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ゴッホの見た星空(37) 《星月夜》の渦巻は流れる大気の渦なのか?
久々にゴッホに関する本を買った
ある書店で、新書コーナーでいろいろ本を見ていた。そのときは特に気を惹く本がなかったので帰ることにした。新書コーナーの近くに選書コーナーがあり、そこで一冊の本に目が止まった。それがゴッホに関する本だった。
筑摩選書の吉屋敬による『ゴッホ 麦畑の秘密』である(図1)。
表題にある「麦畑」というキーワードにはピンと来なかった。しかし、本の中身をチェックしたら、《星月夜》にも触れていることがわかった。これは買うしかない。
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《星月夜》の渦巻
ご存知のように、《星月夜》の絵には不思議な渦巻が大きく描かれている。この渦巻が何かについてはいろいろ議論されてきているので、この「note」でも紹介させていただいた。
私は天文学者なので、渦巻銀河M51説が気にいっている。しかし、他にも可能性の高い説が提案されているのが実情だ。
『ゴッホ 麦畑の秘密』にはどんな説明がされているのだろうか? 気になって読んでみると、面白い話が展開されていた。
空には雲が渦巻く
《星月夜》の渦巻に気を取られていたが、実はゴッホの絵の中には日中の空にも渦巻が描かれている。『ゴッホ 麦畑の秘密』ではその点がまず指摘されていた。その絵は《糸杉のある麦畑》だ。図2に《星月夜》と並べて示したので、じっくりとご覧いただきたい。
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『ゴッホ 麦畑の秘密』では、《糸杉のある麦畑》次のように紹介されている(227-228頁)。
・・・ゴッホは病室から見える麦畑とアルピーユ山脈を描いた。黄金色の麦畑の中に黒々と聳える糸杉や木立、どれもが強風に大きく靡いている。巨大な泡の塊のような白い雲が、青空の中を急ぎ足で駆け去っていく。
日中の空に見える「渦巻」は「泡の塊」と表現されている。
そして、次の文章が続く(228頁)。
同じ景色をゴッホは夜景としても描いた。
これが《星月夜》だと言うのだ。
さらに説明がある(228頁)。
青みを帯びた暗い空に瞬く巨大な月と星。それを幾重にも取り囲む短いストロークで囲まれた光の渦は、涙でかすんだゴッホの目のレンズがとらえた光のブレのようにも見える。昼間描いた白い渦雲の代わりに、ゴッホは夜空を流れていく大気の渦巻を描き込んだ。
そして結論する(228頁)。
幻覚でも幻聴でもない。・・・研ぎ澄まされたゴッホの目や耳には確かに見えるし、その音が聞こえるのだ。
大気の渦巻か
《星月夜》と《糸杉のある麦畑》に描かれている空の模様は大気の渦巻である。それが『ゴッホ 麦畑の秘密』での結論だ。
「note」の『ゴッホの見た星空』第19話で、《星月夜》の渦巻はアルルに吹き付ける局地風、ミストラルの可能性を紹介した。
『ゴッホ 麦畑の秘密』で提案された大気の渦巻はこのミストラル説と共通するアイデアである。《糸杉のある麦畑》の日中の空の様子から、このアイデアに到達したことに、いたく感心した。
《糸杉のある麦畑》は《星月夜》ならぬ、《渦雲日》というところか(《星月夜》の日中版)。
《星月夜》の渦巻の解釈は難しい。
そこがまた、面白いのだが。