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都市の中の「他界」へつなぐ。『極楽あそび芸術祭』開催によせて(秋田光彦|應典院住職)

都市の中の「他界」を形成する寺


97年の再建当初から、應典院の原点は「学び・癒し・楽しみ」である。学びは教育で、癒しは福祉、楽しみは芸術文化。それぞれお寺がその源流となっている、そのようにお話してきました。教育は近世の寺子屋の伝統がそうだし、福祉はその概念もなかった古代より、聖や寺院による救済事業が行われてきました。
さて、3つ目の「楽しみ」なのですが、芸術文化と一括りでいうと、今では娯楽や鑑賞の対象と考えますが、元来もっと神仏と一体感のあるスピリチュアルな表現を言いました。日本芸能の始源である能や狂言は、神仏への奉納芸として発展しました。また勧進興行といって、お寺を建立したり、御本尊を造立するのに浄財(寄付)を集めるために、その代償として見せた芸能が日本の舞踏や演劇のルーツでもありました。近世以降、庶民の間でブームとなった各地の巡礼も、現代の観光旅行の先駆けといえます。

「楽しみ」の「楽」とは、仏教的には安楽=身にも心にも苦しみがなく、安らかで楽な状態をいいます。芸の様式は違えど、人々はそれを神仏の救いとして享受してきたのでしょう。つまり、先に述べた芸術文化の原型には、宗教的な感性やよろこびみたいなものがあって、それが長く歴史の中で受け継がれてきたのかと思います。



エンターテイメント全盛の現代では、そういった面影はすっかり消し去られているのですが、應典院のようにお寺が芸術文化を扱う場合、そうした記憶がふと蘇る瞬間があります。再建当初からしばしば「美術館か劇場かと思って来たが、ここはお寺だったんですね」と評されましたが、それは見かけや機能面だけではなく、ここで営まれる若い人たちの表現や創造活動に、かつての原風景を感じ取られたからではないか、と思ったりします。

もちろん、各所に安置された阿弥陀さまや観音さま、2階から見渡す墓地の光景などもこの場所の特異性が際立つものでしょう。本堂でイベントをやれば嫌でも御本尊のオーラに触れないわけにはいかない。そういう外形的な宗教性もそうですが、もう一つそもそもお寺という場所自体が、分厚い時間と記憶、無数の祖先・死者の共在が積み重なって、都市の中の「他界」を形成している、その意味に気づかされるのではないでしょうか。

「他界」とは死後の世界であり、死ぬことを指します。少し敷衍すれば、非日常や異空間、あるいは超越性や不条理を含意するといっていいでしょう。かつて宗教者や芸能者は、「界」(さかい、境界)を行き交う他者として、芸術・芸能を生み出したのかと思います。
このように、お寺の芸術文化には、場所含みで、失われた「他界性」を掘り起こすような企みがなくてはならないと考えます。それが應典院の存在理由です。


「他界」へつなぐ:極楽あそび芸術祭


今回の「極楽あそび芸術祭」には、極楽、あそび、芸術という3つの「他界性」が込められています。極楽(浄土)とは明らかにこの世とは異なる、死後世界のユートピアです。浄土仏教ではそこへ向かうこと=「極楽往生」を教えの本義としてきましたが、いのちの行方を理想化した他界のビジョンの提示は、死で終わらない生命観や生と死の連続性を示唆しています。

また、あそびとは、個人や社会生活を超えたところにある、他界へのアクセスをいいます。生産もない消費もない、無為で脱俗的な営みがあってこそ、他界は存在理由を見出すことができます。それは、現在の無縁と多死の時代に少なからず意味を持つのではないでしょうか。そして芸術の原型は、前述してきた通りです。芸術こそ、他界へ通じる唯一の回路であったのです。

このたびのテーマは、「内なる子ども」です。子どもは無秩序で無節操であり、カオスという面もあります。マージナルを生きる子どもが、お寺という他界で、芸術をあそぶ。まさに彼らこそ、アーティストの原初といっていいのでしょう。そして「うちなる子ども」とあるように、その「他界をあそぶ子ども」は、誰にも内在する可能性であると信じたいのです。

極楽あそび芸術祭:開催概要

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親子・ご家族での参加も、大歓迎です🙌
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極楽あそび芸術祭初年度となる今年は「内なるこども」をテーマに、2組のアーティストを迎えます。 作品展示に加え、こどもも大人も気軽に参加できるワークショップでは、土や雑草で絵の具からつくるお絵描き、オバケの仮面をつくる演劇ワークショップ、仏教視点で下寺町をあるく極楽フィールドワーク、ぬいぐるみを持ち寄り語るカフェなど多数! 芸術祭を紐解くトークセッションから落語まで、アート・こども・仏教をキーワードに多様な表現の場を用意しています。

チケットの申し込みは、以下のwebサイトから

▼クレジットカード決済の場合:

▼銀行振込・当日現金決済の場合:

■会期日程
10月19(土)-27日(日)
平日:12:00 - 19:00
休日:
19日:13:30 - 17:30  20・26日:10:00 - 17:30  27日:10:00 - 14:00
■会場
應典院(大阪府大阪市天王寺区下寺町1丁目1−27)
Google Map:https://maps.app.goo.gl/Q1hW8S8SnyKSKtGP9
※館内にエレベーター、オムツ替えシート、幼児用便座付きトイレ、仮設授乳室 ございます。
■情報
webサイト:https://artfes.outenin.com/
Instagram:https://www.instagram.com/asobi.outenin/
Twitter:https://x.com/asobi_outenin
■参加アーティスト
水田雅也、片山達貴
■体制
主催:應典院
企画・運営:一般社団法人Deep Care Lab + 芸術祭企画実行委員
協力・協賛:大蓮寺、パドマ幼稚園・パドマ幼稚園PTA・後援会、創教出版


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