これが"普通”のサイバーステップ 『ココロシャッフル』から考える、脱臭されたゲームのプレイフィールの虚しさ(ネタバレ&エロ要素有)
前書き
エロゲーという文化にほとんど触れないまま育ってきたため、サイバーステップ製ノベルゲームの検証記事を書き始めてから泥縄的にエロゲー界隈について勉強するようになった。ブランドやレーベル、ジャンル、ユーザーの嗜好、批評サイト、そして某KOTYe等。そこで知ったのは、どうやらサイバーステップが移植しているエロゲーは概ね評判が芳しくない、ということだった。
確かにこの記事の原作はかなりの低クオリティだったが、他のもそうなのだろうかと少し考えた。なにぶんプレイ経験が少ないため比較出来る材料がないのだ。この記事はそんな、個人的な経験不足の話が少し関わっている。
今回紹介する作品は2024年4月18日に配信された『ココロシャッフル - Spirit Swap -』だ。原作は2017年1月27日にノアールソフトより発売された『混濁の心魂』(公式サイト。18禁なのでアクセス注意)。いつものように元になったゲームを原作、PandaShojo製はPS版と記述する。最近出たばかりの作品である事を鑑みて、ネタバレと言っても致命的なものはしない方向で行こうと思う。
本作に関して、検証するような内容はあまり無いということをあらかじめ断っておく。
原作について
原作のあらすじ
あらすじの最後の方が何だか投げやりな感じだが、とりあえずはTS物、つまりトランスセクシャル、性転換物である。タイトルから大体想像がつくかもしれないが、これもガッツリ抜きゲーとなっている。タイトル画面が『女体化した主人公が全裸で叫んでいる』絵面なので、内容は想像の通りだ。
男の体なら心は櫻井雪音であり、女の体なら心は主人公の蓮である、というのがポイントになる。以下が登場人物の紹介となる。6人いるがすぐ終わる。ちなみにいつものように、PS版は生成AIによるキャラクターデザインのリファインが行われているので同時に画像を上げておく。
藤本 蓮(ふじもと れん 女体化時CV:和央きりか) 主人公。特に取り柄のない男。飛び降りてきた櫻井雪音とぶつかった事で、定期的に心と体が入れ替わる体質になってしまう。原作には男女とも立ち絵がないが、PS版では女体化時の立ち絵が新規に書き下ろされている。女体化時のみボイスあり。
櫻井 雪音(さくらい ゆきね 原作CV:桃瀬さくら PS版:奥寺かすみ) 蓮のクラスメート。明るく元気な性格だが、何か悩みがある模様。唐突に学校の屋上から飛び降り自殺を敢行し、ちょうど真下にいた蓮とぶつかってしまう。
暁 響(あかつき ひびき CV:神末ここ) 蓮の幼なじみ。明るく元気なムードメーカー。意外と勘が鋭い。原作とPS版とで個体戦闘能力が全く違う。
日溜 美久(ひだまり みく CV:新由宇) 蓮たちのクラスメイトで委員長。真面目な性格で風紀の乱れを許さない。家庭的で、子供の頃の夢は『お母さん』。スタイルが非常によい。
月読 綾香(つくよみ あやか CV:夢月セリーヌ) 蓮たちの学校で数学を教えている教師。しかし教師は世を忍ぶ仮の姿であり、自宅に巨大な研究施設を構える天才科学者。常に大人らしい態度を崩さないが、ミステリアスな部分が多い。
西園寺 啓太(さいおんじ けいた) 蓮の親友。蓮とはとても仲が良く、今まで喧嘩らしい喧嘩をしたことがない。明るく頼りがいのある男で、容姿、性格ともイケメン。ルートによって蓮からの印象が変わる。
物語の流れ
原作もPS版も流れに大きな違いは無い。
屋上から飛び降りた雪音と衝突した事で、蓮の体の中には蓮と雪音の二つの魂が入ってしまった。雪音が起きているときは男性の体で、蓮が起きているときは女性の体と交互に性別・人格が入れ替わるようになる。元に戻るために綾香の力を借りようとするが、なかなかうまくいかない。
調査の結果、蓮と雪音のどちらかが消えてしまうらしいということが判明する。蓮はそこで思い残す事がないよう、好きな相手に告白する事を決意する。
以上がこのゲームの流れだ。告白相手を誰にするかでルート分岐するが、そこまでの選択肢で候補に挙がるキャラがいたりいなかったりする。
分岐してしまうと基本的に一本道なのだが、途中で選択肢が出てその選択によってはEDがさらに分岐する事もある、くらいの変化がある。
抜きゲーだけあって結構えげつないシーンが多い。蓮が痴漢に遭う、学校のヤンキーに襲われる、綾香に調教されるなどだ。学校内であんなおおっぴらに性行為をやってたらすぐバレて警察沙汰だし、ヤンキーは揃いも揃って変態で、いろんなアダルトグッズを学校に持ち込んでくる大馬鹿野郎ばかりである。この学校の治安はどうなっているのか。
どのEDもそれなりの一波乱がありつつもなんやかんやでハッピーエンドになるのではあるが、綾香ルートだけはかなりイカれた展開になる。
綾香は超がつくほどのサディストで、自分に惚れた蓮を徹底的に調教してマゾヒストに開眼させる。彼女の自宅にある研究所には明らかに現代科学のレベルを超越した面白調教アイテムがたくさんあり、触手を模した機械だったり女性に男性器を生やす薬(射精はするが妊娠はしない)だったりと枚挙に暇が無い。これらが入れ替わり立ち替わり蓮に襲いかかり、蓮の自我は崩壊して綾香の奴隷になってしまう。
