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小学館ライトノベル大賞(ガガガ部門)過去四年 傾向と対策
自己紹介とここまでの歩み
私は川崎中と申します。かわさきあたりと読みます。
10年ほど前にライトノベルの新人賞を受賞したことがあります。
ただその後は一切結果が出ず、商業出版とは無縁の人生を送っています。
noteでは、あの時なぜ受賞できたかの検証と、その時のやり方を言語化すれば改めて受賞できるのかの挑戦を行っていきます。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
現在第19回小学館ライトノベル大賞(ガガガ部門)に挑戦すべく、まず受賞作研究を行っています。そのため、過去四回の小学館ライトノベル大賞受賞作品を読みました。
読んだ小学館ライトノベル大賞受賞作
【2022年度】
獄門撫子此処ニ在リ(伏見七尾) 401頁
かくて謀反の冬は去り(古河絶水) 398頁
いつか憧れたキャラクターは現在使われておりません。(詠井晴佳) 344頁
悪ノ黙示録 -裏社会の帝王、死して異世界をも支配する-(牧瀬竜久) 360頁
ドスケベ催眠術師の子(桂嶋エイダ) 312頁
【2021年度】
わたしはあなたの涙になりたい(四季大雅) 297頁
最強にウザい彼女の、明日から使えるマウント教室(吉野憂) 358頁
サマータイム・アイスバーグ(新馬場新) 429頁
SICK -私のための怪物-(澱介エイド) 388頁
【2020年度】
負けヒロインが多すぎる!(雨森たきび) 293頁
嘘つき少女と硝煙の死霊術師(岸馬鹿縁) 299頁
貘-獣の夢と眠り姫-(長月東葭) 360頁
公務員、中田忍の悪徳(立川浦々) 336頁
ロストマンの弾丸(水田陽)361頁
【2019年度】
君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る(零真似) 318頁
シュレディンガーの猫探し(小林一星) 311頁
サンタクロースを殺した。そして、キスをした。(犬君雀) 304頁
このぬくもりを君と呼ぶんだ(悠木りん) 317頁
現実でラブコメできないとだれが決めた?(初鹿野創) 344頁
小学館ライトノベル大賞 総括
ダークバトル・メタコメディ・感動ジュブナイル
さまざまな作品が受賞していますが、取られやすい作品もあるんじゃないかなぁ、という印象の四年です。一番たくさん出会ったのがダーク要素の強い(異能)バトルもので、全体の32%(6作品)でした。その次がメタ要素のあるコメディ、感動ジュブナイル系がそれぞれで21%(4作品)でした。
バトル系は明るいものよりも単にダークな要素と食い合わせがいいのか、異世界、現代問わず暗め要素の強い話が取られたようです。
またラブコメディでは、どちらかというとコメディ中心で、ラブの方は一筋縄では行かなそうな作品が多いです。『負けヒロインが多すぎる!』はこの間で一番ハーレムに近い作品かとは思いますが、主人公はヒロインたちの本命ではないですからね。読者に優しくするだけのような、元々非モテボッチの主人公が、簡単な頑張りでモテだすような作品は取られないようです。あるいは、改稿時に変わったのかもしれませんが。
一番謎のモテ方をするように感じるカテゴリーは感動ジュブナイル系でしたが、ここの主人公群はもともと格好良かったり、才能がある人たちに見えます。本人が思っていなくても、周りは認めていたりとか。なんか言動もオシャレだし。ちょっと不良っぽいオシャレな文章をやや実写よりに書ける人は、感動系の恋愛ものをジュブナイルっぽく描くと良いでしょう。
近年長作化の傾向?
2022年、2021年は長い作品が多かったです。もともと、応募時のページ数の最大が150(42文字✖️34行)頁なのでかなり多い賞になりますが、改稿でさらに伸びているのでしょう。
とにかく書き慣れた文章の受賞作が多く、だからこそ文字数が増えこの賞が選ばれているなんてこともあるのかもしれません。
ダークバトルや感動ジュブナイルなど、細かい設定や世界観、あるいはここの内面の踏み込んだ描写などきっちり描き切る必要がありそうです。
結果としてか、近年の複雑化が見られます。たくさんのキャラクターに視点移動し、それぞれの内面をきっちり描写してみたりだとか。やや物語とは脱線した場面を書いたりだとか。
ひとまず、自分は350ページレベルの作品を平気で書けるかどうかは問い直す必要がありそうです。
投稿作作成時の注意点
ダークバトルを書くのであれば
ラノベだからと遠慮することはありません。必要とあれば人が死ぬことも全然描写されます。必要とあれば、ですが。
マフィアや裏社会、あるいは異世界であろうが裏組織であるような側に主人公が属している場合が多々あったり、あるいは主人公や仲間が恐るべき存在だったりして単純な正義と悪のような構図にならない複雑な作品が多いです。
勧善懲悪、で済まない現実のようなものを描いた深みのある作品が好まれているような気がします。
ただし、ダークだからといって暗くしすぎてはいけません。多くの作品はバディものの構造を採用しており、仲間との軽妙なやりとりが多く見られます。仲間内での会話は、さすがにラノベらしく色付けされているものが多いです。
