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カメラの前で、 娘と裸で抱き合って、泣く。

 撮影が始まった。着ていたコートを脱いでスタッフに渡す。同様にコートを脱いだ娘と、手を繋ぐ。かなり離れた位置にカメラがあり、カメラマンとディレクターが見える。合図が来て、手を繋いだまま二人でゆっくり歩き出す。サンダルの他には何も身につけていない裸だ。私たちは母と娘のヌード映像のモデルとしてここに来た。

 このシーンでは、何か話しながら歩いて来て欲しいとの指示があった。音声はとらないのでなんでもいいと。
「始まったね。寒くない?」
 と娘に声をかける。
「ちょっと寒いけど大丈夫」
「自然な感じでね」
「うん」
 白樺の木立に囲まれた広い草原で、背景は深い森だった。専門的なことはわからないが、私たちの裸像を引き立てるような光を狙って位置を決めているのだろう。
「ごめんね、こんな事になってしまって」
「いいの。頑張るから心配しないで」
 そんなことを娘と話しながら歩き、カメラに近づいていく。
「はい、オーケイです!」
 ディレクターの大きな声で私たちは立ち止まる。
「そのまま回れ右して、今度は同じように歩いて戻ってください」
 私たちは向きを変え、手を繋ぎ直して歩き出す。十代の娘はともかく、私のお尻は鑑賞に値するものだろうか、などと考えながら、姿勢に気をつけながらゆっくりと歩いた。

 草原を歩くシーンの撮影が終わり、私たちはコートを着て、用意されていた椅子に腰掛けた。女性のスタッフが温かい紅茶を持ってきてくれた。髪の乱れを整えてくれる。
「次は少し走ってもらいます。二人で笑い合って、向きを変えながら自由に動いてください。だいたいあの辺りを」
 動く範囲を指示されて、あとは自由に走り回ってほしいという指示だった。私の緩い乳房が揺れるのは綺麗だろうか、とまたネガティブな考えが浮かんでしまうが、ディレクターが撮りたいというのだから何らかの価値はあるのだろうと思うことにする。

 私たちはお金のために裸になることを選んだ。初めは私だけが、人妻ヌードモデル(実際は離婚していて妻では無いのだが)に応募したのだが、娘の存在を知ったプロダクションの提案で親子ヌードモデルとして売り出そうということになってしまった。もちろん最初は断ったが、さまざまな条件を提示され、悩んだ末に娘に相談して決めた。少女ヌードモデルとして話題となったのちに芸能界に残り、ドラマや映画に出演している先輩もいる、という口説き文句もあった。娘がその話をどの程度信じているのかはわからないけれど、私たちの生活のために決心してくれたことは間違いない。娘にとっては過酷な仕事のはずだが、そのようなことは何も言わずにここに来てくれた。

 私たちは裸になり、薄いチュールの布を持って走ることになった。娘は元気に飛ぶように走り、私がそれを追って走った。胸は無様に揺れた。布は体に巻きついたり離れたりした。私は娘に追いつき、手を取った。そのまま体を引き寄せて、抱きしめる。そこまでがディレクターの注文で、私たちはその通りに動いてみせた。
 休憩を挟みながら、様々な撮影をこなした。裸であることにも慣れていった。草の上に寝て、お互いの髪を撫でたり、娘を膝枕したり、注文通りに動いた。途中でスチール写真の撮影もした。

 屋外の撮影を終えると、車で移動して、小さなコテージに入った。ここで軽食をとり、しばらく休憩したあと残りの撮影をして、終わりである。柔らかなタオル地のバスローブを着せてもらい、娘と二人だけにしてくれた。
「疲れたでしょう?」
「ううん。大丈夫。お母さんこそ、あんなに走って」
「まぁ、そうね。でも大丈夫。あと少しだから」
「このあと、もっとエッチな感じになるんでしょう?」
「ちょっとだけだと思うけど。心配なら詳しく聞こうか?」
「いいの。もう覚悟決めているから……」
「ごめんね、本当に」
「いいのよ。大丈夫だから。裸も慣れた」
 私は娘を抱きしめて、ありがとう、ごめんなさい、と呟いた。

 コテージの撮影は、大きなベッドに腰掛けたところから始まった。私たちは大きな男物の白いシャツを着た。近くにカメラマンがいる。私たちは上目遣いにカメラを見つめながら、ゆっくりとシャツのボタンを外していき、タイミングを合わせて、一緒に脱いだ。ちょっと恥ずかしそうな感じで、という指示だった。うまくできたと思う。
 カメラから視線を外して、お互いの顔を見る。私は指で娘の鼻を優しく突く。二人で笑う。指示通りに。二人で立ち上がり向き合う。身長は私のほうが少しだけ高い。娘が私の乳房を両手で持ち上げる。
「重い」
 と笑う。娘のお椀を伏せたような形の胸とは違うのだ。私たちはそのまま近づいて、胸を合わせる。押し付けるように。顔だけ動かしてカメラに向ける。片手を娘の腰に回して、さらに引き寄せる。髪を撫でてやる。娘は目を閉じて俯く。
「はい、オーケイです」
 ここで休憩になった。シーンの大まかな流れは打ち合わせているが、細かな指示はその場で出る。私たちは言われた通りにこなすだけだ。

 二人で無表情で並んで立つシーンから撮影が再開した。カメラは私たちの足元から上に向かって撮っていく。そして顔のアップ。
 私たちはベッドに移動し、腰掛けたまま抱き合う。私は娘の頬にキスをする。娘も私に返してくる。見つめ合い。娘が目を閉じる。唇を合わせる。髪を優しく撫でてやる。一度離し、もう一度。
「舌出して」
 娘の耳元で囁く。可愛い舌が覗く。私たちは舌を絡ませる。カメラは口元だけを狙っているようだ。私たちはベッドに寝て抱き合う。キスをする。娘が愛おしい。可愛い。生まれてきてから今までの様々なことが脳裏に浮かぶ。私は何をしているのだろう。涙が溢れる。
「お母さん、大丈夫?」
 小声で娘が訊いてくる。
「大丈夫よ。悲しいわけじゃないから」
 キスをしてあげる。カメラは私の涙を撮っている。私は声をあげて泣きながら、さらに強く娘を抱きしめる。

 

 

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