「残像に口紅を」の世界観に浸りながら、おすすめの小説を紹介してみる。
今週は、語学から少し離れて、私が個人的におすすめする小説を紹介します。
最近では、Twitterで流行っていた #名刺代わりの小説10選 というハッシュタグがnoteでも多く投稿されていますね。新しい本との出逢いがあるこのタグを、みなさんもぜひ検索してみてください。
私たち編集者は日々、「言葉を紡ぐ」仕事をしています。書籍のタイトルやコピーを考えたり、著者が書いた原稿をより伝わりやすくするための書き換えを提案したり、英文の翻訳をしたり。今日は、そんな「言葉」について、新たな気づきを与えてくれた2冊の小説を紹介します。
・『残像に口紅を』(筒井康隆)
この本では、作家である主人公が生きる世界で、文字が一文字ずつ消えていきます。1章進むごとに消える文字が増えていき、消えた文字で表されていたものは、この世から消えていく…。
最大の見どころは、消えた文字は使わずに小説が書き進められているという点です。
この小説の世界観に浸るため、このnoteの記事では、使える文字数を少しずつ減らしながら書いていきたいと思います。
(1 世界から「あ」を引けば)
この文字が本の中でも最初に消えるのですが、そうすると、なんと弊社は真っ先に消滅してしまいます。
この2行を書くだけでも、消したはずの文字が間違えて入ってしまっていることに気がつき、何度か書き直しました。どこが書き直された部分か想像してみてください。
(2 世界から「す」を引けば)
だいぶ脱線したので、本の紹介に戻ることにしましょう。
限られた文字で展開しているこの小説は、日本語という言語の柔軟さや言い換え表現の多様さ、さらには行間を読ませる美しさにも気づかさせてくれる。
小説の中盤までは、「文字が足りなくても意外と表現できるんだな」と感じる。しかし、終わりが近づくにつれ文字の欠如が顕著になり、理解も難解になってくる。50音が使えたら、この表現をどう言い換えるかと考えながら読んでもおもしろいかもしれない。
(3 世界から「ね」を引けば)
また、タイトルの言葉選びもなかなかにおしゃれだが、その回収シーンもまた見事。ぜひ読む際には、注目してみてほしい。
それでは、こんな不思議な世界線が広がる小説の紹介はここまでにして、次の本を紹介しよう。
(文調が途中から変わっているのは、柔らかく表現するための文字が使えないから。ご容赦ください。)
(4 世界から「み」を引けば)
・『本日はお日柄もよく』(原田マハ)
2冊目はこの小説。
この本は、どこにでもいるような平凡なOLが、幼い頃からの友人の結婚式に出席しているところから始まる。そこで衝撃的な祝辞に出くわし、演説執筆者(本の中では横文字で書かれているが、何せ文字が使えないのでここではこう呼びたい)になることを目指していく。
(5 世界から「よ」を引けば)
演説とは、その人の人となりを示し、聞き手を惹きつける。時にはお祝いの場で、時には弔いの場で。大勢の前で行われるそんな演説も、紐解けばことばとことばの繋がりである、ということを実感させてくれる。リンカーンやキング牧師などの演説が世界で語り継がれているのは、ことばでカリスマ性を示し、人々の心を奪ってきたからだろう。
(6 世界から「て」を引けば)
最近は、「人は話し方が9割」という本が大ヒットするなど、ことばの大切さに重きが置かれることが多い気がする。私もこの本を読破し、人の心をつかめる、美しいことばを綴れる人になりたいと感じた。原田マハは美術系の作品が多いイメージだが、この「お仕事物語」も、原田マハの独特な、無限に広がる世界観を楽しめる。
「ことば」に関わる全員に贈りたい本。
(7 世界から「ら」を引けば)
いかがでしたか。
「ことば」にまつわる2冊の本に関し、文を書きましたが、たった7文字の規制が、こんなにも執筆を大変にするとは思っていなかった。不自然なところ、わかりにくいところも存在したと思うが、お許しください。もしも、消えるべき文字を文中に発見した時には、コメントでご指摘ください。
最後まで目を通してくださり、感謝!
(文責:英語編集部 KK)