妻は覗かない

中学の時だったか、校内放送で「夕鶴」の朗読をしたことがある。
何のイベントだったのか、どうして私がやることになったのかまったく覚えていないが、例によってズル休みをしているあいだに決まったらしい。
演劇部だったせいかもしれない。

「鶴女房」を木下順二が戯曲にしたもので、つうがトンカラリントンカラリンと機を織る「鶴の恩返し」。

先日図書館で借りたものの一つが「裏切りの日本昔話」。
高校生になってから、昔話、伝説、民話の類が好きになったのは、幼い頃に触れられなかったせいだろう。
冒頭に、「浦島太郎の玉手箱」が乙姫の復讐だったと書かれているが、これは私が長年思っていたのと同じだったので、思わず借りてしまった。

大体、「開けてはいけませんよ」というのは、「開けてみなさい」という誘惑でしかない。
開けてはいけないと言われて開けずに済む人は、この箱の外観を眺めているだけで満足できてしまうのか。
乙姫がくれたという事実だけで思い出に浸り、幸福感を味わえ、中身なんかどうでもいいのだろうか。

そもそも、開けてはいけない箱なんか、なんでくれるのか？
そこからして怪しい。
もらっても意味がないし、おかしすぎる。
私が太郎なら、絶対にもらわない。
もらってもろくなことはない。

案の定、この本にも「鶴の恩返し」が取り上げられていた。
「○○女房」の話はほかにもたくさんある。
蛇女房、鴨女房、鯉女房、蛙女房など。
男が偶然助けた動物が、美しい女に身を変えて訪ねてくる話だ。
男とその女は恋に落ち、夫婦となる。
しかし、大抵は、見てはいけませんよ、という約束を男が破ったために、結婚生活は破綻する。

男はいつも助ける側で、恩返しにやってくるのは女で、妻となって家事をする。
あるいは、「つう」のように身を削って家計を助ける。
そして男たちは禁を破る。

朝に逃がした雄蜘蛛が若いイケメンに身を変えて「あなたの夫にしてください」とやってきて、家事に勤しみ、レースのコースターなど編んでガンガン売って大儲けをして夫婦で裕福な暮らしをしたという話は、あるのかもしれないが私は知らない。
いや、きっと物語にならないのだろう。

だって、女は、家事や育児や介護を担ってくれたり（手伝い程度ではなく）、ガンガン大儲けをして経済的にも豊かな暮らしを与えてくれるなら、そしてその商売が犯罪などに絡んでいないと思える限り、たぶん「見てはいけない部屋」を覗いたりしないから。
まあ、中には夫のスマホをチェックする妻もいるのかもしれないが、それは嫉妬からくるものでまた別の話。
私はしないけど。

これで思い出したのだが、昔「烏賊女房」という話があった。
漁師が、網にかかった烏賊を助けてやる。
すると、烏賊が若い女になって訪ねてきて、男と夫婦になる。
女房は、味噌汁が滅法うまい。
秘訣は何かと男が訝しんで、あるとき、見ないでと言われている台所を覗く。

すると。

すると。。

女は、白いお尻をペロンと出してそこから垂れる汁をポタポタと味噌汁に入れていた・・・。
烏賊みたいに白くてつるりとしたお尻・・・。

・・・・・・・。

想像したかたがおられるだろうか。
烏賊のエキス入りの味噌汁は、美味しそうだと思う前に、男性はエロスを感じ、女性はお尻の汁と聞いてちょっと遠慮したいような気がしなくないだろうか。

これが伝わっているのは、港町だろう。
鶴より烏賊がリアルな土地。
伝承とは、不思議な味わいのあるものだ。

もうひとつ、蛤女房というのがある。
味噌汁に入れるなら、蛤のエキスのほうが美味しそうだ。
しかし、女が元のカタチの蛤になってその汁を味噌汁に投入している図。
・・・・・・。

なんとなく絵本にはしにくい。
鶴が己の羽で錦を織っている図こそ美しく哀れである。

これらには土地柄のほかに、どこかにエロスと残酷さが秘められていると思う。
それから男の願望とか。

覗くなと言われて覗かない妻の話では盛り上がらない。
けれど、好奇心や猜疑心を我慢したり、見なかったことにして現実生活を保っている妻はたくさんいるのだ。
盛り上がらないかもしれないけれど、そのひとつひとつも確かな愛憎の物語。
乙姫から見た竜宮城の「ヒモ男」の話も語られない。

※アップしてみたら記事の下に勝手に「連続投稿チャレンジ」なるバナーが出る。
私は断じてチャレンジなどに参加していないし、する気がないし、むしろnoteの連続投稿をそれだけで「良し」とする感じが忌々しい。
むかつく！
消し方をご存じの方、教えてください。

→百さんに教えていただいて「読書感想文」のタグを消してみたら、「連続投稿チャレンジ」が外れました。
すっきりしたけど、読書感想文と連続投稿とどういう関係があるんだろう？
連続投稿じゃなくて、たまに読書感想文投稿のときも、このタグをつけるとこうなるの？
noteは、へんな広告が挟まらなくてシンプルなところが気に入っているんだけど、いまいちシステムを理解できてない私です。
百さん、ありがとうございます！