2019年度 第14回小学館ライトノベル大賞 研究
私は川崎中と申します。かわさきあたりと読みます。
10年ほど前にライトノベルの新人賞を受賞したことがあります。
ただその後は一切結果が出ず、商業出版とは無縁の人生を送っています。
noteでは、あの時なぜ受賞できたかの検証と、その時のやり方を言語化すれば改めて受賞できるのかの挑戦を行っていきます。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
先日、GA文庫大賞に関して応募を完了したため、次は小学館ライトノベル大賞への応募を目指したいと思います。
そのため、小説作成の前段階として受賞作の研究をしていきます。
2019年度、第14回の受賞作は下記のとおりです。
君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る(零真似)
シュレディンガーの猫探し(小林一星)
サンタクロースを殺した。そして、キスをした。(犬君雀)
このぬくもりを君と呼ぶんだ(悠木りん)
現実でラブコメできないとだれが決めた?(初鹿野創)
全体感想
あれ……シンプル?
ここまで読んできた最近3年と比べ、この年は主題のはっきりした作品が多かったです。結果として、ページ数少なめの作品が多かった。※もっとも『シュレディンガー〜』は分割したらしいですが
他の年の方がなんというか生々しい感じでしたが、この年の作品は整理されていて読みやすいものが多かったです。どっちがいいというわけではなく、好みの問題ですが。たまたまそういう作品が集まったのか、編集の方針が変わったのかは気になるところです。
ボーイミーツガールが強い
『シュレディンガー〜』以外の作品はボーイ(ガール)ミーツガールが主題かと思います。自分の心の弱いところを救ってくれるような相手に出会うことは、それだけで小説の素敵なシーンになる気がします。ただ出会いの物語と言っても、現実を精緻に書けばいいというものではなく、さまざまなシチュエーションで表現されます。『君はヒト〜』は地国(地獄)、『この温もり〜』は未来、『現実で〜』はメタラブコメの価値観で、『サンタクロース〜』には特殊ファンタジーがあります。それぞれオリジナリティのある世界観で、ただし普遍的な心の内を描くのが良いのでしょう。
意図があるから話が転がる
全主人公に意図や目的がありました。だからこそ話が動くし、面倒ごとに巻き込まれます。『君はヒト〜』はヒロインとの出会いがスタートですが、しかしすぐにそれ自体が目的になります。
完全な巻き込まれ型主人公が悪いわけではないですが、意思をもって動く主人公であった方が、その人物の癖が出やすいしキャラを立たせやすいでしょう。主人公はなぜ動くのか、どうしてそんな場面でそんなことをしてしまうのか。そういった積み重ねによりキャラクターは作られるのでしょうね。
特に、主人公の心にぽっかりと空いた何かがあって、それを埋めるためには行動せざるを得ない感じの物語だと納得感が強かったです。
作品別感想
君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る(零真似)
設定はオリジナリティ溢れるが、主題はシンプルで非常に読み進めやすい。かなりファンタジーだが、難しいことは抜きにして理解しやすく書かれていて親切。
主人公の思いが一貫しているし、それは想定読者にとって伝わるものだと思う。ヒロインも元気で性格が良い。オチも、そうなって欲しいところに落ちていく感じで、読後感も良い。死者など禍々しい主人公だが、かなり素直な作品。
シュレディンガーの猫探し(小林一星)
アンチミステリ。名探偵が解き明かす謎を、主人公とヒロインが迷宮入りさせる話。ロジカルな部分も面白いし、ファンタジックな部分も面白い。読んでいて、自分の読書欲のいろいろな部分が満足させられる作品。
主人公の性格もいいし、さらにキャラも立っている。後半は主人公の思考回路の格に向かっていき、こっちはまんまと感動しながら読みました。真実解き明かすばかりが全てじゃ無いよなぁと、納得できる作品。
サンタクロースを殺した。そして、キスをした。(犬君雀)
序盤はモラトリアムをめっちゃ感じ、だんだんと切ない方向へと向かっていく。とても運命を感じる、ボーイミーツガール。出てくるヒロインが魅力的で良い。
ひとつひとつの会話がシニカルでオシャレ。ノートのギミックでの大ネタもよく、後半感動的。いろいろあるけれど、二人のヒロインが魅力的で、そこがこの作品の一番いい部分だと感じた。
このぬくもりを君と呼ぶんだ(悠木りん)
タイトルから想像していたイメージよりずっとSFの未来世界で、その世界観が面白かった。なんの不自由もないディストピアで、自由だけれどもその実本当に不自由な感じが、現代社会を生きる我々に通じるところがある。
ただしテーマはシンプルで、全体を通じて同じメッセージが発せられていたのでわかりやすい話だった。少女たちの寂しさや、学校内でどううまく過ごすか、自分さえ偽物なんじゃないか、みたいな不安は身に詰まらされるものがある。
現実でラブコメできないとだれが決めた?(初鹿野創)
ラブコメのように高校生活を送りたい男子生徒を主人公にしたメタラブコメディ。パロディ要素やラノベネタが多いので、ラブコメを好んで読む読者ほどより楽しめると思う。
全体を読んでキャラの配置がはっきりし、最後はぞくりとする。ミステリーのような展開。よって、ここから先どう話が転がるのか気になる。
主人公はストーカー気質すぎて好みが分かれると思うが、登場人物は狂ってる方がいいよね。
ときおりラノベを描くと、主人公が空気になるときがあります。ヒロインのキャラを立たせようとすると、主人公がおざなりになってしまったりして。それが完全に悪いとも言い切れないかもしれませんが、今回は行動原理のはっきりした主人公に魅力を感じる回でした。