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「麒麟がくる」の信長は生ぬるい!?

「麒麟がくる」、いよいよクライマックスが近づいてまいりました。何度か書いている通り、久々に見ごたえのある大河ドラマでしたし、各役者さんの技量の高さに感服しております。特に、本日のテーマである染谷将太さんの演じる信長は、斬新な切り口でありながら、非常にリアリティある信長像になっていて、私も染谷信長の虜になっております。

今回、そんな「麒麟がくる」ですが、あえて”やや”苦言を呈したいと思います。信長のキャラクター設定についてです。

帝と光秀が会う意味

1月25日の第42回ですが、いよいよ本能寺の伏線が各所に張られていくようなストーリーでした。その中で、まさにその本能寺の主役となる二人、信長と光秀の溝が直接的により深くなるシーンがありました。そうです、帝と会っていた光秀を信長が問い詰めるシーンです。

まず、帝が光秀と会うというのは、信長にとっては非常に由々しき事です。これは若かりし日の私ならば到底理解できない感覚でした。別に上の人が下の人と会いたがってるんだから断る理由はない、寧ろ光栄なことだ、そう思っていました。ですが、この一足飛びに関係を持つことは実に大きなリスクを孕んでいるのです。

私自身、こんな経験があります。前職で、比較的率直に意見を言うタイプだったので(よく言えばまさに大河の光秀のような感じ)、上司にも敵味方がくっきり分かれていました。特に上層部には面白い若者、として比較的好感触だったようで、取締役から恐れ多くも高い評価を受けていました。部長層からも概ね評価はよく、そうなってくると中間管理職たる課長層からの評価が厳しくなるのが世の常です。ある日、直属の課長に呼び出されてこう言われたことを未だによく覚えています。

「お前が部長や取締役と話をするなど10年早い」

若かりし当時はなんて心の狭い人だ、と思っていました。今は実はその理由がよく分かります。(理由は後ほど)

起業した後も、支援してくれていたのは大きな組織のトップに立つ人でしたので、その人と直接やり取りしていました。私のミッションはその既存組織を外から改革するような仕事でしたので、当然その内部の上層部の人たちともやり取りをする必要があります。トップとはしっかり握っている話であっても、なかなか内部の方々に持っていくと話が進みません。まだ若かった私はただの抵抗勢力としか思っていませんでしたが、今ならよく分かります。

では、当時の課長や、上層部がなぜ抵抗感を示したのか?それはひとえに「聞いていない」からです。もう少し分かりやすく言うと、自分を飛び越して指示が行っていることの不快感です。ただ、これは感情的な問題というより、組織論的にも問題があるので、決して彼らの感情論だけで不快になっている訳ではありません。

組織というのは、常に上と下の繋がりがピラミッドになっています(アメーバ型組織との対比、優劣みたいな話はまた別の機会にでも)。英語では、「あなたの上司は誰ですか?」と聞くとき、「To whom do you report?」と言ったりします。直接の上下関係を示す言葉として「report to」と表現するのです。要するに、自分の案件を誰にレポートする(話する、報告する)のか。

これで言うと、私が以前した行為はレポートの矢印を飛び越えていたり、無視した行為です。これは組織を管理する管理職層として、看過してはならない問題です。特例を作ってしまうと組織全体に影響を及ぼす可能性もあります。また、そもそも自分のうかがい知らぬところで何かが起こっていたならば、彼らの管理責任を問われかねません。ですので、一足飛びに対する彼らの嫌悪感は組織を守る管理職として非常に正しいのです。何か指示があるのであれば、先ずは自分のところに上から降りてこないと動けません。矢印が下や別のところに行った案件は自分は関与できないのです。

一方、「麒麟がくる」の帝もそうですが、上に立つ人はあまりそういうことを考えません。なぜなら、このレポート体制を守り過ぎると、自分と接点を持つ人が直接の部下だけに限られてしまい、色んな声が届かなくなるからです。実は上に立つ人と中間管理層では、組織一つとっても利害関係が一致しないのです。組織運営をする上で、この一足飛び問題は非常に難しく、かつバランスの必要なことなのです。私は色々な経験を経て漸くその事を理解しました。

信長の怒りは真っ当

さて、以上を踏まえて考えると、実は帝に直接お会いする機会があるというのは一人の人間として最高の名誉でもありますが、他方組織人としては非常に危険な行為でもあるのです。

ですので、信長が光秀が帝と会っていたことを知って、気分を大きく損なうのはとても正常な反応です。そもそも、光秀は帝と会う前に信長に一報を入れ、相談をすべきでした。なぜなら、光秀のレポート先は信長だからです。少なくとも、足利義昭や帝といった形式上信長の上位に居る人物と直接会うのであれば、きちんと事前報告、相談をすべきです。それに対して直属上司である信長が怒るのは当然です。私が「10年早い」と怒られたのと同じです。事前に言うか言わないかで大きく変わるのです。

