見出し画像

自分じまい

朝、ゴミ出しに出たときポツポツ来ていて、雨かぁと心までどんよりした。
仕事を辞めてから、散歩の予定も雨だとあっさり取りやめにする。
それができる自由を満喫している。
いやなに、これまで何十年も「やらねばならない」ことに縛られていたツケを回収しているだけだ。

でも、今日は出かけねばならなかった。
銀行から司法書士さんを紹介してもらうことになっていた。
「実家じまい」「墓じまい」に続いて「自分じまい」の準備。
ここから先の文章は、一人で老いと死を迎える私だからの話。

ほとんどの人は、子供や兄弟姉妹や甥姪がいるから、否応なくその人たちがやるはめになる。
遺言状などがない場合、普段のつきあいの程度に関わらず、法定相続順にお鉢が回ってくる。
私は子供の世話にはならないとか豪語しているヤツ、よく言うよと思っている。

私はほぼ天涯孤独。
遠く離れた故郷には、ほぼつきあいのないいとこが住んでいるが、そんな人たちに死後の始末をしてもらうわけにはいかない。
膨大な資産が相続できるなら話も違ってこようが、残念ながらその対極にある。
そもそも法定相続人は3親等まで。

交通事故の賠償金が入ったとき、初めて信託銀行に口座を開いた。
その銀行は「おひとりさまサービス」の子会社を持っている。
ネットで検索するとその手の企業や団体がいくつかヒットするが、何を基準に信じたらいいかわからない。
信託銀行ならば、いくぶん信用度が高い気がしたし、万一子会社が不始末をしでかしても親会社としての対面と信用保持のために対応してくれそうに思ったから。
まあ、それで騙されたらもうしょうがない。

そのサービス会社は、主として死後の始末である。
でも、私はもう共同埋葬の権利を持っているし、正直、自分が死んだ後のことは行政に丸投げしたい気分である。
だいたい、自分が死んだあと、実際にどうなったか確認しようもない。

だから、これは自分が「善人」としてきれいに死ぬためのシステムである。
もし不動産があれば売却を代行してもらい、遺品整理を依頼してもらったり、残金があれば(まずないと思うが数年内に死んだら残高はある)それをしかるべきところに寄付してもらったりできる。
何もしないと、国のものになる。
たとえ1円でも裏金議員の歳費の一部になったりすると思うと腹が立つので、たとえば「国境なき医師団」とかに寄付するほうがいい。

問題は、生きているときに体が不自由になったり、認知症になった場合である。
病院や施設の支払いや各手続き、それから管理。
そういう機能が衰えたとき、私には頼める子がいないのだ。
友人に頼むのは申し訳ないし、頼めたとしても相手も私とおっつかっつの年齢だから、どちらが先かという話になる。

2020年11月20日、私は交通事故に遭った。
だから今日は丸4年目の記念日?
そのときは、緊急連絡先も保証人もなしで、手術をしてもらえた。
命にかかわる場合、お医者さんはそういう事務手続きを優先させないと思う。
でも、必要な物品の調達は友人にお願いした。
万一のときの手続きに関して、遺言メールも送った。
ちゃんと退院できたので、支払いは自分でやった。
でも、これが認知症ならできない。

そのために、任意で後見人をお願いできると銀行から説明された。
交通事故のときは、弁護士さんのあてさえなかったので、一から検索して見つけたが、悪徳弁護士でなかったのは幸運だったと思う。
ネットだけの情報ではやはり心もとない。
銀行が後見人を頼める司法書士さんを紹介してくれるというので、今日会う約束をした。

銀行の会議室で、司法書士さんと銀行の担当の人と資産アドバイザーと私で2時間弱の面接というか懇談。
私が元気なうちにできることやなすべきことを挙げてもらったら、一番優先したほうがいいのは遺言書だと言われた。
え?
考えたこともなかった。

遺言書なんてものは、犬神家のような一族が相続で殺人を起こさないように作るものだと思っていた。(あればあったで殺人の動機にもなりうるけど)
しかし、よくよく聞いてみると、遺言書が一番必要なのは「天涯孤独」な人だとわかった。
法定相続人がいない人。
遺言書に「この遺言は〇〇が執行する」と書かないと、誰も死後の始末に手を出せなくなってしまう。

遺言書は内容によって値段が違うそうだ。
複雑な内容だと高くなる。
私のは、もう執行人を指定するためだけのようなもの。
相談と作成セットで司法書士さんに5~10万円。
公証人に5~10万円が相場とのこと。
きれいに死ぬにはお金がかかる。

そしてこの遺言執行人と後見人を同一にしておいたほうが生前も死後もスムーズにことが運ぶとわかった。
銀行子会社のサービス会社に頼むと30万円だそう。
これは、銀行が存続する限り、担当が変わっても同一のサービスが自動的に引き継がれることが保証されているから。

交通事故とか梗塞系の病気だと今日明日ということになるが、とりあえず「5か年計画」であることを伝えた。
グレーヘアー計画も5か年なのだが、地道にコツコツ進めたい。
後見人との契約は、非常に詳細なものが必要で、そこに書かないとそれ以外のことはやってもらえないそうだ。

ひな形をもらってきたので「5か年計画」で検討する。
5年は生きているというのは、何の根拠もないただの願望。
交通事故と転倒には気をつけている、つもり。

交通事故のときにお願いした弁護士事務所は、地元では大きくて、相続案件もやっているが、弁護士さんは司法書士さんよりたぶん高い。
いずれにしても、いざというとき相談できるところがあることに安心する。

行きは雨なので、傘をさした。
左手で持つのは、転んだとき、左手をつけないから。
だから雨の日は極力出かけたくない。

帰りは上がっていたので、買い物をして帰った。
今夜は、久しぶりの刺身。

退職してから、生活費がずいぶん減った。
会社の帰りに「なくても済む」ものをつい買うということがなくなったからかもしれない。
それとも「稼いでない」という意識が作用しているのかも。
倹約の意識はないが、質素な暮らしは、誰かに強いられない限り、それほど苦ではない。

派遣会社から会社見学の都合を聞く電話。
適当にエントリーしたら社内選考で残ったらしい。
会社見学に行ったらもう断りづらい。
まだ働きたくない気持ちと、そろそろかなという気持ちがせめぎ合う。


いいなと思ったら応援しよう!

風待ち
読んでいただきありがとうございますm(__)m