高校最後の夏に始まらなかった淡い恋
一日の半分以上女性のことを考えている。
高校の同級生である岡野君(仮名)からLINEが届いた。実に2年ぶりである。内容はシンプルに『元気?そろそろ飯でもどう?』というものだった。
断る理由もなく『おお、いいね!』と返すと、岡野君は『どうせなら3年の時のメンバー呼ばない?』と送ってきた。
う〜ん・・・嫌ではないが、『久々だね♪』となるだろうか?当時クラスは男10人、女30人ぐらいで分かれていて、あまり男女間の交流はなかったような・・・。
『いや、ほら代々木さん(仮名)とか笑』
そう言って岡野君は15年以上前のネタを掘り返してきた。
代々木さん・・・懐かしい。
人生最大のチャンスをフイにした過去
高校3年時の時、クラスの男同士の会話で「クラスの中では誰が気になる?」という話をしていたが、『あまり好みのタイプはいないなぁ』と言って誤魔化していた。しかし、実はその時にいいなぁと思っていた女性こそ代々木さんである。
代々木さんは大人しい性格の女の子で、あまり男と話している姿は見ていない。かといってネクラといったイメージはなく、私は新学期の最初から気になっていた。
代々木さんと話したかったが、当時童貞真っ只中をひた走っていた私にとって、女性に声をかけるという行為はなかなかのハードさ。無駄なプライドも邪魔をして女性と距離を置き、男には『女と話すなんて面倒だわ』と強がっていたのだ。
本当ダサダサ・・・
しかし、チャンスは突然訪れる。それは席替えのクジ引きの結果、代々木さんの前をゲットすることができたのだ。
そこからは『前にデカイのいて成績落ちたらゴメンね笑』『これで代々木さんが塾行ったら俺のせいかな?笑』など、身の毛がよだつクソ寒い絡み方をして過ごしていく。
あの日…
日々の絡みが功を奏したのか、徐々に代々木さんも打ち解け、笑顔を見せる回数が増えてきた。
駐輪場で会えば挨拶、帰りは他愛もない会話。派手さは一切ないものの、物凄く楽しかった。
クラスの男からは『付き合ってるのかよ笑』なんて茶化されたものの、決して悪い気もしない。付き合ったらもっと楽しいのかな?とも考えるようになっていく
そして一学期が終わった日の夜、岡野君から一本の電話が入る。
『代々木さんがアソー君の好きらしくて電話番号聞かれたんだよね。アソー君はどうなの?』
驚き驚きただただ驚き…
話すようにはなったものの、付き合うかどうか?というところまでは進んでなかったはず。勿論好感はあったものの、どう受け止めて良いのか…。
”付き合えたら楽しいかも”とは思っていたが、いざチャンスを目の前にした時、どうすればいいのか童貞には分からなかったのだ。
東京ウォーカーに載ってるデートコース?浜辺を一緒に走る?カップルってそもそも何してるの?受験も控えてるし・・・
そう。気付くと私は付き合うデメリットを一気にリストアップしていた。
黙っている私に岡野君が続ける。
『あれ?もしかしてアソー君って彼女いたの?』
その問いに
『うん…』
と、世界一カッコ悪いウソをついてしまったのだ。
『そうか…なんかゴメンね…』
謝るべきはこっちだったのに、私は岡野君にも嫌な思いをさせてしまった。既に電話番号を教えてしまったとも聞かされ、私は岡野君との会話後に携帯の電源をオフにして逃げる。
本来なら滅茶苦茶嬉しいはずなのに…
翌朝、携帯の電源を入れると、見知らぬ番号の履歴が5件…代々木さんに違いない。
折り返しかけるべきか悩んだが、岡野君から既に伝えられていたかもしれないと思い、そのままにした。
すまない・・・代々木さんにとっても、高校生活最後の夏休みを最悪な形にしてしまった。
『気にしてても仕方ないから、もういいや』
若かった私は、自らの思いと裏腹に代々木さんへの想いに蓋をしてしまった。
結局、高校生活最後の夏は自慰&勉強&自慰を繰り返す、イカ臭い夏となってしまった。
二度と話すことはなかった
二学期が始まると、代々木さんは私を無視するようになっていた。当然だろう。こんな勇気なしのイカ臭童貞に話しかけることなんて何もない。
何度も話そうとは思っていたが、無駄なプライドがここでも邪魔し、結局最後まで代々木さんと話すことなく卒業した。
それ以降、一度も会えてない。進路さえ知らなかった。Facebookもやっておらず、数年前に行われた100名規模の同窓会にも当然いない。
高校の話題が出る度に代々木さんのことを考えたが、時すでに遅しの遅しだ。
そして今、高校卒業から既に倍以上の年月が流れているので、結婚してお子さんもいることだろう。
もう代々木さんではないのかな…そんなことを考えると、あの夏の選択を誤っていたのではないか?という気持ちも湧いてきてしまう。
私はその後数名の女性と付き合い、10年前に今の嫁と出会って2年後に結婚した。たまに喧嘩はするけど、穏やかで幸せな日々を送っている。
それでも、なぜか時々代々木さんのことが頭によぎってしまう。もし付き合っていたとしても、夏休みの間に別れていた可能性だってあるし、高校を卒業して環境変わって別れていたかもしれない。
ただ、それはあくまでも“付き合っていたら”の話であり、代々木さんをスルーしてしまった私にそんな権利はないのだ。
この呪縛を終わらせるには、一度会って話をしたいと思う。当然互いに家族がいるし(代々木さんは家族がいるだろうと断定)、何かが始まるわけではない。
それでも、もうすぐ20年となる【あの時なぁ】の感情を終わらせるべきだ。
さて、どうすれば会えるのか・・・岡野君・・・今度は期待できなそうだな……。
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