知らないことは無知ではない
知らないことは「知らない」と言うようにしている。そのことについて興味関心があるのであれば調べるか質問すればいいし、興味なければスルーでいい。
ダメなのは、知りもしないのに「あーあれね」と、知ったかぶりをしてしまうことだ。そのままバレなければいいが、無知を隠したために大恥をかくことだってある。
今回は無知が原因で大恥をかいた小学校同級生、大原くん(仮名)の話をしたい。
知ったか大原
小学4年生時のクラスメートである大原くんは、どういう訳か「知らない」という一言が言えない少年だった。
どんな質問をしても
「あーあれね」
「凄いよね」
のどちらかで返答してきた。
「今週のジャンプ見た?ギニュー特戦隊とかまで出てきたよね」
「あーあれね、何か凄いよね」
「先週末家族で群馬の○○行ったんだけどさ」
「あーあそこね、面白いよね」
「昨日の〇〇(ドラマ)見た?」
「見た見た、凄いよね」
という具合にだ。単なる相槌にも聞こえるけど、一度大原くん家に行ってしまった私は知っている。
大原くんの家は、今では珍しい大家族(両親含めて12、3人)でテレビはお父さん専用で子供達に視聴権限がないこと、車もないので遠出をしたことないこと、ジャンプは一度も見たことがないこと。
そんな大原くんの家庭事情を知っているクラスメートは少ないため、知らない・経験してないこと=恥ずかしいとなっているのではないだろうか?という気がしていたのだ。
その気持ちが増した結果、知ったか大原が生まれてしまった。という推測である。たかが小学4年生ぐらいで見栄を張る必要なんてないのに……。
一緒に床屋へ
ある日、我が家に遊びに来た大原くん。2人でファミコンをして2時間程経過した頃、私の母が部屋に入ってきて「あんた髪伸びてきたから、そろそろ切ってくれば?大原くんも結構長いから一緒に行ってきなよ」と伝えてきた。
ゲームに飽きた頃だし、そろそろ大原くんに帰ってもらいたい時間帯でもあったので、私は大原くんを床屋へ誘った。すると大原くんも「ええ?いいんですか?」と、乗り気だったため、2人で床屋へ行くことに。
その床屋は家を出で直ぐの曲がり角にある、私が通っている床屋だ。お店へ行くとオッチャンが「あれ?今日は友達も?珍しいねえ」と迎えてくれた。大原くんはやや緊張している様子だったこともあり、オッチャンが「あんま心配しないでね」と優しく声をかける。
タイミングよく先客がいなかったため、私をオバちゃん、大原くんをオッチャンが切ってくれることになった。
私が『ん〜全体的に今より短くしてください』とオバちゃんに伝えると、大原くんも『お、同じでお願いします』とオッチャンに伝える。そこまで緊張することか?とは思ったが、普段と違う床屋で緊張していたのであろう。
そして、チョキチョキチョキと2人の髪が切られていく。しばらくするとオバちゃんが私の襟足をカミソリでブ~ンと剃り始める。大原くんは変わらず強張った表情だったので『大原くん緊張してるの?』と聞くと、『うっ、うるせよ(笑)全然緊張してないし』と強がった。
そして、数分後事件が発生する……。
床屋でも知ったか
大原くんの髪が比較的長かったこともあり、私より少し遅れて大原くんの耳周りの毛をオッチャンが切ろうとした時だった。
オッチャン:「サイドはどうする?」
大原くん:「ん〜短くしてください」
オッチャン:「はいよ!じゃあ、もみあげはどうする?短くしようか?」
という何の変哲もないありふれた質問に対し、大原くんはどうやらもみあげが分からなかったらしい。ただ、私がいることもあって「もみあげってなんですか?」と聞くに聞けないのだろう。
そこで大原くんは何を思ったのか、次の言葉をオッチャンに伝えた。
「もみあげ、、、揉んでください」
!?
!?
その言葉に誰もが言葉を失った。
恐らくだが、もみあげの前半部分であるもみを揉みに変換し、どこかをマッサージすることなのかと考えたのだろう。
少しするとオバちゃんは堪えきれなくなったのか「ブッ……」と吹いた。それを合図に私もオッチャンも「ハハッ」と笑い出してしまう。自らの発言がおかしなことに気づいた大原くんの顔は真っ赤だ。
そんな大原くんに対し、オッチャンはオーダー通りにもみあげを数回揉んであげていた。客のもみあげを揉む理髪師を見たのは、後にも先にもこの時だけ。
大原くんの間違いに付き合ってあげたオッチャンがもみあげを揉み終わると「はいよ!」と続ける。大原くんも意地になり「あーいいですね」と返す。
結局、無知を認めなかった大原くんのもみあげはそのまま進み、仕上がりがゴルゴ13のようになってしまった。
終わった後に何度も鏡で髪型をチェックする大原くん、いやゴルゴ13。明らかにもみあげ部分がおかしいが、本人は一切認めず「だいぶスッキリしましたね」と満足した様子で店をあとにした。
帰りに一旦私の家に停めた自転車を取りに行くと、母が大原くんの髪型を見て口周りがワラワラしているのを感じる。やはり、誰がどう見てもおかしな髪型だ。
翌日の学校、大原くんの髪型を見て、クラスメート全員がニヤニヤしている。そりゃそうだ。前日までジャニーズJr.のようにフサフサしていた髪がゴルゴ13に変わっていたのだから。
当然そこから大原くんは「ゴルゴ13」と呼ばれるようになり、時の流れで「ゴルゴ」→「ゴリ」と、短くなっていった。
嬉しい誤算だったのは、大原くんはゴルゴ13になってから素直になったこと。そしていじられキャラに変わったことで、以前のような知ったかは激減した。結果オーライとはこのことではないか。
もみあげ揉みましょう
皆さんの周辺にも知ったかで変なプライド高い人いませんか?もし、そういう人がいて困っている場合、是非次の魔法を通っている理容室(美容室)でオーダーするよう言ってみてください。
「もみあげ、、、揉んでください」
と。
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