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別れ上手

海外のリアリティ番組が好きで、配信でよく見ている。
人気のあるものは「日本版」が制作されているが、それは苦手。
なんとなくスケールが小さく感じてしまうし、「日本語」が恥ずかしい。
特に恋愛モノは、「I love you」や「je t’aime」は平気なのに「愛してる」は照れくさい。
自分が言ったり言われたりするわけでもないのに。
外国語にも「月がきれいですね」みたいな言いようがあるのだろうか?

リアリティ番組とはいえ、演出という名の仕込みややらせが含まれていることは承知のうえ。
承知しているからこそ、日本製だと台詞や芝居の良し悪しにばかり気が取られて楽しめない。
ちょっとした抑揚やニュアンスをついつい「嘘くさい」「わざとらしい」と感じてしまう。
日本語の歌を楽しめないのとすこし似ている。
言葉の仕事を長くやり過ぎたせいかもしれない。

心理ゲームや計略モノが好きで、騙したり騙されたりする様子を観察して人間関係を推察したり、嘘つきを見抜くのが面白い。
1年くらい前にネトフリで見た「悪魔の計略」が推し。
来年、シーズン2が配信されるらしい。

シーズン1の出演者が最初に会場に集まるシーンで、一番年配の人(40代くらいの女性)が、若い出演者たちを見て「ここからこっちは『おひとり島』みたいね」と言うのがあり、なんのことかずっとわからなかった。
夏に仕事を辞めてから、時間と精神の余裕ができたこともあって、番組プログラムをだらだらと見ていて、それが「脱出おひとり島」という韓国の恋愛リアリティ番組だと知った。

ガチの恋愛ドラマはあまり見ない。
でも、海外の恋愛リアリティ番組なら見られる。
それでいまさら「おひとり島」を全シーズン分見た。

私は「一途」というのが苦手。
若いころ恋愛至上主義でなかったのも一因だし、距離を詰められると逃げたくなるという性質もある。
それでも、結婚までにはいくつか恋をした。

私が未熟だったせいもあるけれど、「好き」は伝えられるのに「嫌い」が言いにくい。
相手を傷つけず、後腐れなく断れる人を尊敬する。


もう別れたいと、当時付き合っていた人に告げた。
そのすこし前からそう思っていて、こちらとしては距離感や嫌悪感を示したつもりだったが、「察してほしい」というのは、都合が良すぎたのだろうか。
相手の行動に変化がないだけでなく、逆に焦ってどんどん詰めてくる感じになったので、思い切って別れを切り出した。

遠距離恋愛のその相手は、突然上京して、私の家の前で待ち伏せをした。
母が気づいて、駅まで来てくれて「いま帰ってきちゃダメ」と教えてくれた。
それが数日続いたあと、母が私を迎えに来てくれた隙に、なんと父が彼を家に上げてしまった。
父ちゃん、一度も会ったことのない男を家に入れたりして、強盗だったらどうすんの?!といまの時代ならおおごとである。

父はたぶん、手土産の一升瓶に目がくらんだのだと思う。
母と私が帰ると、二人で持参の銘酒を酌み交わして盛り上がっていた。
父にとって、酒を奢ってくれる人はみな良い人なのだ。
そうやっていい気持ちにされられては、保証人のハンコをついて、他人の借金を背負ってきたのだ。

終電が近くなると父は「泊まってもらう」と言い出した。
私は、自室に戻らず、父と母の間に川の字に挟まって横になったが眠れたものではなかった。
そのときの恐ろしいエピソードはまた別の機会に書くかもしれない。

番組でも、相手が別の人を思っていて到底報われないとわかっていても、徹頭徹尾、特定の一人に執着する出演者があらわれる。
画面の前の私は「もういい加減にあきらめろよ」と舌打ちをする。
執着されている人の負荷を想像してしまう。

でも、結果として、相手が振られて「耐えて」「待った」人に朗報が届くと、「努力が報われた」的なハッピーエンドとなる。
耐えて待っても実らなかった人は「可哀そう」という印象で番組が作られている。

私は、途中でもう無理な人に「どんなに想ってくれてもあなたはもう無理」ときっぱりと言える出演者がいると、すごくスッキリする。
それは、一見冷たいけれど、その後の相手の時間と選択を奪わないという点で「親切」だと思っている。
どっちつかずでズルズルと決断を引き延ばすのが一番イライラする。

だから私は、相手の気持ちが醒めたことを「察しない」「察せない」人がすごく苦手。

現実でも番組でも、「一途」が絶賛される傾向がある。
脈がないと見極めた時点で、ターゲットを変えることが、推奨されない雰囲気を感じる。
もちろん、天秤にかけてあちこちの気を引くのは節操がないが、この道での成就はないなと思ったら、さっさと方向転換するのは、そんなにいけないことかなぁと思ってしまう。

文化勲章などの授与で、この道一筋何十年とかいうのが絶賛されると、まあそれは確かに偉業ではあるけれど、そうじゃない立ち位置が低く見られるのはなんだかなぁと思う。
父がそうだったので、職人気質の「〇〇バカ」というのが苦手。
常識や良識だけでなく、自分の専門外のことにも広く見識のある人が好きだ。
特に恋愛に関する「一途」は怖い。

夫とは、順調に?別れられたのが本当にありがたかった。
とはいえ、そこまで26年もかかってはいるのだけれど。


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風待ち
読んでいただきありがとうございますm(__)m