アルデルの小瓶 叶
『ふしぎ魔法ファンファンファーマシィー』という作品をみなさんはご存知だろうか。
noteのテーマに『薬局』を据えたときわたしが久しぶりに思い出した、
『アニメ週刊DX!みいファぷー』内でアニメ版が放送されていた作品である。
主人公のぽぷりの自宅からちょうど100歩のところにある薬局は、
本物の魔法使いふきこさんが経営している。
ひょんなことからふきこさんの見習いとして魔女になったぽぷりが、
人々や精霊たちとの交流を通じて成長していくという物語だ。
大人になった今は魔法よりも100歩で行ける薬局という点に惹かれてしまう。
さて、この作中にはキラキラ魔女作品に必須の主人公が使う特別アイテムが出てくる。
それがこの記事のタイトルにもなっている『アルデルの小瓶』だ。
わたしはセーラームーンの変身ペンや変身コンパクトを模した玩具を毎年のように欲しがるタイプの子どもだった。
年度が変わるごとに新シリーズのアイテムに変わるので、
それはそれはバンダイにとってのおいしいカモであった。
そしてわたしはそれまでの習慣に違わず、
まんまとおもちゃ化されたアルデルの小瓶をクリスマスプレゼントに両親にねだった。
その年のクリスマスの直前、
旧天皇誕生日の夜のことだった。
待ち切れない気分だったわたしはつい、父に聞いてしまった。
「アルデルの小瓶、ちゃんとある?」
それを受けた父はこう答えた。
「アルデルの小瓶?
叶が欲しいと言ってたのはアンデルセンの子豚じゃないか」
わたしは唖然とした。
子豚は知ってる、しかしアンデルセンとはなんなのか。
とにかく自分が求めているアルデルの小瓶ではないことだけは確かだ。
父は続けた。
「アンデルセンの子豚はきちんと用意してある。
ちゃんと買っておいた」
と、地元の大手玩具屋の名前を出した。
わたしは半泣きになりながら言葉を捻り出した。
「違う、そうじゃない。
わたしが欲しいのはファンファンファーマシーに出てくるアルデルの小瓶だよ」
父はわたしの主張を受け流し、
アンデルセンがどれほど素晴らしい作家であるかを語った。
しかしわたしはそれどころではない。
待ち望んだクリスマスの直前に、
欲しかったキラキラおもちゃが謎の子豚に化けたことを知らされたのだ。
それはもう、必死に父に訴えた。
「わたしがほしいのは、アルデルの小瓶!
アンデルセンの子豚じゃない!!
アンデルセンの子豚はほしくない!!!」
それを聞いた父は
「人が用意した品物に対して文句をつけるとは良くない」
とわたしを叱った。
わたしは絶望的な気分に打ちひしがれながら泣くしかなかった。
クリスマスの朝、わたしの枕元には綺麗に梱包されたアルデルの小瓶があった。
アンデルセンの子豚は父の冗談であったのだ。
父は無口であるのに、
たまによくわからない冗談を言う人だ。
アンデルセンの子豚なんてワードをあの一瞬でよく思いついたなと感心するし、
贈り物に対してケチをつける我が子を叱るのは親として真っ当である。
セーラームーンの変身アイテムの正式名称はなにひとつ覚えていないのに、
アルデルの小瓶だけは強烈に覚えているのはお陰様というかなんというか。
当時玩具屋で絶賛売り出し中のアルデルの小瓶より、
アンデルセンの子豚を見つける方がよっぽど骨が折れるだろう点も含めて、
わたしの中で印象深い出来事になっている。
それではまた。