PS版はどう変わったのか
PS版に関しては、はっきり言って特筆すべき改変は行われていない。あらすじも話の流れもほぼ同じだ。エロシーンが削除されるのは当然の事だが、削除したからといって何か面白い・興味深い展開に差し替えられたということはない。間接キスでドギマギしたり、一緒に手をつないで赤面したりと小学生みたいな恋愛関係が繰り広げられる。キャラクターの掘り下げも少しはされるがおまけみたいなものだ。
一応、綾香による調教ルートはえげつないものからまあまあマシな展開になった。苛烈な快楽攻めで人間性を破壊するよりは、尊厳を破壊して従属させる方向に舵を切っている。なによりどうして綾香がそういう人間になってしまったのかという掘り下げもされているので、ここは良かったと言える数少ない点だ。
響は原作と違って成人男性複数人を同時に相手にして瞬殺出来るほどの強さと、幼い頃に誘拐されて以来刃物が苦手になったという設定が付与された。原作通りだと響は蓮を襲うヤンキーに何も出来ないため、事態の打開に際して必要だと思われたのだろう。しかしさすがに強すぎる気もするが。
そういえば、PS版では舞台が得体の知れない『学園』から大学へとはっきり切り替わっている。その割に妙に中学や高校みたいな学校生活なので、舞台を変えた事によるアップデートがきちんと出来ていない感がある。
学校や学部、学科によって差異はあるだろうが、大学におけるクラス分けというのはだいぶあやふやなものだし(私の大学のクラスは学籍番号で振り分けられるグループ程度の区別でしかなかった)、講義によって受けるメンツが違うため学生同士がみんな顔見知りみたいな間柄なのもおかしい。『進路を第三志望まで決めろ』と言われたり(一般的には就職ではないのか)、学校を休んだら大学から自宅に無断欠席の連絡が入ったり(どんだけ過保護な大学なんだ)。美久のクラス委員設定はなくなったが、大学生にもなって風紀の乱れが~と喚いている姿は不自然だ。あと大学に多目的トイレがないというのも考えにくい。
正直、PS版についてはこのくらいしか語るところがない。
原作・PS版両作に対する感想
個人的に良かった点を挙げるとすれば、登場人物の察しが非常に良いところだ。響、美久、綾香、啓太は皆すぐに蓮の体に起こった異変を察知し、体の中に蓮と雪音の二人が同時に存在している事、そして定期的に性別と人格が入れ替わっている事を受け入れている。
実際は性別が入れ替わる度に世界の設定が改変されているらしく、すぐには気づく事が出来ないらしかった。実際蓮の母親は自分の息子が娘になった事に違和感を全く持っていない。一緒にいる家族より友人たちや単なる一教師でしかない綾香がなぜ蓮の体の異変に気づいたのかについては疑問の残るところではあるが、メインキャラの理解が早かったためシナリオ進行がスムーズに行っていた部分はあると思う。こういうご都合主義なら大歓迎である。
もっとも『どうしてぶつかったら雪音の魂が蓮の体に入ったのか』『精神と肉体がチグハグに表に出てくるのは何故なのか』といった根本的な問題の理由は綾香の雑な説明でごまかされてしまい、具体的に示される事がないのだが。
気になったところはいくつかある。今日は男の体、今日は女の体となる法則性がないため状況の把握が難しいところだ。何なら普通に学校生活を送っている日中でも性転換してしまうのだから余計面倒くさい。
雪音の出番は非常に少ない、男性キャラとしても元の女性キャラとしても。雪音が男の体で竿役をやるのを見ているのはなんとも言いがたい変な気分だった。寝取られとも違うような気がする。
また飛び降りた雪音の体のこともある。これはルートによって扱いがまちまちで、植物状態のままでいるパターンもあれば『いなくなった』と描写されているパターンもある。多分後者は死んでいるのだろう。
また物語のラストに雪音とお別れするシーンも、ルートによってまちまちである。最後の言葉を伝えて感動の別れをする展開もあれば、気づいたら消えていたパターンもある。一番感動的な別れ方をするのが啓太ルートなのは皮肉だ。
終わりに
今回の検証をやって、原作・PS版双方共に「微妙だな」と思う他なかった。原作は確かにえげつない描写が多く抜きゲーとしてはありなのかもしれない。だがなにぶん私はエロゲーの経験が少ないため、そもそもこのゲームはエロゲーとしてクオリティが高いのか判別出来ないということに気づいてしまった。
PS版に至っては、エロシーンに対してこれほど無味無臭な修正を加えるのであればやはり厳しい出来であると判断せざるを得ない。原作との検証作業抜きでこれを遊べと言われたら困ってしまう出来であった。
PS版のシナリオライターである『水野雪村』氏は頑張っているのだろう。だがそれでもまだ、どうしても全編に渡って足りていない描写があったのではないだろうか。プレイ後には言いようのない虚しさだけが残った。
ちなみに最終的に蓮が男に戻れたのかどうなのか、それはこの記事を読んでいる方の目で確かめて欲しい。原作・PS版ともに同じオチを迎えているので、どちらかを購入してプレイすれば自ずと分かるようになっている。
最後に、ギュウギュウ詰めの電車にビビる女体化蓮の画像を見てこの記事を締めたいと思う。
了
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