『思考力改善ドリル』(植原亮、勁草書房)
あらすじ
本書は全27章からなる思考力改善のための本である。各章に練習問題があり、また最後には総合・応用問題も用意されている。専門知識などは全く不要で、いかに注意深く問題と向き合えるか、が大切だと思われる。
筆者は思考力改善のためのステップとして2点あげている。1つ目は、頭の弱点について学び、そこから生まれる誤りが避けられるようになることである。2つ目は、きちんと考えるための方法や道具を使いこなせるようになることである。
ここではその中の一部をかいつまんで述べてみたい。
与えられた情報を適切にチェックしながら考えていく。この「適切にチェックしながら」というのが意外と難しいという。なぜなら、それぞれの主観やバックグラウンドが、思考に影響を与えるからである。
見かけの数字に流されてしまう傾向もある。例えば、バットとボールを買った合計金額が10,500円とする。そして、バットはボールよりも1万円高い。この時、バットとボールそれぞれの値段はいくらだろうか?
ちなみに私は、見かけの数字にまんまと騙されました笑
メディアが扱う情報についても注意点があるという。それは、論文などには明記されていた限定や留保が、報じられる際には忘れ去られ、誇張や過度な単純化が生じることがあるということである。わかりやすさやインパクトを重視することの副作用といったところだろうか。
このほかにも対照実験や因果・相関関係、演繹・帰納など、幅広く触れられていた。
また、非科学についての問題も取り上げられていた。ワクチンや政治など、最近はあちこちでデマや陰謀説が広まることがある。こうした非科学的な主張には、表現に曖昧さがあるという。また、自らの主張と異なる結果は無視したり、説明責任をその主張の懐疑派に負わせがちだったりするという特徴・傾向があるという。
参考文献やおすすめの文献も紹介されているため、興味の湧いた人はそれらの文献をさらに読み進めていけるようになっている。
プラセボ効果
まだ、新型コロナのワクチンが開発段階であった頃、開発中のワクチンを接種したグループと偽薬を接種したグループの2つを比べて・・・という報道をよく耳にした。私は、なぜわざわざ偽薬を接種させるのだろうか、と疑問に思っていた。その疑問が本書で綺麗に解決した。プラセボ効果によるものかどうかを判断するためのものだったのだ。
本書を通して、私の科学的リテラシーも少しは高まったのかもしれない。
※あらすじの中に出てきた問の答え
ボール:250円
バット:10250円
次の本はドストエフスキーの『罪と罰 上』