鑑賞した作品について身体(そこで見たパフォーマンス、絵画、舞踊の中の、そしてそれを見るわたしの)に重点を置きながら、考察するシリーズ
百年芸能祭!
『阿吽の吽はうんこのうん』(「あたしの森裡(もり)」シリーズ)
日時|2024年5月17日(金)
会場|絵本館むむむ
レシピ 納谷衣美
朗 読 二口大学
ダンス 伴戸千雅子
美 術 小池芽英子
レシピを文字で読むのではなく、声に出されたレシピを耳で聞く。そんな時間をじっくりと過ごすのは初めてのことだった。フェイスブックに納谷衣美は、自身の用意した集いの場や家の食卓で用意したレシピの投稿をする。レシピ日記とでも呼べそうなそのテキストを本公演では俳優の二口大学が朗読する。レシピ日記の合間合間には、会場となった町屋のすりガラスの窓の向こうで、鈴が料理の最中に台所に立つ風を受けたようにチリリと鳴り、懐中電灯のような光を受けて浮かび上がる影がもそもそと動く。
耳で聞くレシピ日記は、上演のために何かしらの定型化をされることがなくとも、丁寧に発せられる声によって料理を日々つくる人の振る舞いが立ち上がる。つくり手が食材を確かめ触ったり、まな板から鍋へ移したりする手の動きを追いかけるような感じ。たくさん登場する食材と調味料をかけ合わせた料理の最中に起こる変化に、想像しようとする頭がついていかない。でも料理をつくる姿をその人の背中越しに見るようなそんな感覚を持つ。
この企画は関東大震災から100周年を契機として大きな力によって周縁化され、奪われてきた命を悼み、これからの命への予祝を企図する百年芸能祭の一環だという。納谷衣美が料理に向かうその先には一緒にそれを食べる人いる。「コロナ後初めての、楽しかったやろう修学旅行。今日はあっさりめの好物でも並べようか」「今日が忘れられない日になるようにと準備する・・・」そのような料理をめぐる営みを持ち続けようとすることも命を奪おうとするものへの一つの抵抗なのだ。
レシピの季節が春から冬へと巡り、朗読がひと段落したあと、会場入り口から「あっ」と何かを指差す伴戸が現れた。二口が「ん?」と呼応する。あ、うん、のかけ合いは、納谷にふるまわれた料理を食べた心の動きだというが、朗読されていた生活の風景の重力を解き放ち、私たちを一気に宇宙へと放り出す。舌の上を躍る料理のようでもあり、まだことばをしゃべらない子どもが何かを発見して指を差しうたう声のようでもある。
さらにそこに古い着物を被ったケモノらしきものがあらわれて、観客には長くて太い綿入りのうんちが渡された。ぐるぐるまわるうんちとともにレシピを聞いてぐーぐー鳴っていた私たちのお腹と思いも消化され…笑いとすっきりとした心もちの中で会はまとまった。イベントページを読み返して、「人はその内に森裡(もり)を持ち、森裡(もり)で人に会う。」ということばを発見する。料理も人の森裡(もり)に招かれることなのかもしれない。
参考
・百年芸能祭特設ページ
写真 主催の伴戸千雅子さん提供