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迷子のすすめ

〜迷子との清く正しい付き合い方〜

迷子は楽し。
但し、疑似迷子に限る!

あれは学生時代。
夏休みに祖父母の家に家族で泊まりに行った時のこと。

祖父母の家は四国の山の上にあって、行きは空港からタクシーで1時間ほど揺られただろうか。

翌日用事のあったボクは、家族とは別行動で、一人路線バスに乗ってふもとに下りて、予約してある飛行機で帰宅することにしていた。

今回利用するバス停には、一度も行ったことが無い。心許ないので、前日にバス停まで行ってみることにした。
いくつか分岐があるので少しややこしいが、祖父の描いてくれた地図を見ながら山道を15分ほど下って目指すバス停にたどり着いた。

よし!
これで大丈夫だ。

翌日早朝、ボクは祖父母の家を出てバス停に向かった。

山道を下りていくと、分岐があった。
そこで、祖父の描いてくれた地図を忘れてきたことに気が付いた。
まあ、昨日一度通った道なので大丈夫だろう、とそのまま進むことにした。
記憶を頼りに選択した道を進んだが、15分ほど歩いても目指すバス停は現れない。

あれっ、道を間違えたかな?
少し戻ってみることにした。
はじめの分岐点で別の選択肢に進んだ。
されどバス停は姿を見せない。
決めておいた時刻のバスに乗らないと、予約した飛行機にも乗れない。

ここで事態の深刻さに気が付いたボクは、走り出していた。
しかし、走ったとて間違った道は修正されない。早朝とはいえ季節は夏、走った汗と焦った冷や汗がごっちゃになって、泥沼でもがくカモになっていた。(カモさん、ごめんなさい)

はーはーと息を吐いて顔を上げると、畑で作業する老人と目があった。
さすがに農家は朝が早い。
おじいさんが神様に見えた。

「どうかしたんかえ?」
汗まみれのボクを見て、おじいさんが目を丸くして声をかけてくれた。
「それが、バス停に行きたいんですが、道が分からなくなって……」
おじいさんは、ニヤッと笑って、
「バス停なら、ほら」
視線の先には、お地蔵さんの姿があった。
その隣に、錆びて朽ち落ちるのを待つバス停の丸い看板が見えた。

ちょうどその時、向こうからバスがやってきた。
ボクはおじいさんに礼を言って、バス停まで走り出した。
ひた走った。
必死の形相で走るボクを、バスは待ってくれていた。
運転手さんに礼を言って、バスに飛び乗った。

……、と、ここまで語って、はじめに戻る。

迷子は楽し。
但し、疑似迷子に限る!

そう、ホントの迷子はご勘弁を!
疑似迷子。
楽しいのはそれだ。
決して、真正迷子のことではない!

前置きが長くなってしまった。

推奨したいのは……

知らない街を歩いてみたい
どこか遠くへ行きたい〜♫
(遠くへ行きたい:永六輔 より)

「ウォーキングが趣味です!」
と、かっこよく言ってみたい。
が、ちと違う。

歩くことが好きというより、
知らない街を歩いてみたい、のだ。

ただし、本気迷子は困る。

そこで編み出した技が、山手線の内側を散策することだ。

適当な場所から適当な方向に歩き出す。

適当に歩き出すことがポイントだ。
知っている場所に出会う事もあるが、裏道に入ればどこか分からなくなる。
方向音痴という秘密兵器を持ったボクは、見知らぬ土地を歩いている感を堪能出来るのだ。

そして、迷子になっても、そこは腐っても山手線内、そのうち何らかの駅にぶつかるから、真正迷子にはならない。

途中、どうにも方向が分からなくなったときには、グーグルマップの出番となる。

グーグルマップ

ただし、グーグルマップ片手にキョロキョロと周りを見ながら歩いていると、場所によっては職務質問を受けることになるので注意が必要だ。

「もしもし、どこに行かれるんですか?」
道端で棒を持って辺りを警戒していた制服警官に呼び止められた。
「えっと、特に決めてないんですが……」
「決めてない?」
視線が足元から舐めるように上がってきて、目が合う。
「はあ、適当に歩き回っているだけで……」

その後、
「ちょっと署まで」
とはならない。
方向音痴の田舎者を哀れむように、
「まっ、頑張って!」
と見送ってくれる。

迷子は楽しい。
ただし、疑似迷子に限る。

われは迷子、稀代の方向音痴!

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