宮沢賢治の宇宙(101) アルフィーのことでした
ある日のことでした
ある日のこと、夜、テレビを見ていた。番組は『SONGS』。ゲストはアルフィー。
アルフィーは大好きなバンドだ。気持ちよく曲を聴いていたら、私の知らない曲が流れてきた。それは『Brave Love 〜 Galaxy Express 999』という曲だった。
メビウスの輪
曲の途中、意外な言葉が飛び出した。
ああ メビウスの輪の中から
逃げ出せないままでいる
なんと、「メビウスの輪」という言葉が出て来たのだ。
曲は続く。
時の謎を解く鍵を探して彷徨う
なんて素敵な詩だ。うーん、と唸ってしまった。
『銀河鉄道の夜』とメビウスの輪
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は不思議な童話だ。主人公のジョバンニは町外れの丘にある天気輪の柱にたどり着いた。そもそも、この柱がどんなものなのか、説明がないのでわからない。そして、この柱は突然、三角標に変貌する。ここで、三角表は星のことだ。気がつけば、ジョバンニは銀河鉄道に乗っていた。その駅の名前は銀河ステーション。いったい、どうなっているのだろう?
銀河ステーションは「こと座」の近くにあったようだが、すぐに白鳥の停車場に向かう。その後、銀河鉄道は天の川をひた走り、サウザンクロスの停車場に向かう。「はくちょう座」には北十字、「みなみじゅうじ座」には南十字。北の十字から南の十字へ向かう旅だったのだ。
サウザンクロスの停車場を出たところで、ジョバンニは天の川に旅立った、町外れの丘の上で目を覚ます。夢の旅路から、現世に戻って来たのだ。サウザンクロスの停車場から現世に戻るとすれは、南大西洋のアルゼンチン沖だ。いったい、どうやって町外れの丘の上に? それはわからない。
銀河鉄道の旅路はメビウスの帯(輪)の上
そこで、思いついたアイデアがメビウスの帯だ(図1)。
「はくちょう座」の北の石炭袋から異空間に入り、銀河鉄道に乗ったジョバンニ。「みなみじゅうじ座」の石炭袋に着く頃には、なんと気がつけば異空間から出てきていたのだ。この旅路はメビウスの帯(輪)の上にあった。
畑山博の「メビウスの帯」
メビウスの帯を導入する。我ながらよいアイデアだと思った。ところがである。このアイデアは畑山博がすでに提案していたのだ(『「銀河鉄道の夜」探検ブック』文藝春秋、1992年)。
畑山の説明を見てみよう。
銀河鉄道には戻り列車はない。死という異世界への関門を一応特別パスで通って行ったのに、同じそこを通って還ってきたのではない。すると、どこかに裏街道があるのか。・・・
やはりジョバンニは、未知なるもう一つの関門を通ったのだ。その関門というのは何なのだろう。とりあえずのヒントとしては、メビウスの帯による次元突破という回路がある。・・・
表と裏を、たとえば次元の違う世界だとしよう。すると、四次元世界の中から出発した者が、いつの間にか三次元世界に出るということでもある。・・・
薄壁一枚へだてて次元のちがう点が接し合い、しかもその二点間には、往来する手立てがあるという、このメビウスの帯の魅力は捨てがたい。 (209-210頁)
畑山の説明の方が理路整然としている。脱帽した。
そして、アルフィー
メビウスの輪を空間軸ではなく、時間軸で使っている。まさに、幻想第四次の銀河鉄道だ。なぜなら、賢治は第四次を時間として使っている。
うーん、まいった。
しかし、面白い。『銀河鉄道の夜』を読んでメビウスの輪を思いつく人は、一人ではないということだ。
私たちは賢治の策略にハマったのだろうか。
それならそれで、いいではないか。
楽しいのが一番だ。