「力の抜き方」を水に学ぶ シロクマ逃亡記6
生活を楽しむ余裕ができて
少しずつ元気が出てきた前回の逃亡記。
最近本来のパワーが戻ってきた感じがする。
休み初めて約3ヶ月。
仕事復帰に向けて体力の回復せねば。
少しずつ外を歩くようにした。
最近は夏が長くて、昼間は殺人的暑さが続く。
夕方になって日が陰りだしてから歩く。
初めはあの角を曲がったら帰る。
次は5分近所を散歩。
少しずつ距離伸ばして、
40分歩けるようになってきた。
昼間横にならずとも
過ごせるようになりたいと
焦る気持ちもあったが、
だんだん昼寝もなくなった。
季節は梅雨。
傘を差して歩くのもなー。
昨年初秋にダイエットをしようと
プールに通ったことを思い出した。
(ちっとも痩せなかったけど)
正直にいうと面倒くさい。
それでも重い腰を上げて、
とりあえず一回行ってみた。
思いのほか気持ちよかった。
ただ、高齢者に交じってプールを歩いているのに
じゃんじゃん抜かれる。
みんな涼しい顔でいつまでも
泳いだり歩いたりしている。
初めは頑張りすぎないと決めていたので
30分で退散した。なんか、悔しい。
次に行ったときは「マイペース」を心がけた。
何も考えず黙々と歩く。夕陽の時間に行ったので、
ガラス張りの外が赤く染まる。
やっぱり抜かれる。でも、マイペース。
自分に言い聞かせる。
三回目の時、ちょっと泳いでみようかと思った。
泳ぐのは得意でも苦手でもない。
職業柄泳げるし、専門的ではないが教えてきた。
基本的にプールの授業は毎年ある。
ただ、自分自身が泳ぐのは久しぶり。
ゴーグルをつけて潜り、壁を蹴る。
くぐもった音、水の中の感覚。
ボコボコボコ。泡が上がっていく。
光がゆらゆらしている。
気持ちいい。
ゆっくり泳いで、少ししたら歩く。
ちょっと歩いたら、またゆっくり泳ぐ。
今までは自由に泳ぐ時でさえスピード勝負だった。
より早く、より遠く。
今は楽に泳げるようになろう。
そう決めて「力を抜く、力を抜く」
言い聞かせながら泳いだ。
4回目。今日は前回泳げたから
今回もできるだけ泳ぎたいと思った。
何も考えずに泳ぐ。
プールの床の赤い線を見ながら、
今の位置を確認する。
知らず知らずプル(手のかき)の回数を数える。
そういえば前回ここまで10回かいてたのに
今は8回でここまで来た。
よし、できるだけかかずに泳いでみよう。
進まなくなるまでプルもキックもしないぞ。
ビュンと進む、伸びる。
だんだん進まなくなる。
また、
ビュンと進む、伸びる。
自分が進んでいるかに神経をとがらせる。
周り人の動きで調子よく泳げないときもあるけど
自分の泳ぎに集中できた。
もっと上手になりそう。
そう思ったところで、足の裏が攣った。
今日はおしまい、体からストップが出た。
5回目。前回の続きが楽しくなっている。
力が入っているとうまく泳げない。
それがだんだん分かってきた。
少し泳いだところで水中での泡の出方が変わった。
ふと気づく。
あれ?私、呼吸どうしてたっけ?
私は息を止めていた。我慢していたのだ。
我慢が染みついている。ちょっと笑ってしまった。
自分の今までの人生みたいだ。
力がいつも入っている。自覚もなく。
いつも格好つけて、力んでバタバタ泳ぐ。
もっと楽に泳ぐ方法もあるのに、
端から見えたらさぞかし滑稽に見えただろう。
でもこれが今までの一生懸命生きてきた私だ。
早く何者かになりたかった。
一人前に見られたかった。
身長が低く童顔な私は、ずっと先生に見られず
偉そうなキャプテンみたいだった。
生徒や後輩と同化することが多くて悔しかった。
精一杯の背伸びをして分かったような顔をしたり、
身分不相応の買い物をして
自分を大きく見せてきた。
力は入れるより、抜く方が難しい。
どうやったら力を抜けるか分からない私に、
「これ以上力が入らないところまで
ラケットを握れ、もう無理だと思ったら、離せ。
それが力を抜く感覚だ。」
かつて教えてくれた人がいたことを思い出した。
もう限界だと思うところまで頑張ってきた。
もう無理だ。と、手放した。
私はようやく、やっとようやく、
「力を抜く」ということを体感できた。
これが、力を抜くということか。
頭ではわかっていても、
不器用な私は体感しないと分からなかった。
心と体の力を抜く感覚。
やっと感じることができた。
今なら分かる。
去年体重が気になる私に必要だったのは、
プールに通うことではなく、休養だった。
息を吐く。ゆっくり。
進まなくなるまで、バタバタせず、浮かんでいる。
今はただ考えなくてもできるように、
力の抜き方を練習している。
人生を力を抜いても泳げる練習をしている。
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