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20年推し続けた、父親と同じ歳のミュージシャン - 菊地成孔と少しだけ大人になった自分のこと

先日、阪急梅田ホールで行なわれた菊地成孔とぺぺトルメントアスカラール20周年記念公演『香水』に参加してきた。このバンドを機にファンになったから、菊地成孔のファンを始めて20年経ったことになる。20年いろいろあったので、これを機に菊地成孔との出会いを振り返ってみる。まだ「推し」なんて概念も、スマホすらなかった時代の話である。

2005年当時私は高校生で、デザイン科に通い、Thee Michelle Gun Elephantが好きで、ブレザーにジョージコックスのラバーソールを履いたロッカーズだった。そして深夜ラジオもきっちり聞くオタクだった。

深夜3時から5時までのその深夜帯に『WANTED!』という番組をたまたま聞いて、何という博学で話が面白くふざけた大人がいるんだと思ったのが、水曜パーソナリティの菊地成孔だった。訳のわからない話を実に楽しそうにしている。これが探していた深夜ラジオだった。そんな病的さ故か放送は1年で終わった。

そこから彼の音楽と本を片っ端からインストールした。音楽はジャズだけでなく、ファンク、ラテン、ポップス、果てにはヒップホップにもなった。本はエッセイ、音楽理論、一般教養、映画批評、服飾批評、格闘技批評まで至る。ラジオでかかる曲まで休むことなく手を伸ばした。

その最中に大学デビューし、ジャズオタクに路線変更し、ハットを被り、香水はもちろん『エンジェル』をつけ、ゴロワーズの両切りを吸った。親戚の叔父さんのように悪いことばかり教えてくれたし、真似して僕も悪いことばかりしていた。女の子とたくさん遊び、うつ病もパニック障害も経験した。しまいにはガンになって死にかけたこともある。

クインテット・ライブ・ダブ、Date Course Pentagon Royal Garden、ダブ・セクステット、南博デュオ、UA×菊地成孔、ソロ、そしてぺぺ・トルメント・アスカラール。参戦したライブをすべて列挙してみよう。

2006.11.25 菊地成孔クインテット・ライブ・ダブ(ブルーノート大阪)
2007.04.15 Date Course Pentagon Royal Garden『Franz Kafka's AMERIKA』(心斎橋クラブクアトロ)
2008.03.16 菊地成孔ダブ・セクステット(クラブ月世界)
2009.05.02 菊地成孔×南博『花と水』(フェニックスホール)
2009.11.17 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『悲しき熱帯 - 京都』(京都KBSホール)
2009.12.05 菊地成孔ダブ・セクステット feat. UA(Bunkamuraオーチャードホール)
2010.10.30 菊地成孔ダブ・セクステット(森ノ宮ピロティホール)
2012.10.25 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール(ブルーノート名古屋)
2013.08.26 菊地成孔ソロユニット(ブルーノート名古屋)
2013.11.12 DCPRG『Marching for KINGDOMOSAKA』(umeda AKASO)
2014.04.03 UA×菊地成孔『cure jazz Reunion』(Bunkamuraオーチャードホール)
2014.05.15 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『戦前と戦後』(EX THEATRE ROPPONGI)
2014.05.27 DCPRG『WAR & POLYRHYTHM REGION 2014 / NEW DCPRG SPRING CIRCUIT』(名古屋クラブクアトロ)
2014.10.14 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール(ブルーノート東京)
2015.06.21 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『結成10周年記念公演 - 歴史は夜作られる』(品川インターシティホール)
2015.07.22 dCprG『dCprG goes on LEVEL XXX - Franz Kafka's South AMERIKA Tour』(名古屋クラブクアトロ)
2017.02.24 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『Tour 2017 - 凝視と愛撫の楽団 brigada mirada y caricia』(ブルーノート名古屋)
2019.04.19 菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール『Tour 2019 - 罪深き楽団の遠征』(ブルーノート名古屋)
2019.11.13 DC/PRG『20YEARS HOLY ALTER WAR - MIRROR BALLISM』(名古屋ボトムライン)
2022.11.19 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『2022 AW - 京都 hall side/sitting』(京都KBSホール)
2024.05.04 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『結成20周年記念巡回公演 - 香水』(阪急梅田ホール)

なんと初回が今はなきブルーノート大阪。緊張を隠すように思いっきりオシャレして行ったけど、まだカジュアル席にしか座れなかった。DCPRG参戦は解散ライブから始まっていて、これまた今はなき心斎橋クラブクアトロで閉店まで残り3分になるまで演奏が続き、終電になるからと2人で手を繋いで人をかき分けダッシュした思い出。

『花と水』の感動は今も思い出せるくらいだし、UA×菊地成孔は「Over The Rainbow」を卒業制作のモチーフにするくらいだった。この間のイベントを含めると、この曲は3回聴けたことになる。これだけでもう人生上がりである。他にも整理番号1番や、ホールの1列目も経験した。抱き合って踊ったこともあったし、感動しすぎて椅子から浮かび上がりそうになったことも、もう明日なんて来なくて良いと思った夜もある。

チケットは必ず2枚取ってから誰かに声をかけていた。まだそういうことにマメだった頃だ。一緒に行ってくれた女の子はたくさんいたけど、みんな私の元から去ってしまったり、結婚してしまった。今回のライブはとうとう1枚しかチケットを取らなくなった。大人になった証拠だ。

だからなのだろうか。20年経ってようやく初めて話すことができた。神格化していたあの頃から月日が経ち、なんだか同じ人間のように見えたからだ。

開口一番「そのTシャツヤバいっすね笑」とSupremeのマライアキャリーTシャツを褒めてもらった。ぺぺ唯一のヴァイナルにサインをもらって、握手をした。たった3分そこらの話である。だけどその3分は自分にとっては一生忘れられない時間となった。

菊地さんはいつだって現在がいちばん良い。「20年も推せて、かつ人間性を推せるなんてすごいですね」と10以上下の女の子に言われて、本当にそうだと思った。彼女たちのアイドルはいつか居なくなってしまう。私のアイドルはまだ健在でこんな長く濃密な期間になると思わなかった。いまはスマホもSNSもあるし、AIだって使える。帽子は出番が少なくなり、香水も変えた。ゴロワーズは日本で買えなくなったからタバコ自体やめてしまった。大人になった証拠だ。

それでも、いつだって菊地さんの音楽はそばにあったし、これからもそれが続く。あの頃を思い出すと同時に、未来にワクワクする。悪ガキの自分と大人になった自分が交錯する。自分の父親と同じ歳の推しという稀な経験を20年続けてきてよかったと思う。菊地さんがずっと教えてくれているように心はいつまでも若く居たい。1枚のチケットがまた2枚になることを少しだけ期待しながら。気分?うん、なかなか良いね。

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2024.05.04
菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール
結成20周年記念巡回公演『香水』
at 阪急梅田ホール

  1. 闘争のエチカ

  2. 京マチ子の夜

  3. Michelangelo – CARAVAGGIO

  4. 嵐が丘

  5. 小鳥たちのためにII

  6. 色悪

  7. Killing Time

  8. ルペ・ヴェレスの葬儀

En. 大空位時代(レチタティーヴォからアリア)

(最後の動画はまだリリースされていない『小鳥たちのためにII』が少しだけ聴けるレアなものを)

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