【絵本レビュー】 『ちちゃこいやつ』
作者/絵:ロブ・ハドソン
訳:ダニエル・カール
出版社:マイクロマガジン社
発行日:2020年1月
『ちちゃこいやつ』のあらすじ:
おなかをすかせたおおかみが、ほら穴のなかの“ちちゃこい"いきものを
おびき出そうと、あの手この手でがんばります。
はたしておおかみの作戦は、成功するのでしょうか…?
味のある山形弁も魅力の絵本です。
『ちちゃこいやつ』を読んだ感想:
私は子供の頃毎年冬学校でスキーに連れて行かれ、1月は新潟、3月は山形へ行っていました。特に地元の人たちとの交流があったわけではないけれど、この二つの県にはなんとなく愛着があります。
小学校で最初の年に行った山形はとても遠かったです。蔵王が恒例の場所なのですがその頃直通はなく、山形駅まで新幹線で行って、そこからローカル線に乗り換え、さらに蔵王駅からバスに乗るのです。1週間分の服とスキー用具は7歳児のキャパを超える量で、今写真を見ると、どの子もどでかいリュックから細い2本の足が見えているだけという、まるで南極探検隊のような様子でした。父は私が卒業するまで毎年付いてきていたのですが、最初の年で懲りたのか、よく年は前もって宅急便でふたり分のスキー板とブーツを送っていました。
とても印象的だったのは、バスを降りてからの旅館までの道のりです。温泉街を歩いていくのですが、バスのドアが開いた途端流れ込んでくるのは、硫黄の香りでした。いわゆる、卵の腐った匂いです。7歳児の私はもちろん硫黄なんて知らなかった上卵が好きではなかったので、今までの楽しい気分は消え、さっさと帰りたくなりました。「なんでこんなところに連れてこられたんだろう」とリュックの重みを感じながら、私は後悔し始めていたのです。後悔はこれだけでは済まず、翌朝スキーブーツでできの悪いロボットみたいにしか歩けなくなり、それで滑りやすい石の階段を登ったり降りたりして、さらにもっているスキー板はなぜがハサミみたいに開いたり閉じたりという、何もかもがコントロール不可能な状態となったのです。当時はスキーは身長より10センチほど長いのが良しとされていたし、今のようなカーボン製でもなかったので、重いんです。板の両端には鉄がついていて、合わさっている板がハサミのようにスライドして開くたびに、その鉄部分で頭が切れるような恐怖感も味わいました。いったいどのくらいの道のりだったんでしょう。子供だった私にとってはまさに拷問だったのですが、なぜか6年も続けられたのは、そのあとのスキーが本当に楽しかったからなのでしょう。
そのあと高校生になり、今度はコーチとして戻ったんです。旅館からスキー場までの道のりは相変わらずで、子供たちはぐずったり文句をタラタラとこぼしていましたが、思ったより遠くはなく、ゆっくり歩いても15分くらいでした。「転んだら滑り落ちて大怪我をする」と思っていた石段も大したことはなく、子供の目線で見る世界ってずいぶん違うんだなあと改めて気づかされました。
この6年間で山形弁を聞いたかどうかは覚えていません。スキー教室の後自由時間があって、友達と玉こんにゃくを食べに行ったりしていたので聞いたかもしれませんが、観光地だったし、私たちにもわかりやすいように話してくれていたのかもしれません。その後テレビでダニエル・カールさんを見るようになって、初めて山形弁の面白さを知りました。今聞くと、その温かみに思わず笑みがこぼれ、あの硫黄の匂いと玉こんにゃくの優しい味が蘇ってくるのです。
『ちちゃこいやつ』の作者紹介:
ロブ・ハドソン(Rob Hodgson)
1988年、イギリス生まれ。大学でイラストレーションを専攻。 日々部屋をちらかしながら創作物を生み出している。 影響を受けた人物はピカソやジョン・ケージ、ザ・ビーチ・ボーイズ。 どうぶつとスケートボードが大好き。趣味はヘンテコなおもちゃを集めること。 本作が記念すべき絵本デビュー作となる。
ロブ・ハドソンさんの他の作品
残念ながら、まだ日本語に翻訳されたものは出ていないようです。早く新作が読みたいですね。
サポートしていただけるととても嬉しいです。いただいたサポートは、絵本を始めとする、海外に住む子供たちの日本語習得のための活動に利用させていただきます。