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4/4 SDGsは終わってしまったのか?|澤 克彦(九州環境地域づくり)

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vol.4 YAYAYA! 半導体工場がやってくる

【AI要約】
台湾半導体企業の九州進出が経済を活性化させる一方で、地価高騰や交通渋滞、地域多文化共生などの課題も生じています。九州全体が戦略的な進出先となる中で、社会インフラづくりとともに、不足しがちな市民目線での議論が求められています。
経済優先の流れが環境や社会を圧倒する状況は、水俣病の経験とも重なります。過去の教訓を活かし、市民による対話と合意形成を進め、持続可能な社会づくりに向けた誠実な発信が重要です。

【本文】
なんだかんだでこのコラムも最終回となりました。ニュアンスと雰囲気で書き進めてしまったので、読後感もなにも残らないとは思いますが、それでいいのです。 

さて、九州で話題沸騰となっている台湾半導体製造工場の建設・立地について、少し違った角度から考えてみたいと思います。
つい先日、その本社ミュージアム(事前予約の企業コンセプトミュージアム)を訪ねてきました。彼らは1980年代から垂直統合型の半導体製造と利活用モデル(日本が得意としたビジネスモデル)に見切りをつけ、水平分業による工場企業としての戦略に舵を切ったことは周知のところですが、その根底には「新生・創生」というイノベーション概念がある、と様々な展示をとおして伝えています。 

現在、第2工場建設間近と言われている熊本県菊陽町では、第1工場稼働開始に伴って経済の加速が進んでいます。土地の値段が高騰し、アルバイトの賃金も上昇、小さなお店は営業を進めにくい場面もあるようです(実際、熊本ラーメンの名店が撤退してしまいました)。
通勤ラッシュもこれまでとは違った方角からの車と人の動きで周辺道路は激しい渋滞が生じ、JR駅はプラットフォームの長さが足りないという話も出ています(多両編成の電化車両が停車するだけの駅施設のキャパ不足もあるようです 鉄分多めの説明ですみません)。
経済が地域を牽引することで、社会と環境の課題を解決に向けて動かしていくことが大切ですが、どうしても時差が生じます。
学校や福祉の現場では多文化共生の面からも、地域のコミュニティレベルで対応が求められています。今後は学校運営も、その適正な規模の確保と多様性対応への教育投資が必要になると言えます。 

立地地域が得る恩恵と直面する課題を他人事にしがちですが、台湾(当の本社は台北より南の新竹市)から見ると、九州という島全体が進出先のエリアとしてとらえられ、その視野(戦略的パースペクティブ)には、工場立地における地下水資源に加えて博多港・八代港・鹿児島港を結ぶ新幹線・高速道路というモノの出入り口と九州各県に整備された空港群(国際線発着も可能な空港の密度は相当高いといえます)による人と情報のインターフェイスが、九州という島全体のインフラ活用として織り込まれているようです(社会資本へのタダ乗りとは言い過ぎでしょうか)。 

前置きが長くなりましたが、国をあげて誘致支援している半導体復古の大号令の中にあって、もっと市民の目線からの発信とコミュニケーションが大切になります。
SDGsでいうところの環境・経済・社会のトリプルボトムラインが、いつのまにか経済ありきのシングルディスク(この場合はシリコンウエハーですが)が高速回転し、地域の環境と社会を分断し振り回す。
あれ、これって水俣病で経験してきたこと、現在進行の課題なのではないでしょうか。こじつけな言い方になるかもしれませんが、水俣のことを他人事にしていると、目前の半導体先端経済の中で、次は私たちがその負の立場に立たされるかもしれません。
だからこそ、私たちなりの対話と合意形成、誠実な発信が大切になるのです。市民社会浮揚の契機として、強かな存在感を高めていきたいと思います。