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【短編小説】習作・夢の話・戦争  もりたからす

ちゃちな国産単眼鏡で、私はそれを見た。

敵方の艦上で一人の老人が捕らわれ、先程まで司令官室、あるいは一等個室と呼ばれていた部屋、情勢の加減で牢屋となった自室へと連行されて行く様を。

しかし勝利の感慨は一瞬のことだった。まだ相手方の艦影が残る最中に、概念としての軍閥がやって来た。

概念としての軍閥は支給品より質の良い、同盟国製の双眼鏡を持っていて、事の成り行きを早々に理解していた。彼らは局地でのこの戦果を利用し、部隊内の反戦派を一掃するつもりで動き出していた。

その逮捕に見境がないことは、初め私が、次いで伊藤がその対象となったことですぐに判明した。

反戦派の重要人物達は揃って逃げ出そうとしたが、数歩動いたところを速やかに銃殺された。双眼鏡にとどまらず、軍閥の支給品はどれも同盟国製で高性能だという噂は、少なくとも小銃に関して実証された。

私と伊藤、驚くべきことに青ペンまでがまとめて放り込まれた部屋は、かつて使われた痕跡もない粗末な一室だった。

青ペンは眼鏡をかけた小太りの男で、あらゆる筆記に青色のインクを用いるところからそう呼ばれていた。

彼が反戦一党であるとは初耳だった。確かめようにも、名簿を握る幹部はことごとくがこの暑中に甲板に倒れ、成仏の間もなく新盆が近い。

青ペンは平気な顔で汚い床に座り、布きれを膝にかけている。伊藤も焦げ穴だらけのボロを体に巻いて震えていた。どうやら揃って、季節を失念している。あるいは快適に過ごすのでは弾圧を受ける楽しみが減るとでも考えてのことかもしれない。

「戦争が終わったらどうする」と私は言った。
「これで終わるのか」と伊藤。

「僕は故郷に帰ります」
青ペンの声はよく響く。

「故郷に戻って、双子の兄とまた農業をやるつもりです。徴兵前は人参をやっていました。今度は蕪と大根もやるつもりです。根菜はやはり、重量の点で有利です」

青ペンの兄もまた戦争に取られ、陸軍で大陸の方に出ているらしい。

「兄は死んだかもしれません。そしたら胡瓜も作ります。あれも大きく育てば、味はともかくごく重くなります。兄が嫌いでこれまではやりませんでしたが」

青ペンは分厚い丸眼鏡を外すと、胸ポケットから取り出した布でレンズを拭いた。

その上品な紺色の布はどうしても国産品らしくは見えず、それに気付いた私は、もう何も喋ることができない。

伊藤は最後まで私の目配せや咳払いに気付かず、丸ペンに込み入った内情を語り続けた。



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