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【万年筆】パイロット・カスタム823透明ブラック、シルバーン石だたみ  もりたからす

古人曰く「江戸の敵を長崎で討つ」とか。

遠路はるばるご苦労なことだが、これはどう考えても、江戸で討てちゃったほうが楽である。

それで私は、万年筆にまつわる倦怠を、万年筆で解消することにしている。

私の万年筆歴はそれなりに長い。高校受験で父の母校に落ち、滑り止め校への進学が決定した際、「それでもまあ、入学祝いは入学祝いだからな」という、不必要に屈折した表現とともに父から贈られたパイロット・カスタム74が、私の初めての万年筆であった。


あれから私も色々あったが、今でも一番好きなメーカーはパイロットだ。

現在、使用頻度の最も高い一本はカスタム823。字幅F、インクは純正ブルーブラックを入れている。


同社製品はこれより上のランクになると軸の素材が変わるので、私は勝手にこのカスタム823を「樹脂軸=普段使い万年筆のフラグシップ」だと思っている。


現代では万年筆は「わざわざ」付きで愛用する筆記具であるからして、やはり「らしさ」にはこだわりたい。

その「らしさ」、万年筆の万年筆たる所以は畢竟、大型の金ペン先と吸入式に尽きるのではないか。

その点、カスタム823は14K・15号ペン先に、現行品としては個性爆発のプランジャー式吸入機構採用と文句の付けようがない。

キャップを外す一手間、尾栓をひねるもう一手間が趣味の道具として愛おしく、いざ書き出せば大容量インクタンクと滑らかな書き味でヘビーユースに耐える実用性。

カスタム823こそが、万年筆の王道だと私は考えている。

しかし、時にはそのちょっとした手間暇が、王道ゆえの「正しさ」が、気だるく感じられることもある。だって現代人だもの。

そんな折、私は万年筆の代用として、別の万年筆を使っているから毎日がそこそこ愉快だよ、というのが今回の記事の題目である。

お気楽代替万年筆は同パイロットのシルバーン。柄は石だたみ。ペン先はF。私は細字が好みでそればかり使う。インクはやはり同社ブルーブラック。

「スターリングシルバー製の高級筆記具」と表現すれば威勢が良いけれど、この万年筆はキャップ(嵌合)式、一体型ニブ、大型コンバーター不可、と同社「エリート」の重厚版みたいな可愛いやつである。純銀ふみふみ。

インクもカートリッジを選び簡便化に努めることで、我がシルバーンはボールペンに匹敵する機動力を手にした。それでいて書き味は万年筆なのだからもう最高だ。一方の極致、という感じ。

最近はメインにカスタム823を使用しじっくり、ちょっとくたびれたらシルバーンでささっと、なんて理想的な筆記空間を演出している。

理論上はこの2本で私の筆記にまつわる欲求は完全に満たされるはずなのだが、そこが万年筆七不思議というやつで、なぜかその他の万年筆も一向に使用頻度が低下しない。


現在インクを入れているカスタムカエデ、


プラチナ・#3776センチュリー、


モンブラン・149、

どれもヘビーユースだ。

右手ばかりが万年筆の喜びを味わうのももったいないので、近頃はセーラー・プロフィット21をもっぱら左手用として使っている。


魅力的な万年筆はあまりに多く、腕が何本あっても足りない、という点は衆目の一致するところだ。

しかし実際に使う腕の方を増やしちゃった例は、結構珍しいのではあるまいか。



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