「うしおととら 藤田和日郎」25巻感想
うしおととら 藤田和日郎 小学館/少年サンデーコミックス
25巻
第三十八章「あの眸は空を映していた」
第三十八章「あの眸は空を映していた」
キリオ再登場、キリオと真由子の再会
しっぺいたろうの回
25巻は自分で購入した初めての「うしおととら」なので、思い入れが深いのです
あのスタイリッシュですかしていたキリオが薄汚れて弱弱しくなってしまって…
早熟で聡明なことが仇になって、己の存在意義がすっかりと行方不明の様子
スタンスの変わらない九印が救いです
「自分にはキリオが蒼月に劣っているとは思えないが」
「ぼくは…もう…終わっちゃってるんだよ…」
冒頭に表示される地名は「静岡県間白町」
潮が「静岡名物うなぎパイ」と言っていることから浜松周辺
しっぺい太郎と白羽の矢の昔話ということから舞台は磐田市でしょうか
悉平太郎伝説の地といえば「見付天神」ですが、ここは海から距離がある
本作では、砂浜からすぐのお堂が狒々たちの出現場所でした
「人といるのが怖い」とか「今日は怖い夢をみたくない」(=いつも怖い夢を見ている)とか心が弱っているキリオが海沿いのお堂で野宿していると、
外に狒々の妖たちが現れ、倒れ伏した女性を囲んで歌い踊りだす
歌の内容は「このことを信濃の国の光前寺 しっぺい太郎に知らせるな」というもの
お名前だけでなく、細やかな地名まで教えて頂いてありがとうございます
昔話ってこういうパターンが多いですよね
目を覚まし悲鳴をあげる女性
キリオが助けに飛び出すも間に合わず、女性はバラバラにされてしまい、キリオと九印は狒々の首領に敗北
一夜明けて、静岡県の祖父の家に母親とともに遊びに来ている真由子
現在春休み中とのこと
麻子との電話が黒電話とコードレスの子機なところに時代を感じる
潮は埼玉県に一泊のスケッチ旅行に行くとのこと
真由子の従姉妹の河田由加里が祖父宅を訪れ、再会を喜ぶふたり、
居間のTVでは行方不明の女子のニュースが流れている
彼女がいなくなる前夜、家の壁に白い羽根の矢が付き立っていたとの噂あり
真由子「それ…秋田でも去年あったよね…」
なまはげの事件、ちゃんと全国ニュースになっていたようです
おじいちゃんから「しっぺい太郎」との言葉が出る
静岡では有名な昔話「しっぺい太郎の妖怪退治」についての説明が入る
そこに電話で一報、由加里宅に白羽の矢がつき立っていた
真由子は祖父に昔話ではどのように妖を退治したのかを問う
「しっぺい太郎が人身御供の身代わりになり白木の箱に入った」との答え
由加里はやや垂目、そばかす、みつあみおさげ、真由子似のかわいい子
由加里に付き添う真由子
玄関の白羽の矢を見て、いたずらではなく本物の妖の仕業であると確信する
時代を感じる公衆電話で麻子の店に連絡を入れ、潮ととらに助けを求めようとするが、二人は既に出かけた後であった。
携帯がないこの頃ならではのすれ違い
あと時代を感じるといえば、キリオが購入したヤマザキらしきジャムパンが88円のところも
確かにこんな感じのパンがこんな感じの値段であった気がする
食べたくなってくる
どうしようと歩き出した真由子は海岸で座り込む少年を見て、潮と勘違いする
思わず「うしおくん…」と声をかけるが、それはキリオであった
「うしお」という名前にそれは「蒼月潮」のことかと問うキリオ
そこから、潮を交え顔を合わせたことがあると互いに思い出す2人
「遠くからみたらそっくりだった」と不思議がる真由子に
潮の家が光覇明宗の寺であり、自分はそのお坊さんの修行をしていたと告げるキリオに
真由子は紫暮のように妖と戦えるかと助けを求め、事情を話すことになる。
視線を合わさずに話を聞くキリオにぐいぐいいく真由子
この時のキリオの表情がかわいい
できるだけのことをやると手助けを引き受けるキリオ
明日の夕方、再び砂浜で落ち合うことを約束し、解散
本来なら姿が見えない筈の九印にも声をかける真由子
そのことを不思議がる2人だが、気になる比重としては以下の事柄の方が重いので、さらっと流されてしまう。
九印:人と話すことを嫌がっていたキリオが真由子と話しをしていたことが不思議、
キリオ:普通の大人なら自分のような子供が修行僧と言ったら笑うのに、必死に頼み事をされたこと
真由子に四代目お役目としての力が出てきて、遠目に霊力を見ていた、九印も見えるという伏線かな
キリオと九印は狒々たちが歌っていた「信濃の国のしっぺい太郎」という言葉を手掛かりに、長野県へと向かう
九印が飛んで連れて行ってくれるのが便利、交通費いらず
