🟨 日本人の9割が知らないタイ飯⑧ 〜トムヤムクンの秘密〜 🟨
トムヤムクンとトムヤム
タイ語でトムヤムクンต้มยำกุ้งとはトムต้ม(煮る)とヤムยำ(和える)と言う調理法にクンกุ้ง(エビ)と言う食材が加わってできたメニュー名。Google翻訳でต้มยำを調べると「酸っぱいスープ」って出てくるけどあれ嘘なんで騙されないように。
余談だけど日本人にとっては魚介類はほとんどが海産物で、エビも海で獲れたものだと思いがち。でもタイでエビといえばほとんどが淡水産か汽水産。トムヤムクンのエビも元々は川エビだった。
ほとんどの日本人はトムヤムとトムヤムクンが同じだと思ってるはず。でも違う。トムヤムクン以外にもタイ料理にはトムヤムって名のつくメニューはいくつもある。タイ語版のWikipediaではトムヤムの種類としてトムヤムナムサイ、トムヤムナムコン、トムヤムガティ(ココナツミルクのトムヤム)の3種類のスープ。エビ、魚、鶏、魚介、ココナツの果肉、豚足の6種類の具材が紹介されてる。
タイ人はトムヤムクンを食べない?
在タイ歴が長い日本人が「よくトムヤムクンなんて観光客しか食べないよ」なんて言ってるのを耳にするけど個人的な感想はほぼそうだと思う。観光客多数エリアとローカルエリアだと事情が違った。
The Mall Lifestore Bangkae
バンコク郊外のモールバンケーに行ったとき、本企画のこともあってトムヤムクンを提供してるお店を探してみた。2Fのレストラン街にある43店のうちタイ料理店が6軒。うちトムヤムクンを提供してるお店は1軒だけ。フードコートまで探してみて見つけたのが2軒という状況。
Terminal 21 Asoke
一方で観光客が圧倒的に多いアソークのTerminal21のレストラン街に行くとトムヤムクン提供店が6軒。フードコートでも3軒にあった。
これを見る限り、少なくともタイ人にとってトムヤムクンは日常食ではないと思う。
世界三大スープの謎
ガパオライスブーム以前、タイ料理の一番人気はトムヤムクンだった。それはトムヤムクンが世界3大スープのひとつって言われてたから。当時の旅行会社がパッケージツアーのキャッチコピーに多用してたんじゃないかと思う。日本人ってこういうのに弱いし。
じゃあこの3大スープってだれが考えたのか。なんとなくCNNがゲーンマサマンを世界一美味しい料理ってでっち上げたようにどっかのメディアの作り話かと思ってたら、これを調べた人がいた。
それは紀行作家の前川憲一さん。でも氏が書いた「世界三大スープの謎を追い、食文化研究を考えるー活字中毒患者のアジア旅行」を読んでみても1970年代に日本人の間で広まった流言飛語程度のことしかわからないらしい。
トムヤムクンの歴史
トムヤムクンの歴史を調べると、必ず起源ははっきりしないって出てくるけど、記録が残ってるのはラマ5世の時、1889年発行の本に魚(ライギョ)のトムヤムや1898年の百科事典にトムヤムクンソンクルアンと言うメニューが紹介されてるが現代のものとは違うらしい(※)。
どんなレシピは忠実に再現したYou Tube動画の冒頭に(※)出てくるので参照してほしい。
現代と似たようなトムヤムクンのレシピが記録に登場するのはいまから60年前の1964年、国王に提供されたトムヤムクンのレシピについての記述(※)。
この辺のトムヤンクン史的なことはタイの文化省が「Tomyum Kung - Tastiness from Cuisine to Culture」って資料をまとめてますので参照ください。Eastさん情報提供ありがとうございます。
こう見るとトムヤムって調理法は古代からある土着の「ルーツ系タイ料理=ジャングルフード」に起源があるんじゃないかと思う。
ちなみにタイ語版のWikipediaにはトムヤムクンとトムヤムが別項目になってる。
トムヤムクンの起源が「アユタヤ時代にフランスの使節団をもてなすためにタイ風のブイヤベースが考案され、新鮮な川エビやハーブを使ってできたのがトムヤムクンの始まり」という説(※)がある。
これはたぶん日本人の間に広まってる都市伝説。3大スープのひとつにブイヤベースが入ってたことが原因じゃないかと思う。
