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【絵本レビュー】 『おひなさま』
作者:間所ひさこ
絵:井江春代
出版社:チャイルド本社
『おひなさま』のあらすじ:
もうすぐうれしいひなまつり。さあ、おひなさまをかざりましょう。
『おひなさま』を読んだ感想:
ひな祭りですね。海外に住んでいるし、うちには息子しかいないしという理由で、ますますひな祭りから遠のいているこの頃です。
父はひな祭りにとても真面目に取り組んでいました。アルバムには毎年のようにひな壇の前に座る私の写真があります。私たちのうちには、場違いなほど大きくて立派なひな壇があります。一生のうちでたった一人だけ欲しかったという娘のために奮発して買ったのでしょう。飾り付けもその保管も全て父がしていました。小さかった私は、飾り付けをするところは見たことがないのですが、片付けは毎年見ていました。手伝えと言われたことはほとんどなく、せいぜい「その箱を持ってこい」とか「その楽器や弓矢をしまえ」などという害のないことだけ頼まれました。私のもの、というよりも、父の宝物だったのかもしれません。「お嫁に行き遅れませんように」と言って、飾りを下ろす日はちゃんと守られ、そのあとは念入りに虫干しして丁寧に紙に包まれしまわれました。母でさえ触ることは少なかったように思います。
二十歳を過ぎた頃から、父はひな壇を出さなくなりました。それでも毎年一生懸命人形の日干しをしていました。私も特に雛飾りを見たいとも思わなかったので、飾らなくてもへいっちゃらでした。そして私は日本を出てしまい、ひな祭りのことさえ忘れていったのです。
2年前の2月、私は息子を連れて帰国しました。正月から父の容体がよくなく、栄養は点滴だけという状態になったのです。医者によれば「2週間から3ヶ月。。。」ということでしたが、すでにひと月が過ぎ、母もそろそろという焦りと不安から私を呼び寄せたのです。ひと月半も食事をとっていないというのに、父はまだ割と元気でした。寝ている時間は多くなりましたが、息子の様子も気にできていて、ミニカーを手に取ったりもしました。そしてそのまま2月が終わろうとしていた時です。母が突然宣言しました。「雛飾りを出そう」すっかり忘れていたあの飾りは、写真のままでした。母と私はインターネットを見ながら人形を並べ、なんとか出来上がりました。父が倒れてから日干しされていなかった飾りは、少し湿った匂いがしました。
父を車椅子に乗せてひな壇を見せると、父は「おっ」という顔をしました。それから私たちは息子も入れてみんなで家族写真を撮ったのです。父と雛飾り。最後の写真となりました。私にとって何よりも感慨深かったのは、そのあとの片付け作業でした。記憶を掘り起こし、父がしていたように日干しをしました。父は一体どんな気持ちで毎年これを片していたんでしょう。客足も少ない我が家に、なんでこんな立派な一式を揃えたんでしょう。今では全て推測でしか考えることができませんが、それいらひな祭りはまた私にとってまた少し特別な日になりました。
『おひなさま』の作者紹介:
間所ひさこ
1938年、東京都生まれ。第1回日本童話会賞、詩集『山が近い日』(理論社)で第13回野間児童文芸賞推奨作品賞を受賞。 主な作品に、「10ぴきのかえる」シリーズ(絵:仲川道子/PHP研究所)、「ころわん」シリーズ(絵:黒井健/ひさかたチャイルド)、『クリスマスにくつしたをさげるわけ』(絵:ふりやかよこ/教育画劇)『くっきーだあいすき』(絵:岩村和朗/金の星社)などがある。 2019年死去。
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