春雷
花曇りというには、まだ花が満ちていない。
通勤途中の頭上。
持って出た長い傘の骨は16本。
予報が的中して、帰りは雨になった。
雷は鳴っていない。
あれは一昨日だったか。
突然の雷鳴に慄くというより耳をそばだてた。
線を引けない曖昧さを歓迎しながら、どこかで待っている区切りのようなもの。
暦の上での朔日は、私にはさほど意味がない。
たとえば。
突然の春を誇示するように轟く雷鳴を、乞う夜がある。
好きだったものをずいぶんとなくしてしまった。
何かを得ようと伸ばした手のひらからこぼれ落ちるものたち。
落としただけでつかめなかったものへ悔いと憧れを打ち砕くように稲妻が夜を裂く。
たぶん。
抱かれた男と、抱かれなかった男との、両方への想いが残っているとすれば、後者のほうがたちが悪い。
あとを引く。
そんなとりとめのない、けれど確信に近い感覚が、豪雨と一緒に降り注ぐ。
夜が哂って、雷鳴。
消えゆくもの、残るもの、奪ったもの、与えたもの、得たもの、得られなかったもの。
数え折ってゆく指に雨。
そして花。
「どうしてと あなたは尋ねる どうしてと 私は応える 春雷が鳴る」
※記事をアップしてから、宮崎で落雷の被害に遭われたニュースを拝見しました。記事は雷を歓迎するものではありませんが、重体の高校生もおられるとのことで、お見舞い申し上げます。
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