勿論、事前に信長に相談することで帝との密会は頓挫する可能性もあるでしょう。非常に貴重な機会を逃すことになりますので、そういう意味で報告をしなかったのかもしれませんが、上述の通りこれはレポート体制を崩しかねない、とてもリスクの高い行為です。信長に事前相談をすれば、信長も光秀を利用して帝の真意を確認するなど、うまく活用しようとしたかもしれません。それはそれで難易度の高いミッションが来るかもしれませんが(笑)

それでも「甘すぎる」信長像

信長は帝と密会の有無を聞いた上でその会話内容の報告を求めます。これもまた、当然のことです。帝の発言一つで信長の立場にかかわるかもしれないからです。ですが、光秀は頑なに答えませんでした。それに対して信長は暴力を働きます。暴力はどんな理由があれ許されるべきではありませんが、それで話は終わってしまうのです。

私は、これを見て非常に甘いな、と思いました。暴力の有無はさておき、信長であれば、いや、殆どすべての経営者であれば、必ず光秀から報告をさせていたと思います。上述の通り、帝の言葉はとても重いからです。大河では殴って終わりにし、その後やや泣き落としに近い形で信長は不安感を述べます。トップ層でおそらくこれほど甘い対応をされる方は殆どいないんじゃないでしょうか?少なくとも私が見てきたトップ層はこんなに甘くなかったですし、これだと楽だな、と正直思いました。特に戦国時代を生きた信長であれば、光秀に血反吐を吐かせてでも報告させたでしょう。そういう意味で、信長のキャラクター設定として少し弱いな、と感じたところです。

実は信長のこの部分の弱さは、今回に限らずずっとそうでした。光秀とのやり取りの中で、泣き言を言ったり、承認を求めたりします。それに対して率直に言う光秀を受け入れたりします。承認欲求の塊という信長の人間性を描く演出でもありますが、スーパートップを任されている人の像としては正直あり得ないかなと思っています。ここに立つ人たちはこんなに甘い態度を、少なくとも部下の前では見せません。率直かつ忌憚ない意見をあれほど受け入れてくれるというのは、少なくとも信長という国の実質トップに立つ人間の像としてはあり得ないと思うのです。安倍さんや菅さん、トランプ、習近平、プーチン、金正恩。彼らが下からの忌憚ない批判を「そうか。。」と聞くでしょうか?日本以外のリーダーなら即Fired!ではないでしょうか。俺もどうしたらいいか分からない、と弱音を吐くでしょうか?それ以外の場面での、染谷信長の緊張感ある演技を見るに、光秀との関係の部分だけ急に弱腰になるのは少し勿体ないなと思っています。弱音は妻である帰蝶相手に吐くべきだったかなと思います。

締め:Report toから逸脱する場合は細心の注意を!

さて、締めです。上記の通り、私も過去に何度か過ちを犯しました。確かに一足飛びにお話をいただくと、評価されている感じもあり、嬉しくなってしまうのは当然だと思います。ですが、人間関係は1対1だけではなく、自分対周囲多数の中で形成されていきます。一足飛びにやられることを自分の直属上司がどう思うのか。または、その直属上司が不快に思わない方法はないのか。そういうことを一旦冷静に考える洞察力は必要なのかもしれません。なお、一足飛びに飛ばしてくるトップ層はそういう根回しとか気遣いは一切しません。一言でも言っておいてくれればうまくいくのに。。と思うことが多々ありますが、経験上、そういうことをしてくれる人は居ませんでした。これは別エントリーで述べたトップの孤独感がヒントなのかもしれません。直接的な下からの突き上げを彼らは極度に恐れているからです。

「麒麟がくる」の面白さは、歴史考証をベースに、現代的な解釈で作られている脚本の妙であり、そこから、現代を生きる我々にも色々なヒントが隠されている点です。トップ層が直接泣き言を言うことはないですが、裏では作中の信長のように孤独感や不安感で苦しんでいます。その辺りのトップであるがゆえの苦悩について、色々感じてもらえるとなお面白くなるかもしれません。今回は、苦悩を見せてしまうことへの違和感を書きましたが、苦悩自体は沢山抱えていますので、その点は極めてリアルな演出になっていると思います。配役急遽変更やコロナ禍によるスケジュールの問題はあったと思いますが、あの苦悩の場面を主に帰蝶相手にやってくれればと、この点のみ残念に思っている次第です。

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