翌日、真由子は由加里の家に泊まりに行く準備をする
髪形を彼女と同じものにしていざという時は身代わりになるつもり
由加里は自分に髪形を似せている真由子に「何を考えているの?」と案じるが、ごまかされてしまう。
長野県で聞き込みを続けるキリオは、子供たちに「タロー」と呼ばれるよぼよぼの老犬と出会う
「似てるよなァ おまえ… ぼくにさ…」「飼い主にすてられてさ。」「薄汚れて…よぼよぼで…」「終わっちゃってるんだよな…」
自虐…ちなみに2個目の台詞のコマは斗和子
しっぺい太郎は見つからなかったと静岡に戻ろうとした時に、犬のタローが立ち上がったことから、キリオはタローを抱き上げて連れて行くことにする
「どうせ、ぼくにもおまえにも…何もないんだろうから。」タローと自分を重ねての自虐
いまは自虐だけど、ここでタローと自分を重ねていることが後々いい方向に響いてくるのです
九印とキリオの移動方法、飛び立つ時の様子から、九印が抱きかかえていくのかなと思ったら、空中でキリオが背中に乗っていました
髪がたなびいているので、風はうけているのかな
その中でタローの首のリボンを触ると、大人しいというか弱弱しかったタローがうなり声をあげる。
「おまえも…前の飼い主のこと…ひきずってるのか…」
九印曰く「今のキリオには何かが足りぬと思う…」
ここでもキリオとタローのやりとりの間に斗和子のコマが入るのだけど、前回よりも斗和子の姿が小さくなっています
月も高くなったころ、和室で布団を並べて眠る真由子と由加里
真由子は、由加里が眠ったのを確認し、繋いだ手をほどいて抜け出す
むかうのは由加里の部屋、そこで待機
何か起こるかもしれない待ち時間、怖いよね
物音に思わず窓を開けて外を確認してしまうと「しっぺい太郎はきてないな。」という声が後ろから響く。
振り返ると、天井にさかさまに張り付いた狒々の姿
悲鳴をあげかけたところで、背後の窓の外から狒々の無数の手が伸びて連れ去らわれてしまう
ここの一連の流れが怖い
リュックの中に用意してきた、小袋に詰めた墨汁や胡椒で反撃するも、狒々の頭領「白髭」につかまってしまう
頭をつかまれ、死を覚悟する真由子
そこにキリオが駆けつけるものの、白髭に歯が立たない。
「ダメだ…!こいつ…やっぱり強いよ」
強キャラのピンチはときめく。
人間性を疑われしまいそうですが、キリオが倒れて怯えるシーンがいい。(この後奮起することを前提としてとかっこで言い訳をしてしまう)
完全に及び腰のキリオですが、その時やってきたタローがペロりとキリオの手を舐める
「バカ!おまえあっちへ…」この発言だけでキリオが良い子だとわかる
「タロー」の言葉だけで「太郎!」とパニックになる狒々たちだが、
頭領は落ち着いたもので、にやああと笑うと「しっぺい太郎」ではないただの老犬だと見抜き、タローにむけて拳を振り上げる。
キリオが身を低くさせ、白髭の拳はタローの身体には当たらなかったが、
首のリボンをかすめたことによって、リボンはちぎれてしまった
牙をむき出し、大声で吠えかかるタロー、その勢いのままに白髭の喉に喰らいつく
呆然とするキリオ
手下の狒々たちは真由子を放り出して、頭に加勢しようとするが、九印に阻まれる
「キリオ、こちらはこの九印にまかせよ。」つまり、そちらはキリオがどうにかせよ
タローの戦う姿
そこに真由子が加勢する様子に徐々に顔つきが変わっていくキリオ
白髭に投げ飛ばされたタローを受け止めようと手を伸ばす真由子
そんな二人に、まとめて殴りかかる白髭
間に割って入るキリオ
やっぱりエレザールの鎌はかっこいい
しかしリーチと鎌部分が長すぎるため至近距離で割って入るの苦しい
でもかっこいい
キリオの表情も良い
人間味が出てきましたね
そうは言っても、白髭の実力が上なのか反撃にあうキリオ
キリオのピンチに真由子が「キリオくん!」と叫んだ次のコマ、
小さな結界が現れ白髭の動きを封じている
白髭にとどめの一撃を入れ、以前潮に言われた言葉を思い出すキリオ
真由子とタローの無事を確認し、戦闘中に白髭の動きが止まったことを疑問に思いながら、出血のためか倒れてしまう
キリオを背負って病院にかけこむ真由子
「誰かを助けるってこんなに良い気持ちなんだ」「はじめてわかったよ」と目を閉じるキリオ
翌日(?)、医師には無断で病院から逃げてきたキリオと九印が砂浜で会話するシーン
「ごめんよ九印」「ぼくは今まで何もないと思ってたけど……おまえが、いたんだなァ。」
この話のキリオと九印やっぱり好き
ここから相棒感が増してくる
