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天文学者のひとり言(21) 伊与原新 症候群?

気になるタイトルの本

ときどき、書店で気になる本を見つけることがある。たとえば、次の3冊だ。

[1] 『月まで三キロ』
[2] 『オオルリ流星群』
[3] 『宙わたる教室』

これら3冊には共通点がある。それは天文用語が含まれていることだ。

「月」、「流星群」。そして、「宙」。最後の「宙」は「空」でもよいが、「宇宙」と捉えることもできる。いずれも、書店で背表紙を見て興味をそそられたものだ。しかし、手に取ることはなく、買うことはなかった。

ただし、次のことは考えてみた。

「いったい、どんな内容の本なのだろう?」

作者は一人だった

さて、3冊の本を紹介した。最近、気がついたのだが、3冊とも、一人の作者の作品だった。

作者は伊与原新。なんと、理学博士の人だった。東大の大学院で地球惑星科学を専攻していた人なのだ。バキバキの理系人。それで、著書のタイトルも理系だったということだ。ようやく、納得。

ただ、理系路線で小説を書くのは難しいように思う。私は天文学者だが、天文ネタで小説を書いたことはない。また、書こうとしても、上手く書ける自信は毛頭ない。

ここで、また先ほどの疑問が湧いた。

「いったい、どんな内容の本なのだろう?」

今度、どれか一冊、読んでみようかと思い始めた。

高校時代、天文部で一緒だった友達からのメール

『宙わたる教室』という本を読んだけど、とても面白かったよ」

最近もらったメールに書いてあった文章だ。メールの送り主は高校時代、天文部で一緒だった友達、F君だ。F君は昔から読書好きだったが、今も変わりない。そのF君が薦めてくれるのだから、面白い本なのだと確信した。

『宙わたる教室』

ということで、『宙わたる教室』を書店で買い求めた(図1)。数日前のことだ。

図1 『宙わたる教室』(伊与原新、文藝春秋、2023年)の表紙。私が購入したのは2024年12月1日発行の第9刷。

内容についてはネタバレになると困るので書けないが、本の帯にあるように「定時制高校に通う生徒たちが前代未聞の実験に挑む」物語だった。

読後感は「痛快」そのものだ。私の感想が意味のあるものかはわからない。なぜなら、私は天文学者であり、理系人間だ。自然科学に関心を持たない人が面白いと思うかどうかは判断できない。ただ、理系ネタとはいえ、順序を追って話が進められているので、文系・理系を問わず楽しめる物語になっている。そう思えば、この本はまさに偉大な一冊だ。

F君に感謝。この本に巡り会えてよかった。

『おうちで地学』

話は変わるが、2025年1月25日、日本地学教育学会主催の講演会『おうちで地学』で話をする機会があった。テーマは「宮沢賢治と宇宙」だ(図2)。

http://www.age.ac/~chigakuk/event/outigaku07.pdf

図2 光文社新書『天文学者が解説する宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と宇宙の旅』(谷口義明、光文社、2020年)。

まず、私が30分講演し、その後、主催者と一般の参加者からの質問で1時間半。全体で2時間の講演会である。いろいろな質問が出て、あっという間の楽しい2時間だった。

講演が終わったあと、主催者から意外なことを伺った。
「今年、直木賞を受賞された伊与原新さんも『おうちで地学』で話をされました」

http://www.age.ac/~chigakuk/event/outigaku05.pdf

これには大変驚いた。まさかこの講演会で伊与原新さんと繋がるなんて、まったく思ってもいなかったからだ。

世間は狭い。

これが一つの結論だ。

註:伊与原新さんは『藍を継ぐ海』で第172回(2024年下半期)の直木三十五賞を受賞されました。