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消火栓と飴のCM

まだそんなに症状は出ていないけれど、花粉症の薬をもらうために受診した。
帰りに散歩。

駅をはさんで海側は、比較的新しい区画で道路も整然としているが、山側は昔ながらの町割の色が濃い。
だから、曲がりくねっているし、路地や行き止まりや私道が多い。
散歩するならこちらのほうが楽しい。
(実際には海も山もない)

特にあてもなくウロウロしたら、焼け跡に出た。
そうだった。
数日前に火事があったんだった。

ご近所の住民が集まって井戸端会議中。
そのあたりでは「知らない顔」である私、不審者と思われるのも困るので、会釈して、さりげなく混ざる。
「怖いですよねぇ」

「知り合いの住所がここらへんだったので気になって来てみたんです」
知り合いがその町に住んでいるのは事実だが、そこに出たのは偶然。

「〇〇さんです」
訊いてないけど、教えてくれた。
知り合いじゃなかったというふうに首を振る。
本当に知り合いだったら怖い。
火事もだけど、その偶然性が。

「だからね」
私が混ざるまでの話題に戻る。
「俺、言ったの。ここらへんに消火栓あるはずだって。でも、消防士さん、ないって言うのよ」
定年退職して町内会の役員を引き受けてくれたっぽい男性。

古くからの住宅街で、道が細いうえに入り組んでいて、思うように消防車が入れなかったらしい。
それで消火に手間取って延焼した。

「ほらね、あるでしょ、ここに消火栓」
「ほんとだ!」
「あった!」
当日は、そこに駐車車両があったらしい。

地面に書かれている「消火栓」「駐車禁止」という文字が薄い。
普通のマンホールと区別がつきにくい。
そして、停めたのは全焼したお宅の息子さんらしいという展開になった。
はぁ~

うちはマンションだから、消火栓地帯は共有地で車も人も立ち入れない区画になっている。
ドカンとした看板があるし、何より柵がある。
でも、戸建て住宅が並んだ道では、ちょっとわかりにくいな。
これ、道じゃなくて、別区画にすればいいのに。
昔からの土地の所有関係からすると、もう変更は難しいのだろうか。

適当なところで、また会釈をしてその場を離れた。
たまたまとはいえ、そして知らない人とはいえ、どなたかがつらい目に遭った現場を見てしまった。
心がどんより。

帰宅してテレビをつけた。
ミルク飴のCMをやっていた。
これを見ると、私の心はいつもざわざわする。

女性がうつ伏せで顔を上げてエステっぽいマッサージを受けている。
うっとりした表情は、施術の効果ではなく飴が美味しいからという話だ。
顔(頭)の前に、アロマキャンドルなのかローソクの炎が揺れている。
そのすぐそばに、いかにもエステという感じのふっくらとしたタオルが置かれている。

私だけかもしれないが、このCMから商品の良さを感じない。
それより何より、炎とタオルが近すぎて、ちょっとしたことで燃え移りそうで(角度的にそう見えるだけかも)、怖くて仕方がないのだ。
火の近くにそんなにものを置いちゃいけないよと注意したくなるのは、老いた母に言い聞かせてきたからもあるし、いま自分に戒めているのもある。

ネトフリのドラマ「御手洗家、炎上する」に、復讐の元となった火事が、ガスコンロの火が近くにあった台布巾に燃え移って床に落ちたのが原因というシーンがあった。
あれを見てから、布巾類はガス台から遠く離して置くように心している。

だから、飴のCMのキャンドルとタオルの近さが怖い。
被災現場を見た今日は、その恐怖は一入だ。

今年は、山火事も含め、火災のニュースが多いような気がする。
散歩の帰りは、町々の消火栓の在り処を気にしながら歩いた。


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風待ち
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