だから最終決戦で私が号泣することになる
今回は、前章「TATARI BREAKERE」で博士たちがくどめに発表した
「相棒 PARTNERS」
「護るべきもの THE PEAPLE THEY PROTECT」
「強大な敵 ENEMY」という構成をキリオに当てはめた回でもありました
真由子に行く当てがないならいっしょに来るかと誘われ、キリオが立ち上がって駆け出すラストシーンが好き
太郎の眸にはさ…空が映っていたもん…
タローと重ね合わされていたキリオもここで完全復活
あと本編に含まれないけど、「巻末のおまけ」の「きりおとまゆこ」の「金くれっつってんの!」が好きです。
第三十九章「業鬼」
第三十九章「業鬼」
符咒士 鏢再登場
中国の妖 ギ(兄・魏・小さい・心を読んで幻を見せる)とボ(弟・暴・大きい)登場の回
山でのスケッチを楽しむ潮、前章で話が出ていたスケッチ旅行かな
潮ととらのやりとりがかわいい
猛スピードで突っ込んでくるギとボを正面から槍で受け止めた潮
口中の人間の死体を見て激高
とら曰く「正面きってぶつかりやがって…バカだなァ~」
獣の槍だと気付いたギとボだが、彼ら曰く「鏢に比べたら全然怖くない」
体勢を立て直して、槍を向ける潮だが、ギが出した紫暮の幻を前に攻撃を止めてしまう
この紫暮(幻)シリアスモードでとてもかっこいい
ギ「こんなに心の見えやすいヤツア初めてだぜええ」
サトリ回でもそこは克服できていなかったものね、素直な心の声で圧倒していただけで、駄々洩れのままだった
そのまま食されてしまいそうな潮に
いろいろ言いながら建物の中に踏み込もうとするとら、しかし建物には結界が張られていて程よく焦げてしまう
このパターンは鏢さん!
鏢の登場に、エピソード冒頭のように再び恐慌状態になるギとボ
一方の鏢は2体に背を向けて「久しぶりだな 蒼月 潮。」と言ってしまうくらいの余裕ぶり
当然背後から攻撃が迫るのだけれど、軽くいなし、潮に対して「力で押してくる敵に力で対抗するな」から始まる助言を入れつつボを撃破
物陰へと退避するギ
潮が普通に獣の槍を使う姿を見るのは今回が初めての鏢
カムイコタンでは、獣と化していた潮にとって、鏢とは初対面以来の再会
とらに対して「ふふ、とらか。カムイコタン以来だったな…」と言う台詞が出る鏢
「ふふ」ですよ「ふふ」、なんてあたりが柔らかくなったんだ!
潮の鏢への最初のよびかけが「あ…おじさんは…」…そうか、おじさんか…まあおじさんだよな
ギとボは香港返還に先駆けた九龍城取り壊しで棲家を失い、日本へやってきた
鏢は横浜の華僑から退治を依頼されたとのこと
今度こそギを倒そうと槍を向ける潮、今度の幻は麻子
幻だとわかっているので、その手にはひっかからないと突っ込んでいく潮だが、やはり攻撃をすることはできず、直前で槍を逸らしてしまう
潮がちょろいので調子にのったギは先に鏢を始末してやると、彼の心の中の最も大事な者達の幻を出現させる
鏢の妻子の幻
激高する潮の前で、鏢は2人の幻を刺し殺し、ギを倒す
この辺でとらが結界を破って入ってくる
鏢は潮に強くなりたいかと問い
「お前の知らない戦い方を教えてやろう」ということになる
この後、鏢と潮の修行は実現せず、潮のこの弱点は克服されないままなのだけど、このあたりの割り切れなさが潮の良いところでもある
第四十章「記録者の独白」
第四十章「記録者の独白」
総集編も兼ねたマスコミのおじさん「ニュースランナーズ10時 社会部 腕きき事件記者 守矢克美」登場回
この人が重要、そしてこの回も重要
一年前から起き始めた不思議な出来事にはどれも蒼月潮という中学生がかかわっているのではと見抜いた守矢
独自に取材を進めるうちに、
事件の関係者は時間がたつと髪の長い少年(潮)と奇妙な妖(とら)についての記憶が妙にあいまいになるという事態に何度も遭遇する
そこから守矢は推測する
1 何かが西の海にある
2 それが日本の妖怪(いるとしたら)を刺激して活動させている
3 何かが人間にそれを覚えていてほしくない
4 今にもっと大きな事件が起き、その中心には蒼月潮と朱色のバケモンがいる
今回は地の文にて、第三者の誰かがコメントを入れながら話が進んでいきます。
遠い昔の初見(私の記憶も曖昧)では、記憶が曖昧になっている件は光覇明宗が何かやってるのかなーなんて呑気に思っていたような
そして独白しているのが誰かも気に留めていなかったのでした
独白しているのは誰だろう?
最終話の語り手でもある雲外鏡かな
こういうのを、ああでもないこうでもないと考えるのが好きです。