山下残『詩の朗読』

"On Body and…" は鑑賞した作品について身体(そこで見たパフォーマンス、絵画、舞踊の中の、そしてそれを見るわたしの)に重点を置きながら、考察するシリーズです。

Kyoto Cultural Festival 2024
山下残『詩の朗読』
10月5日(土)13:00 山下残 / SMILE
出演:石川はな、石原七海、可知瑞季、蛭田絵里香、前川友萌香、松村寿々乃、丸山るか、山瀬茉莉、渡辺帆南
楽曲:櫻井拓斗
オペレート: 大嵩洸輝
協力: 江原_101、ヨムマチヤ
プロフィール:
山下残の初期の演出・振付作品、言葉と身体の出発点、1994年当時パフォーマンスを立ち上げるため毎週土曜日京大文学部控室(通称:ブンピカ)に私たちは好きな本を持ち寄り紹介し合った(近頃の言葉でビブリオバトル!)。『詩の朗読』は一昨年コロナ渦で頓挫してしまった再クリエーションを経て、再再クリエーションを30年目の節目にて。豊岡から出演者を招いて上演する。
(SMILE “KYOTO Cultural Festival 2024”より)


10代後半か20代前半のように見える彼女たちは木製の三角形の天板のテーブルを囲んで3人ずつ、本やノートを前に座っている。一人づつ読み上げていくのは、愛について学んだ大好きな本について、恋愛のやりとりについて、奇妙なある日の日記など。はにかみ、本音とするところを共有し、仲がよさそうでにぎにぎにしい。朗読する人の話を座って聞ききながらそれぞれに彼女らは立ち上がったり、ダダダダと足踏みをし始める。テーブルの周りで配置を変えながら、朗読の内容を聞いていた私たちはだんだんと彼女らの踊りの方へと目が向いてくる。

山下残はインタビュー(※)で「言葉のなかで動く」という振付の方法ではダンサーの動きが制約されず「枠組みの中で遊ぶ」ことができると語っている。今回の作品は、言葉を生み出すことと身体が動き出すこと、両者の共通の根として心のふるえにフォーカスが当たっているように感じられた。出演者らは心のふるえを原動力に、詩を味わい大切にしていることを語り出し、その声と共振しながら身体を伸び上げ、弧を描き、誰かの動きからまた波を受け、ゆらめき弾けていく。
山下残はさらに、観客にイメージを想起させる身体は言葉と拮抗する力強い身体ではなく、弱々しく脆い身体であると言う。コロナ禍以降、デバイスと情報に囲まれつつ目の前の誰かとどのようにコンタクトを始めるのか戸惑っている身体もある種の脆い身体だろう。今作で、スマホを手と目の延長のようにして好奇心に満ちた様子で相手の体を文字通りスキャンし、前髪を垂らし目元で表情を読み取られないようにしながらも激情的に動く身体は、そうした脆さをうかがわせる。そこには他者に向けて声を発し、他者の発する言葉を受け取り動く身体がある。脆い身体を心のままにふるえさせ、自己完結しようとする身体の回路から抜け出していく様子を見るようだった。

世阿弥は年若くても、それにふさわしい花があると書いたのではなかったか。若さの花は、心の赴くままに既にある境界線を軽々と行き来できることにもあるのかもしれない。彼女たちは子どもにも少女にも年老いた未亡人のようにもなりながら、愛と激情、空想にふけることと執着などを自由に行き来する。言葉と声と踊りは、音楽へと混ざり合っていく。

作品の最後には、みなが朗読し踊っている間、ずっと文字を綴り続けていた彼女が筆を置き、紙を折って封をして手紙を投函する。集中した淡々とした態度。誰かに宛てたことばはいつか読み上げられるのだろうか。そのとき彼女たち、私たちはどんなふうに変化しているのだろうか。いつかの未来に目を向けさせて「詩の朗読」は幕を閉じた。

※ 国際交流基金インタビュー「言葉と身体の関係を探る山下残の発想」https://performingarts.jpf.go.jp/article/6968/

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