見出し画像

『ばにらさま』/山本文緒

山本文緒さんブームなので、今回も文緒作品を。
こちらは、山本文緒さんが亡くなったのと時を同じくして
刊行された最後の作品になります。(文庫版も出ています)

短編小説が6編入っており、いずれも書かれた時期としては
2008年〜2016年と少し前のものではあるのですが、
特に最後の2編は「死」というものがキーワードになっており、
ご自身の最期を見据えてあえてこれを選ばれたのかな、
なんて推測しながら読んでしまいました。

私がいちばんイイなあと思ったのも、最後の1編である
「子供おばさん」で、この話は40代半ばの主人公が、
“小学校からの幼なじみで長年仲良くしていたが
ここ最近は少し疎遠になっていた友人”が亡くなってしまい、
その友人が飼っていたゴールデンレトリバーを譲り受けるという話。
主人公の幼い頃の回想も交えながら、
子供時代に思い描いていた未来と現在を比較する描写も多く出てくる。

仕事も変わったし着るものも変わった。起きる時間も眠る時間も変わった。付き合う人の種類も変わった。しかしそれは表層のことで根本的には私は何も変わっていないように感じた。

「子供おばさん」山本文緒

特に印象に残ったのはこのフレーズで、
突然ゴールデンレトリバーを飼い始めたことによって
生活スタイルや生活環境が一変してしまうのだが、
それでも自分自身は変わってないと言い切る姿が自立しててすごいなあと感じた。

何も成し遂げた実感のないまま、何もかも中途半端のまま、大人になりきれず、幼稚さと身勝手さが抜けることのないまま。確実に死ぬ日まで。

「子供おばさん」山本文緒

小説の最後はこんな言葉で締めくくられているのも、イイ。
きっと、死ぬ時に、何かを成し遂げて、
何もかも完璧に人生を終わらせることのできる人なんて
いないんじゃないかと思う。
それでも、「まあいっか」って思える人生であればそれでいい。

いつか、文緒さんが闘病生活について書かれた日記、
『無人島のふたり』も読んでみよう。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集