人は、死んだらどうなるの?
※お檀家さまへお送りした2024暮れのお便りです。
誰にでも平等に、必ず訪れるのが死の瞬間です。私は、物心ついた時から葬送の儀式や法事が身近で、僧侶となってからは幾度もお別れの場に立ち会いました。しかし、私のような僧侶や葬儀関係者、医療従事者を除けば、多くの方は死について考えることを「縁起でもない」と避けたくなるのが正直な気持ちかもしれません。
このお便りを読んでおられる皆様は、家族の死をきっかけに曹流寺と縁を結ばれた方ばかりです。家族を亡くした直後、悲しみと動揺のさなかにある中で、儀式で実際に何が行われているか、故人がこれからどうなるのかを意識するのは難しかったのではないでしょうか。
今回は、お檀家さまがその生を全うされたときに曹流寺でお勤めする儀式の内容と、その意図についてお伝えします。お別れを迎えてからまだ日が浅く、心が揺れ動いておられる方は、今は無理に先を読み進んでいただかなくても構いません。落ち着いた際に、改めて開いてくださればと思います。
葬送は、お別れの場であると同時に、故人が出家得度して仏道に入る儀式を行い、仏道成就を祈願する場です。つまり、亡くなった方は私と同じ僧侶になります。
臨終の知らせが入った後、最初に行うのが枕経です。これから出家して仏の世界に入ることをお知らせするために、妙法蓮華経如来神力品をお唱えします。
俗世での最後の夜となる通夜では、故人の家族構成によって、父母恩重経または仏遺教経の八大人覚をお唱えします。故人とご遺族に至るまでの命の系譜を振り返り、仏門に入る心構えをお伝えするものです。枕経と通夜は、同じ曹洞宗でも寺院によって勤めるお経が異なります。
翌日の葬儀は、大きく授戒・念誦・引導法語の3つのパートに分かれます。
まず授戒です。剃刀を手に、剃髪の偈文をお唱えます。次に懺悔文をお唱えして清らかな水・洒水を手向けて罪や煩悩を洗い流します。続いて、仏弟子として守るべき十六条の菩薩戒(三帰戒・三聚浄戒・十重禁戒)をお授けします。その後、お釈迦様から受け継がれてきた「正伝の仏法」を継承する血脈授与です。曹流寺なら、私の師匠・堀部明宏から授与されれば92代の、私から授与されれば93代の仏弟子となります。授戒は、生前に曹洞宗で出家得度して僧侶となる場合と同じです。
ご遺体を棺に納める入棺諷経で大悲心陀羅尼を読経し、観音菩薩の慈悲をお導きした後に続くのが念誦です。十仏名をお唱えする棺前念誦で悟りの成就を祈願し、仏具を鳴らして邪気を払う挙棺念誦では大宝楼閣善住秘密根本陀羅尼をお唱えして悟りの境地への道を拓きます。
引導法語は、松明を模した先端が赤い棒を大きく回し、故人への法語を漢詩で贈るとともに、迷わず仏道を歩むことができるように引導を渡します。最後に故人の仏性覚醒を祈願する山頭念誦で儀式は終わり、お別れの焼香をします。
こうして、新たに仏弟子となった故人は、四十九日までの間に仏道修行をし、究極の安穏の地であるあの世へと至るのです。
また、仏弟子の名前として授かるのが戒名です。在家信者の戒名には、信士/信女、居士/大姉、院号と三段階の位階があります。これは、江戸時代に身分によって戒名が分かれていた名残です。明治以降に自由化され、生前の国家や寺院への功績を示すようになりました。現代でいえば、春秋叙勲や表彰状のようなものでしょうか。戒名の違いによって、仏弟子としての処遇が変わるわけではありません。
仏教のスタンダードは、生きている間に出家得度し、授戒の証として戒名をもらい、俗世と縁を断って仏道修行に励むことです。ところが、俗世を生きる人間にとって、それは非常にハードルが高く、非現実的です。僧侶として主体的に坐禅修行に励むようになった私自身、改めてその難易度の高さに圧倒されている次第です。
名実ともに俗世から離れた没後に仏道修行に集中し、究極の安穏に至る。葬送は、その道が拓かれる瞬間に立ち会う場です。私は、葬送にあたって「自分よりも先に、悟りの境地にお送りする」との思いでお勤めしています。そして「仏」の位に入られた故人に敬意を払い、大切にお祀りしてご供養を続けています。
私たちは誰もが、生と死の間の短い時間を過ごしています。そして、いつか必ず葬送の場の主人公となる日が訪れます。短い「今」を精一杯生き抜くためにも、祖師方から脈々と伝わった仏法を相承して仏の位に入り、命のバトンを渡した後世の人々を守護する存在となるためにも、最期の場を安心してお任せいただきたいと思います。
また、曹流寺では、一定時間の坐禅修行を積んだ参禅者には得度ができる制度を設けています。今年、私の元での得度に関心を持ってくださった方が3名おられます。人生の選択肢が多いこの時代に、仏道修行に身を投じる決意をなさる方は、故人の後輩とも言える存在となるでしょう。合わせて見守ってくだされば幸甚です。
今回のお便りはやや漢字が多く、読み方がわからないものもあるかもしれません。暮の法要の際、私や弟までお気軽にお訊ねください。
暮の御祈祷法要(一般の方も参加頂けます)は、今年1年をつつがなく過ごせたことをご先祖さまにお伝えし、来年の無事をお祈りします。皆様とお会いできるのを楽しみにお待ちしています。