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天文俳句 (15)天体写真家が考えた「星の歳時記」
天文学者が考えた星の歳時記
note「天文俳句」(9)では、天文学者が考えた「星の歳時記」を紹介した。次の3冊だ。 https://note.com/astro_dialog/n/n1ecb582b9704
[1] 『星の歳時記』石田五郎、ちくま文庫、1991年
[2] 『天文歳時記』海部宣男、角川選書、2008年
[3] 『宇宙吟遊 光と言葉 星めぐり歳時記』海部宣男、じゃこめてぃ出版、2009年
天体写真家が考えた星の歳時記
書斎の本棚を眺めていたら、もう一冊興味深い本があることに気づいた。
『星のこよみ 〜 宙(そら)の歳時記』(林完次、角川書店、2015年)である(図1)。
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取り出して目次を見た瞬間、驚いた。「春 立春」の項目の最初に「オリオン座」が出てくるのだ(図2、図3)。
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「オリオン座」と言えば、冬。その常識がいきなり覆された。
この本の約束事が「あとがき」に書いてあった(205頁)。
一般的に分けられている星座の季節と季語が一致しないことがあります。例えばオリオン座は冬の季語、天文分野でも冬を代表する星座です。しかし、オリオン座が夜八時に南中するのは二月五日なので、立春に入れました。
星や星座を季節に対応させるとき、この本では「夜八時に南中する」ことを条件としているのだ。
人が夜空を眺めるのは、学校・会社帰りのとき、あるいは夕食後に庭やバルコニーに出て一休みするときが多いだろう。したがって、夜八時というのは、人がよく夜空を眺める時間帯だとしてよい。実際、国立天文台の星空案内でも夜八時の夜空が採用されている(図4)。
これを見て気づくのは、まだ「オリオン座」が西の空に見えていることだ。「オリオン座」と言えば、冬。先ほどこう言った。また、林も「オリオン座は冬の季語」と認識している」と述べている。しかし、「オリオン座」は春の夜空にもちゃんと見えているのだ。
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午後8時の星空は標準なのか?
『星のこよみ 〜 宙(そら)の歳時記』(林完次、角川書店、2015年)では星や星座と季節の対応関係を「夜八時に南中する」ことを条件として採用されていた。この午後8時という条件は一般的に採用されているものだろうか? もし一般的なら、重要な基準となりうる。
そこで、他の星座案内の本を調べてみることにした。まず、『講談社の動く図鑑 move 星と星座』(監修 渡部潤一、講談社、2015年)である(図5)。
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この本では、春を前半と後半に分けている。「春の前半」の星空としては3月15日21時の東京の星空(図6)、「春の後半」の星空としては5月15日21時の東京の星空(図7)が紹介されている。前半、後半に分けているのは親切だ。時刻は夜の9時。早くも夜の8時が標準的ではないことがわかった。
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次は『星と星座 パーフェクトガイド』(藤井旭、誠文堂新光社、2018年)だ(図8)。春の星空は図9に示した。見慣れた春の星空だ。ところが、合計六つの時期の星空として紹介されている。3月5日午前1時頃、3月20日午前0時頃、4月5日午後1時頃、4月20日午後10時頃、5月5日午後9時頃、そして5月20日午後8時頃だ。星空の様子は時事刻々と変わるものだということを教えてくれているようなものだ。いずれにしても、午後8時を標準にすることはできない。
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星空を見る時刻を決めることはできない
調べたのはたった3冊だ。
[1] 『星のこよみ 〜 宙(そら)の歳時記』(林完次、角川書店、2015年)
[2] 『講談社の動く図鑑 move 星と星座』(監修 渡部潤一、講談社、2015年)
[3] 『星と星座 パーフェクトガイド』(藤井旭、誠文堂新光社、2018年)
しかし、この段階で答えは出た。「星空を見る時刻を決めることはできない」残念だが、星空を見る時刻は、人それぞれ。
自由に星空を楽しんでもらうのが一番。