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ぶらり、ぶんがく。本と歩く

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文学作品にまつわる聖地、名作や話題作の舞台となった場所を、本を手に散歩する企画です。
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2022年2月の記事一覧

「回転像」鑑賞は冬がオススメ!

松尾芭蕉『おくのほそ道』 月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。舟の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる者は、日々旅にして、旅を栖(すみか)とす。古人も多く旅に死せるあり  時間は永遠に歩みを止めない旅人だ。すなわち人生も旅だ。昔から旅に生きて旅に死んだ者は多かった。私も漂泊したいという思いが募って…。そんな風に書き出される「おくのほそ道」は、江戸時代の俳人、松尾芭蕉(1644〜1694年)の代表作。150日間2400キロに及ぶ旅の出発地となったのが、

近代化が進む東京で…薄暗い路地へ

永井荷風『日和下駄』  お散歩コラムの小欄としては、この本は外せない。『濹東綺譚』などで知られる作家の永井荷風(1879〜1959年)が、東京の街を歩きまくるエッセー集。こう書いている。  その日その日を送るに成りたけ世間へ顔を出さず金を使わず相手を要せず自分一人で勝手に呑気にくらす方法をと色々考案した結果の一ツが市中のぶらぶら歩きとなったのである(中略)私は唯目的なくぶらぶら歩いて好勝手なことを書いていればよいのだ。  お気楽モードを強調して、目指すのは風光明媚な名所

ふるさとは遠きにありて… 犀川のほとりで口ずさむ

室生犀星「抒情小曲集」  金沢の中心街である香林坊・片町から南西に少し足を伸ばす。三角形が組み合わさったトラス構造が印象的な犀川鉄橋があらわれる。川を渡っていくうちに、賑やかさが遠のいていく。渡り切って右折。瓦を載せた塀の先に、小さいけれど立派な門があった。「雨宝院」と記された門の脇にお地蔵さまが立って、参詣者を迎えている。  大正から昭和にかけて詩人・小説家として活躍した室生犀星(1889〜1962年)は、幼少期をこの小さな寺で過ごした。すぐ近くには、生家跡もある。そち