ナムサイとナムコン
そもそもトムヤムクンのスープは伝統的にナムサイ(クリアスープ)だった。でも現在のバンコクでは半分くらいのお店が牛乳やココナツミルクを使ったナムコン(濁ったスープ)。特に観光客が多いエリアではほとんどがナムコンじゃないかと思う。外国人がイメージするタイ料理のイメージにナムコンの濃さが合ってたのかもしれない。
元々は川エビの脂肪分で十分にコクのあるスープを作ることが可能だった。でも新鮮な川エビを入手するのが困難になり脂肪分の少ない海水エビを使った。このためコクを出すために牛乳を使うようになったようだ。(※)
トムヤムクンナムコンが歴史に登場するのは20世紀ラマ6世の時代。ラマ6世が立ち寄った中国料理店でコクを出すために牛乳を使ったトムヤムクンが提供されたと記録が残ってる。(※)
このナムコンが一般に普及したのが1980年代。なにがキッカケだったかは書いてなかったけど、個人的にはこのあとに書いたママーのトムヤムクン味の大ヒットと関係があるんじゃないかと思う。(※)
インスタント麺
タイでインスタント麺が初めて登場したのが1971年の味の素「ヤムヤム」。意外にに知られてないけど、1972年発売のプレジデントフーズの「ママー」より先に発売された。いずれも発売当初は屋台のクイティアオより高いなどの理由で売上はイマイチだった。
1980年にプレジデントフーズから「ママー」のトムヤムクン味が発売されて大ヒットとなった。いまでもトムヤムクン味は売り上げの70-80%を占める。
つまりトムヤムクン味がキッカケでタイのインスタント麺がここまで普及したとも言える。現在スーパーやコンビニの店頭を見るとナムサイとナムコンはほぼ同数陳列されてる。袋麺もカップ麺も状況は同じ。実際にはどれくらいの比率なんだろう。
ちなみにパッケージをよく見るとナムサイには単にトムヤムクン、ナムコンにはトムヤムクンナムコンって書いてある。これってトムヤムクンのスタンダードがナムサイってことだ。
インスタント麺の元祖日清食品が1994年にタイに進出したがママーの圧倒的な市場シェアを切り崩すことはできなかった。
クイティアオトムヤム
個人的にはトムヤムって聞くと「クイティアオトムヤム」をイメージする。これは観光客向けの屋台とかで売ってる「クイティアオトムヤムクン」とは違いエビは入ってない。
普通のクイティアオのスープにトムヤムペーストなどを使って濃いめの味付けをしたメニュー。辛味、甘味、酸味などお店ごとに独自の味付けをする。クイティアオトムヤムの専門店だってある。
トムヤムクンラーメン
日本風のラーメンのスープがトムヤムクンってメニューもけっこう見かける。8番ラーメンが有名だけど幸楽苑、一風堂、ちゃぶ屋とんこつらぁ麺、らあめん花月嵐など日系ラーメン店に多い。
8番ラーメンは1992年にタイに初出店。現在では150店舗を展開して日系外食チェーンとしてはやよい軒に次ぐ規模。この8番ラーメンでいちばんの人気メニューがトムヤムクンラーメン。(※)
日本で最初にトムヤムクンラーメンが登場したのが早稲田のティーヌンで、1992年だからタイとほぼ同じ時期になる。
トムヤムクンチャレンジ
じつはトムヤムクンってあまり好きじゃないけど、トムヤムクン特集ってことでアソークのTerminal21のフードコートPier21のトムヤムクンをぜんぶ食べてみた。
1軒目、オムライスが付いて59฿。エビは普通サイズが2尾。スープは…ナムサイっぽいけどスパイス、ハーブ感はゼロ。これトムヤムクンじゃない。
2軒目、単品で55฿。スープはナムコンでエバミルク入り。普通サイズのエビ2尾。それなりにコクがあっていい感じ。
3軒目、単品で50฿。スープはナムサイ。エビは普通サイズ2尾。ナムサイだからかバイマックルーやタクライの香り強め。
4軒目はTerminal21のお隣のロビンソンB階のTopsフードコート。スープはナムサイでハーブ系が多め。小エビが5-6尾。
1軒目以外はまあまあ普通にトムヤムクンだった。そして予想に反して4軒中ナムコンは1軒だけだったのはちょっと意外。
この企画のおかげで何杯のトムヤムクンを食べただろうか。わかったことは個人的にはトムヤムクンは好きじゃないってこと。