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天文学者のひとり言(5) 谷川俊太郎は火星人と遊びたかった

谷川俊太郎の詩に『二十億光年の孤独』がある。前回のnoteでは、「なぜ二十億光年なのか?」という疑問に答えた。

せっかく『二十億光年の孤独』を話題にしたので、ここに全文を紹介して、この詩を味わってみたい。

人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
 
火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或いは ネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ
 
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
 
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
 
宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である
 
二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした

谷川は孤独感を治めるために、火星人と交流したくなったようだ。火星人は地球人とは少し違う生活をしている(表1)。

 


万有引力とは
ひき合う孤独の力である

重力は引力のみで、電磁気力のように斥力になることはない。引き合うだけの力を孤独の力と表現したのだろう。


宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う

質量を持つ物体があると、周辺の時空はその質量分布に従って歪む。アインシュタインの一般相対性理論の教えだ。太陽の周りの時空は太陽の質量のおかげで歪んでいる。地球はただその時空の歪みに沿って運動している。それが、地球が太陽の周りを回る公転運動なのだ(図1)。

ニュートンの万有引力は重力が弱い場合の近似形にしか過ぎない。

図1 地球の太陽の周りの公転運動するメカニズム。(上)ニュートンによる万有引力、(下)アインシュタインの一般相対性理論(一般相対論とも言う)。

宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である

より遠くにある銀河の方が、より大きな速度で遠ざかるように運動している。これは宇宙が膨張しているためだ。ここまま膨張が続けば、この宇宙はどうなるのだろう? 誰しも不安を覚えるだろう。

谷川の詩は極めて物理的なのだ。

だが、最後は、くしゃみだ。

二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした

火星人が地球人の噂をしているのだろう。谷川にはそれがわかったのだ。


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