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手のひらを地球に
ピーマンたくさんあるし、今晩はチンジャオロースーとたまごと若布のスープにしよう。寒いからスープは欠かせない。わたしはちょっと急いでいた。小太りだ。間違えた。いや、間違えてないけど、言いたかったことは、小走りだ。
青の点滅信号で駆け出したわたし。
次の瞬間。まっすぐ行先を見つめていたわたしの瞳は近づいてくる地球をとらえた。そしてスローモーション。脳内BGMが切り替わる。
まわれまわれメリゴーラン。もう決して止まらないよに。
そう決して止まらなかった。まわってはいないが、気持ちはそれだ。なにが起きたのか。
タンスの角に小指を置いてくる現象というのがあるが、横断歩道前にタンスはなかったはずだ。それにブーツを履いているので小指だけということはない。衝撃的にはタンスよりほんの少しだけソフトな気がしたから、右足を1億円の札束のかたまりに置いてきた。と例えた方が近いが、それだとなんとなく事件のにおいがする。そうこうしているうちに手がついた。地球の大地に敷かれたアスファルトの黒とそれにひかれた白線。なんて冷たいんだ。胸がついた。武士の娘たるもの腹は守らねば。その思いだけでかなり姿勢を保てたはずだ。かろうじて回転するのが抑えられたのはその気持ちの強さからだろう。刹那、心に浮かぶヘッドスライディングする走者。これは。わたしには若者が憑依し、いままさにその同じ体勢になろうとしていた。高校野球延長戦12回裏、打球はフェンスぎりぎりジャンプしたセンターのグローブに吸い込まれんとしている。走者ならばアゴと腹を庇うことはあってはなるまいと考えたが、いやそれよりわたしは武士の娘の娘の娘です。ですです。の感覚を大事としたのか、筋肉が裏切ったのか。ヘッドスライディングではなく、そして腹はつかず、足を美しく伸ばした腕立て伏せ1回をするに至った。もちろんすぐさま立ち上がり、まるでこの横断歩道渡るときは毎回ここで腕立て伏せしてますけどなにか?の顔で歩き出す。
痛い。
横断歩道を渡りきって振り返ったとき、車の激しい往来に舞い上がったひとひらふたひら。あれは帯封を解かれたうちの数枚の一万円札だったか。
擦りむいた手のひらをぎゅっと握った。
みなさんもお足元お気をつけて。無理しないで。本当に。
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