銀河のお話し(9) S0銀河の解明に向けて
S0(エスゼロ)銀河の位置付け
「じゃあ、昨日の続き。テーマはS0(エスゼロ)銀河だ。ハッブルは銀河の形態分類をしたとき、楕円銀河と渦巻銀河の間にはギャップがあると感じた。そこで、楕円銀河と渦巻銀河の間に「S0型」を仮説的に導入してみた(図1)。ただ、あのハッブルですら、その意味を正確に理解することはできなかった。無謀とも言えるけど、僕たちもS0銀河の位置付けを考えてみたい。今日だけは、ハッブルを憧れることをやめよう。」
「・・・!? なんか、どっかで聞いたような・・・。 ま、いっか・・・。」
「昨日の問題提起を、今一度確認しておこう(図2)。」
E7とSBaの間はスムース且つ連続的に繋がるのか?
「ハッブルが分類図の説明に書いた二番目の文章は「E7とSBaの間はスムース且つ連続的に繋がる」ということだけど、これはいいんだろうか? まず、この問題について考えてみよう。」
輝明の提案に優子が意見を述べた。
「分類図で気になることがあります。」
「なんだい?」
「渦巻銀河の系列 Sa → Sb → Sc は綺麗に描かれていると思います。でも、棒渦巻銀河の系列は変です。」
「それは?」
「SBaです。」
「なるほど、SBbとSBcでは棒の端っこから、ひとつの方向に渦巻が出ている。でも、SBaでは渦巻きが二つの方向に出ているね。そのため、全体では「θ」の形になっている。SBbとSBcとは根本的に違った構造の銀河のように見える。こういうことだね?」
「はい、そうです。」
「分類図のSBaは敢えて言えば、SB0になるんじゃないかな。」
そう言って、輝明は一枚のスライドを見せてくれた(図3)。
これには、優子も納得だ。しかし、これを受け入れると別の問題が生じることに気がついた。
「じゃあ、SBa型銀河はあるんでしょうか?」
「よし、また10分休憩だ。探してみるよ。」
真面目な輝明は、また作業モードになった。
輝明はハッブルが出した1926年の論文を見てみた。そこには銀河の形態分類を行った銀河のリストが出ている。調べてみると、SBa型銀河は26個あった。片っ端から、それらの写真をネットで探し出してみたところ、驚くべき結果になった。
10分休憩を終えて、輝明が結果をまとめた。
「優子、大変だよ。」
「どうだったんですか?」
「うん、ハッブルの論文を調べたら26個のSBa型銀河があった。実際に写真を調べてみると、その内、なんと24個はSB0型だった。」
「ええーっ!」
優子は呆然としていた。
「まず、僕たちが独自にSB0型銀河とした銀河だけど、こんな形をしている。」
そう言って、輝明は次のスライドを見せてくれた(図4)。
「あっ! θ型の銀河ですね。」
「うん、これがSB0型銀河の典型的な姿だ。」
「ハッブルがSBa型とした26個の銀河の内、24個がこれと同じようにθ型の銀河だ。」
「じゃあ、SBa型銀河はどんな形なんでしょうか?」
優子は興味津々で輝明に問いかける。
「26個の内、2個だけはSBa型だった。それらの形はこうだ(図5)。」
輝明は次のスライドを見せてくれた。
「たしかに、棒の端っこから1本ずつ渦巻が出ていますね。」
「ハッブルは分類図のSBa型の形をこれらの銀河のような形にすべきだったんだ。」
「猿も木から落ちる。河童の川流れ。「名人も、ときには失敗することがある」ということでしょうか。」
「そういうことにしておこう。」
E7とSaの間に該当する銀河はないのか?
「さて、今度は棒のない、普通の渦巻銀河だ。「E7とSaの間に該当する銀河はないのか?」 こういうハッブルの疑問だ。」
「たしかにハッブル分類の図を見ると、E7とSaの間には埋めにくいギャップがあるように見えます(図6)。」
「なぜそうかというと、次のことがあるんじゃないだろうか?
・楕円銀河には円盤がない
・円盤がないので渦巻もない
・一方、Sa型銀河には円盤がある
・そして、2本の対照的な渦巻構造がある
これらのギャップをどう埋めるかだね。」
「うーん、難しそうです・・・。」
優子はちょっと顔をしかめた。
「棒渦巻銀河の場合は、うまいことSB0型の銀河があった。これをヒントにするしかないかなあ・・・。」
輝明も浮かない顔だ。
「よし、また10分休憩だ。」
輝明には、いいアイデアはなかった。そういうときは、気分転換だ。とりあえず、部室の窓を開けて、深呼吸してみた。フーッと息を吐いたとき、ある銀河の姿が頭に浮かんだ。輝明の大好きな銀河のひとつだ。
10分休憩を終えて、輝明は話し出した。
「優子、ひとついい銀河があったよ。」
「なんですか?」
「M104、ソンプレロ銀河だ(図6)。NGC4594という名前もある。」
輝明はハッブル宇宙望遠鏡が撮影したM104の姿をスライドに映し出した(図7)。
「わあ、綺麗ですね。」
「この銀河は、実はハッブルがSa型銀河の代表例に挙げている銀河だ。前回、ハッブルが分類に使った銀河の写真を見せたけど、ここでもう一回見ておこう(図8)。
「あっ! たしかに渦巻銀河のトップにNGC4594がありますね。」
「この銀河の円盤を見てみると、渦巻はあるけど、対称的な2本の渦巻じゃない(図7)。」
「なんだか、「ちりめん」のような渦ですね。」
「うん、これは羊の毛のように見えるので「羊毛状渦巻」と呼ばれている。ダークレーンが綺麗に見えているので、ガスはたくさんありそうだ。その意味ではS0銀河的ではないんだけど、明瞭な渦巻がないという意味で、少しS0に近いような気がする。」
「E7とSaをつなぐ架け橋にはなりそうですね。」
「E7とSBaほどスッキリした架け橋じゃないけど、一応これでいいということにしようか。」
「だいぶ、ハッブルさんの悩みを解決できたんじゃないでしょうか。」
「そうだといいけどね。」
「明日はS0銀河のまとめをすることにしよう。」
**************<<< 追記 >>>*************
ハッブルの銀河の形態分類の改訂については米国の天文学者アラン・サンデージ(1926-2010)が『The Hubble Atlas of Galaxies』(Carnegie Institution of Washington, 1961)で詳しく議論している。その成果は『現代天文学』(A, ウンゼルト 著、小平桂一 訳、岩波書店、1968年)で簡潔に紹介されている(図A1)。
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<<< 今までの話題 >>>
第一話 神保町の天文部で銀河を語るhttps://note.com/astro_dialog/n/n7a6bf416b0bc
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