公民科教員の本棚(応用倫理編)
公民科教員の悩みの種は、とにかくカバーすべき分野が多いことではないかと思います。同じ教員が倫理も政治経済も教えないといけないのは、正直かなり大変……
ということで、私が読んだ or 今後読もうと思っている「授業準備に役立てられる本」を分野別にご紹介します。今回は応用倫理編です。一人でも多くの教員の方や教員志望の方のご参考になれば幸いです。
※随時追記します。
【最初の一冊】『テーマで読み解く生命倫理』
応用倫理学は生命倫理・環境倫理・情報倫理・技術者倫理など非常に幅広いので、一冊で網羅することは難しいですが(※)、分野ごとには分かりやすい入門書が出ています。この本は、生命倫理に関する議論を各テーマ見開き2ページで解説している使い勝手の良い一冊です。生命倫理に関する論点は一通り押さえてあるので、現代社会の授業や小論文対策にも使いやすくおすすめです。
(※)網羅性の高い教科書としては、『教養としての応用倫理学』を挙げておきます。(未読ですが…)
【大学へのステップアップ】『実践・倫理学 - 現代の問題を考えるために』
死刑や自殺などの定番ものからベジタリアニズムまで、様々なテーマを通じて倫理学的な思考法を学べる一冊。今年出版されたばかりでまだ積ん読になっているので、近いうちにきちんと読みたいと思っています。内容はやや高度ですが、ディベート型の学習などに活用できそうです。同じ著者による『入門・倫理学』も、倫理学の概説書としておすすめです(メタ倫理学も取り上げている珍しい教科書です)。
【最近の新書から】『安楽死・尊厳死の現在』
生命倫理の個別テーマについては多数の本が出版されていますが、近刊の中ではこの本が特に面白いと思います。前半はいわゆる海外事例の紹介ですが、第5章の「安楽死と自殺の思想史」は一読の価値があります。終章のタイトルにもなっている「健康とは何か」「人間とは何か」を考えるために、ぜひ読んでおきたい一冊です。もう少し読みやすい生命倫理分野の本であれば、島薗進『いのちを”つくって”もいいですか?』もおすすめです。
【最近の新書から】『なぜ人と人は支え合うのか』
障害の入門書も多数出版されていますが、この本は「障害者/健常者」「自立/依存」という二項対立を超えて障害との向き合い方を考えさせてくれる一冊です。著者は『こんな夜更けにバナナかよ』でも知られるノンフィクションライターであり、相模原障害者施設殺傷事件に対する考察も展開されています。障害者の生きる世界について知るための本としては、伊藤亜沙『目の見えない人は世界をどう見ているのか』もおすすめです。(国語の入試でも頻出の作品となっています)
【大学レベルの一冊】『動物からの倫理学入門』
動物倫理は高校の倫理の授業で直接扱われるテーマではありませんが(私もピーター・シンガーの名前を知っている程度でした)、この本は動物に関する倫理の問題(動物実験や肉食など)を扱いながら英米の倫理学の考え方を紹介しています。功利主義や義務論など、規範倫理学の基本概念を最初できちんと説明してくれているのも勉強になる点です。やや難解な本ですが、あまり類書がないのでチャレンジする価値のある一冊だと思います。
【大学へのステップアップ】『ロボットからの倫理学入門』
第3次AIブームと言われる中でロボット倫理への注目度も高まっていますが、なかなか手頃な入門書が少ない分野なのも事実です。この本は、第Ⅰ部で功利主義・義務論・徳倫理学という倫理学の主要な立場を紹介し、第Ⅱ部でロボットに関連する倫理的課題を多面的に考察しています(この構成は、上記の『動物からの倫理学入門』と近いです)。応用倫理を学ぶことが文系・理系問わず重要であることを実感できる一冊です。
【見方を学ぶ】『世界は贈与でできている』
最後に、変化球的な一冊を。この本は、SF作品など様々な事例を引き合いに出しながら、「交換」とは異なる論理としての「贈与」の可能性を拓いています。「贈与は受け取っていることに気付くことから始まる、だから贈与に気付くための想像力を身に付けよ」という主張は、ハッとさせられるものがあります。在野の研究者ならではの大胆な考察もあり、読み物としてもおすすめです。
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