総括としては、あらすじを読むと厨二的ダークでありながら、近しい仲間とは軽妙な会話で盛り上がるような作品に仕上げるといいんじゃないかと思います。
【このカテゴリーの作品】
獄門撫子此処ニ在リ(伏見七尾) 401頁
悪ノ黙示録 -裏社会の帝王、死して異世界をも支配する-(牧瀬竜久) 360頁
SICK -私のための怪物-(澱介エイド) 388頁
嘘つき少女と硝煙の死霊術師(岸馬鹿縁) 299頁
貘-獣の夢と眠り姫-(長月東葭) 360頁
ロストマンの弾丸(水田陽)361頁
【このカテゴリーに準ずる作品】
かくて謀反の冬は去り(古河絶水) 398頁
※権力闘争バトル
メタコメディを書くのであれば
コメディ寄りの受賞作は5作品でしたが、そのうち4作品は何らかのメタ的な要素が入っています。
『負けヒロインが多すぎる!』や『現実でラブコメできないとだれが決めた?』などはタイトルから明らかな通り、現実のラブコメを元にしたり、その要素を切り取って利用したメタ作品です。『公務員、中田忍の悪徳』も、読めば既存のラノベ要素を踏み台にしたメタ作品だとわかります。
『最強にウザい彼女の、明日から使えるマウント教室』に関しては、現実で見られるマウント行為を、学園で推奨し学ばせようという現実をメタ的に見た作品です。
ただコメディを描こうとするよりも、他の作品よりも一歩先に進んだ作品にするという志が見えます。描き始める前に、どうやったら既存作品から抜きん出た作品になるかというのをよくよく考えるべきでしょう。
また、こういった作品群でよくあるサービスシーンは抑制的です。そもそも女の子がたくさん出てくるハーレム作品であっても、ヒロインたちが主人公主人公と行為を抱くわけではないので、安易なハーレム作品は求められていないんだなというのを強く感じます。
コメディの中で一番エロいシーンがあったのは『公務員、中田忍の悪徳』かとは思いますが、それでさえあえてエロくならないように書いている感じでした。そして驚くべきことに『ドスケベ催眠術師の子』はエロくありません。
まとめると、ハーレムやエロに頼らず、既存作品よりアイディアで一歩抜きん出た作品を書くといいのではないでしょうか。
【このカテゴリーの作品】
最強にウザい彼女の、明日から使えるマウント教室(吉野憂) 358頁
負けヒロインが多すぎる!(雨森たきび) 293頁
公務員、中田忍の悪徳(立川浦々) 336頁
現実でラブコメできないとだれが決めた?(初鹿野創) 344頁
【このカテゴリーに準ずる作品】
ドスケベ催眠術師の子(桂嶋エイダ) 312頁
※ドスケベ催眠術師というワードが強いコメディだが、メタではない
シュレディンガーの猫探し(小林一星) 311頁
※メタミステリ。コメディ要素もあるがミステリとして強い
感動系ジュブナイルを書くのであれば
このカテゴリーで受賞している作品はとにかく文章がこなれているなぁという印象が強いです。比喩一つとってもおしゃれで、まず基本的な文章力が求められる感じがします。
その結果かわかりませんが、キャラの記号化は最小限で実写より。ラノベじゃないレーベルで出版していても違和感のない作品ばかりのような気がします。
記号化、省略が少ないためか、場面としても主題に沿った場面以外も描かれることがあり、作品によっては群像っぽくなったり随筆っぽくなったりします。
共通していることといえば、主人公の中に満たされない思いがあり、それをどう乗り越えるかという点が重要だということでしょう。多くの作品が、ヒロイン(相手役)に対してコンプレックスを持っており、自分はダメだと思っています。もっともそれは普遍的命題かもしれませんね。
また、このカテゴリーでは自分のことを非モテだと思っている感じの主人公は結構いますが、客観的に見てそうでもない、ファッション非モテが多いです。
総括として、このカテゴリーでは高値の華である相手役に対してコンプレックスを感じる主人公を通じて、精緻な社会全体を素敵な文章で描いていけばいいんじゃないでしょうか。
【このカテゴリーの作品】
いつか憧れたキャラクターは現在使われておりません。(詠井晴佳) 344頁
わたしはあなたの涙になりたい(四季大雅) 297頁
サマータイム・アイスバーグ(新馬場新) 429頁
サンタクロースを殺した。そして、キスをした。(犬君雀) 304頁
【このカテゴリーに準ずる作品】
君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る(零真似) 318頁
※よりファンタジックで、主題が明確でラノベ寄り
このぬくもりを君と呼ぶんだ(悠木りん) 317頁
※SF要素は強いが、主題は明確でラノベ寄り
最後に
いやー2019年はシンプルな作品が多く、その他の年は結構複雑気味な作品が多い感じでした。その一点をとっても、こうやって傾向分析するのも意味がないんじゃないかという気もしてきます。
レーベルの方針が変わったのか、あるいはその年の良い作品がたまたまそうだったのか……。
それでも、たくさん読むとわかってくることもあります。わかりやすいところで言えばエロに頼らない作品にすべきとか。そういう、主題に関係ないところ以外で地雷を踏むのは少なくとも避けていきたいところです。
当然オリジナリティのある作品は作らなければなりませんが、レーベルにストライクな作品を書いていけるといいですね。