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卒業アルバムのお馬鹿な秘密

 娘の学校の卒業アルバム用の写真撮影が来週だという。まだ一学期だけど、こんなに早かったかしら。一人ずつのポートレートを並べる方式らしい。私の時は先生も一緒の集合写真だった。
「お母さんの高校の卒アル、あるんでしょう?見せてよ」
「なんで?」
「なんでって、別に深い理由はないけど。どんなだったのかなって」
「昔のだからね。笑っちゃうわよきっと。ちょっと待ってて」
 卒業アルバムを開くのは久しぶりだ。公立の共学の普通科で、秀才も不良も少ない平凡な学校だった。

 寝室の棚からアルバムを持ってきて、娘に渡す。
「昭和の香りがするわ」
「そんなことないでしょ」
「わ。白黒だ」
 はじめに校舎の写真と校長のページがあり、確かに白黒写真だ。
「カラーのページもあるのよ」
「『も』ね」
 娘に笑われる。
「お母さん何組?」
「5組かな」
 娘がアルバムのページをめくっていく。
「あった。5組」
 白黒の集合写真だ。
「どれだかわかる?」
「うーん、ちょっと待って……。みんな同じ髪型なのね」
「流行っていたのよ。今だってそうじゃないの?流行りはあるでしょう。あと校則も」
「そうか。でもすごく古い感じがする……あ。これでしょう?」
「当たり」
 集合写真と名前の対応表を見ると、私の旧姓の名前がある。
「可愛いじゃん。モテた?」
「さぁ、どうだか」
「へえ、これがお母さんかぁ」
「あなたと同じ歳よ、これ」
「大人っぽいようにも見える」
「そうね。やっぱり時代かしらね」
「これ、身長順に並んでるのかな。出席番号順じゃないよね」
「そうね。となりにいるのが仲よかった子、いまでも年賀状を交換してる」
「遊び仲間って感じ?」
「そうね……あ!」
「え?何?」
「あ、なんでもない」
「何か思い出したんでしょう?」
「うん。言わないけど」
「何よ、男の子のこと?」
「違う違う。あー、懐かしい」
「言ってよ。気になるから」
「そうね。あはは」
「何?気になる〜」
「えーとね。これ内緒だからね」
「はい」
「この写真を撮った時、私と、この隣の子、ノーブラなの」
「え?」
「ノーブラ」
「どういう事?」
「なんでだったかしら。忘れちゃったけど、二人で話しあって、卒業アルバムの写真を撮るときはノーブラにしましょうって」
「馬鹿みたい」
「そうよ。女子高生なんて馬鹿なんだから」
「制服をきちんと着てるからわからないね」
「わかったら困るわよ」
「ほんとに馬鹿ね」
「二人だけの秘密を作りたかったのかな。もう忘れちゃったわ」
「お友達もその事覚えているかしら」
「どうだかね。でも本当に馬鹿よね。笑っちゃうけど」

 アルバムを一通り見た娘は
「楽しかった。レトロなアルバム」
 とページを閉じた。
「私も何かしようかな」
「何かって?」
「馬鹿なこと」
「やめなさいよ本当に」
「ノーパン」
「馬鹿」
「女子高生ですから、馬鹿でいいじゃない」
「いいけど、ノーパンはダメよ」
「わかってる。冗談よ」
 娘はスカートをひらひらさせながらリビングを出て行った。私はもう一度アルバムを手に取り、5組のページを開く。ノーブラで澄ましている昔の自分と対面する。そして、
「ば〜か」
 と言ってやる。



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