【絵本レビュー】 『おっきょちゃんとかっぱ』
作者:長谷川摂子
絵:降矢奈々
出版社:福音館書店
発行日:1997年8月
『おっきょちゃんとかっぱ』のあらすじ:
おっきょちゃんが川で遊んでいると、カッパの子どもに水底のお祭に誘われました。おっきょちゃんは、キュウリをおみやげにもっていったので大歓迎され、お餅をもらって食べると、水の外のことを全部忘れてしまいました。カッパの家の子どもになって楽しく暮らしていましたが、ある時、人形が流れてくるのを見つけて、急に家を思いだし帰りたくなりました。はたして人間の世界に戻る方法は……。
『おっきょちゃんとかっぱ』を読んだ感想:
表紙の絵を見てこれだっと選んだら、やはり長谷川摂子さんと降矢奈々さんのコンビでしたね。ちょっとノスタルジックな感じがするのと、幻想的なお話が大好きです。
かっぱの世界に行ったことはないけれど、これを読んでいたら初めて友達の家に泊まった時のことを思い出しました。多分小学校の2年生か3年生になったくらいの時のことです。うちからバスで10分くらいのところに住んでいる同級生がいました。Rちゃんです。Rちゃんにはお姉ちゃんがふたりいて、6歳上の一番上のお姉ちゃんは、特によく可愛がってくれました。Rちゃんのお母さんと私の父は仲が良く、それまでにも学校の後や週末に遊びに行ったことはありましたので、人見知りな私にとっても落ち着いていられる人たちではありました。ある日Rちゃんのお母さんから、「泊まりにいらっしゃいよ」と声がかかり、私はあのお姉ちゃんたちともっと遊べるという単純な嬉しさから、二つ返事でRちゃんの家に向かったのでした。
向こうの家に着くと、私は早速いつものように遊び始めました。一番上のお姉ちゃんが私にピアノで「ねこふんじゃった」の弾き方を教えてくれました。二番目のお姉ちゃんとも遊びました。もちろんRちゃんとも遊びました。私は人の家でご飯を食べるのが苦手なのですが、それもなんとかクリアしました。まるで私にお姉ちゃんたちができたようで、私は時間も忘れて楽しく過ごしました。
ところが、寝る時間が近づき歯を磨いていると、急にうちのことが思い出されたのです。すっかりRちゃんの家の子になっていた私は、自分の家のことを忘れていたのです。私の家では夜寝る前に本を読んでもらうのが習慣でした。読んでもらう本を選ぶのは私です。でもRちゃんの家では3人の女の子たちが先を争って洗面台を使い、さっさと寝る支度をしているだけで、本を読んでもらうことはなさそうでした。いつもの寝る儀式を欠いてしまった私は、急に家にいないことを認識したのです。黙って静かに歯を磨き、黙ってパジャマを着て、ケラケラとふざけあっているRちゃんたちを見ていると、ますます家が恋しくなりました。私はプイッと子供部屋を出ると、Rちゃんの両親の寝室へ行きました。Rちゃんのお母さんは鏡の前に座って顔にクリームをつけていました。「うちに帰りたい」と涙をこらえて言うとRちゃんのお母さんは鏡から目を離さず、「明日の朝連れて行ってあげる」と言いました。私は怖くて叫びそうになるのをなんとか抑えて、もう一度言いました。「今うちに帰りたい」でもRちゃんのお母さんは鏡から目を離しません。「もう遅いからパパも寝ちゃってるわよ。明日一緒に帰りましょ」その言い方はきっぱりしていて、子供ながらに今夜はここで寝るしかない、と諦めざるを得ませんでした。涙がポロリと落ちました。まただんまりして子供部屋に帰ると、二番目のお姉ちゃんが「大丈夫だよ」と言いました。そして私はRちゃんとお姉ちゃんたちの間で眠ったのです。
私にはおっきょちゃんのように家に帰る呪文はありませんでした。でも泊まりに行くと決めたのは私であって、Rちゃんのお母さんに「自分で決めてしたことなんだから、その行為に責任を持ちなさい」と教わったような気がします。厳しかったけど、私のことをいつも娘の一人のように可愛がってくれた人でした。もう会うことはできないけど、今もありがとうの気持ちでいっぱいです。
『おっきょちゃんとかっぱ』の作者紹介:
長谷川摂子
1944年島根県に生まれる。東京大学大学院哲学科を中退後、公立保育園で保母として6年間勤務した。現在は「赤門こども文庫」「おはなしくらぶ」主宰。「みず」「きょだいなきょだいな」(以上福音館書店刊)などの作品がある。2011年逝去。
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