全く喋らない上に本当に意味のないただのデコイだったので忘れても問題ない。最終盤を除いて。
右側の眼鏡はアカマ。タイムパトロール隊員その1。アウトレイジごっこが好き。
右側下のおっさんはアオヤマ。タイムパトロール隊員その2。男は黙ってソナチネ派。
ふざけて書いているわけではなく本当にそうとしか言いようがなかったので是非実際にプレイしてみてほしい!
そして、この5人に課長のハトバを加えて最高の職場の完成である。彼らの他にもスナッフフィルム蒐集家の検死官や捜査の重要資料をバイク便で配達するバイトをこなす女子高生など、少ない出番で強烈なインパクトを残すキャラクターが幾人か登場する。是非プレイしてくれ!
彼らはタワマン殺人事件の背後に隠された謎を追うことになる。
そしてその渦中で凶犯課と対立するもう一つの組織が登場する。それこそが郵事連である。
郵事連は民営化された郵政事業組織が総務省の権力を取り込んで誕生した。
シルバー事件25区の舞台であるカントウ25区は半独立国家の様相を呈しており、その中で郵事連は治安保全権限と区民の実質的な支配権を有している。具体的に言うと、辞令さえ下ればただの郵便配達員が人を殺せるシステムが導入されている。そのため郵事連の配達屋と呼ばれるセクションに属する人間は、全員が消音措置を施した仕込み銃のような装置を身に着けている。
本当にヤバいのはここからで、郵事連は「不在届が届かなかった」「配達が遅かった」というようなクレーム、果ては地域の住民間でのゴミ出しトラブルに端を発する苦情程度でも、その原因となる人間を調整という名目で殺害処分してしまう。
しかし25区の住民達は、それに気づいているのか、いないのか、明らかに人は些細なきっかけで殺され続けているのに平然と日常を送り続けている。
この舞台設定の不気味さが、無機質で薄暗いゲームのビジュアルデザインと見事にマッチしていて非常に効果的だった。
シルバー事件25区のオリジナル版がリリースされた2005年は丁度現実の日本でも小泉内閣による郵政民営化法案が話題になっていた時期であり、開発側も全く意識をしていなかったわけはないだろう。
とはいえ、仮に郵政民営化に須田剛一がヘイトを貯めていたとしても、その結果郵便屋が殺戮集団になる意味はちょっとよくわからないので、多分ただの時事ネタではないかと……
そして、その郵事連側の組織の一つに属する者達が、シルバー事件25区の[correctness]編とは異なるもう一つのシナリオ、[matchmaker]編の主人公を務める構成になっている。
[matchmaker]編は不条理とセリフのノリで突っ走る[correctness]編とは違い、いくらか理性的なシナリオになっている。イベントスチルの画風も大幅に違う。こちらは荒い漫画調。
更にもう一つのシナリオ、[Placebo]編は、前作からの続投組であるモリシマトキオというマッチョが主人公を務める。こちらもイラスト担当とライターが前二編と異なっている。
これがトキオ。前作ではもうちょっと軽い風の若者だったのにいつの間にかゴツイおっさんになっていた。といってもこの画像のトキオはまた少し事情が違うのだが。
[Placebo]編は基本的にトキオがパソコンの前に座っているだけの話なのだが、それだけなのに[Placebo]編はトキオを通して物語の真相に肉薄するシナリオになっている。
こちらもかなり癖が強く、バーでの会話とネット上にアップされる独白調の謎の日記を交互に読むだけで終わる回や、現実かどうかもわからない謎の空間でひたすらコマンドバトルをやらされる回などが印象的だった。
エロライブチャットをする女が「接続された女」という実在のSF小説に紐づけて語られるパート。どう読んでも後のVtuberと重なる部分がある。先見性があったとかそういう話ではないんだろうけど、こういう一致は非常に面白い。
あと、
これ
ちょっと
まんま過ぎだろ!!!
ちなみにスクショでは見切れてる女性、人間と喋り続けるとマナが枯渇するらしく、枯渇すると語尾がでじこになる。意味がわからんにょ。
そんなこんなで3編を交互にプレイしていくスタイルで進めると、シナリオが相互に補完し合って捗る構成になっているシルバー事件25区。しかし、[correctness]編は回を追うごとに電波度、悪ノリ感も増していき、他二編をどんどん突き放していく。
ひたすら銀行で殺し屋とコマンドバトルしたり
前作の登場人物が出てきたと思ったら急に変なゾーンに入って結局どうなったのかもわからず終いだったり
シロヤブがハゲたり童貞を告白したり
そしてそして…
以下ゲームクリアまで完全ネタバレ
剛一!?
剛一!!ニーアパクるな!!!!
剛一………
剛一!?!?!?!?
…………
剛一さ 俺と一緒にサカナクションのコピバンやる?
最後に「YUKI」について。最初はなんだいきなりこのシナリオと思ったけどめちゃくちゃ良かった。トキオがちゃんと生きていて割と精神的にもスッキリしてるっぽいのが嬉しかったし、ユキちゃんかわいいし、何より
今考えると、この台詞がシルバー事件とシルバー事件25区全体にとっての結末として、一本締まったような感覚がある。満足でした。これが本当の最後に解放されるシナリオでも良かったんじゃないかな。
25区のBGMは前作よりもインダストリアルな要素が強くなっていて、それがより歪みを増した舞台設定や物語に丁度マッチしていて最高。
steamなら250円というインチキな値段でサントラだけ購入できるので、もしゲームをプレイした後にBGMを聴き返したくなったら必ず買うべし。