『Bump』創業者が教える顧客維持率の測り方〈1〉|その製品は本当にPMFを達成したのか
マーケットフィット観測所では、スタートアップ・アクセラレータープログラムであるY Combinator(YC)の解説を主にご紹介していますが、YCのモットーは、
「人々が欲しがるものを作れ」
(Make something people want)
となっています。
これが実現されている状態が「プロダクト・マーケット(PMF)を達成した」ということなのですが、実際どうやってそれを確かめればよいのでしょうか。
その有力な方法が顧客維持率(コホート・リテンション)です。
本シリーズ(全4回)は、『Bump』の創業者であるデイビッド・リー(David Lee)氏の解説を基に、コホート・リテンションの重要性、測り方についてご紹介します。
『Bump』は、スマホ黎明期を生きた世代なら多くの人が知っているでしょう。スマホ同士を「ゴツンッ」とぶつけると連絡先情報が交換できるアレです。
Bumpは最初期のモバイルアプリの一つで、1億人以上のユーザーに利用されましたが、残念ながら『Bump』はビジネス的には成功せず、写真共有および写真管理アプリへとシフトしていきました。
最終的にGoogleに買収され、Google Photosとして生まれ変わりました。リー氏はその後約10年間Google Photosに携わってきた人物です。
さて第1回は、概念説明です。
📍 コホート・リテンションのポイント
コホート・リテンションとは
コホート・リテンションの測定方法
自分を欺く間違った測り方とその対策
悪いコホート・リテンションを改善する方法
1. コホート・リテンションとは
コホート・リテンションは、新しいユーザーのうち、時間が経過しても引き続き製品を使い続ける割合を追跡するものです。
ここでのポイントは、新規ユーザーの特定グループ(コホート)を時間の経過とともに追跡することにあります。全体のユーザーベースや顧客を混ぜて観察し、そこから何かを推測しようとするのではなく、個別のグループに焦点を当てることで、新規ユーザーがどの程度製品を使い続けるのか、あるいは使わなくなるのかをより正確に理解することができます。
コホート・リテンションを測る上で重要な要素は以下の3つです:
コホート(対象のグループ)の定義
アクティブユーザーを定義するアクション
使用状況を測定する時間の単位
▶︎ コホート(対象のグループ)の定義
コホートを定義するには、新しいユーザーをどのようにグループ化するかを決めます。最も一般的な方法は、「ユーザーが初めて製品を使用した時期」 です。
例えば、
「毎週」新規ユーザーを獲得した時点で分ける → Week 1、Week 2、Week 3
「毎月」新規ユーザーを分ける → 1月の新規ユーザー、2月の新規ユーザー
これは最初に始めるには最も適切な方法です。
しかし、さらに高度な分析を行いたい場合は、国や地域、ユーザーの獲得経路、デバイスの種類など他の要素で細分化することも可能です。
▶︎ アクティブユーザーを定義するアクション
「アクション」とは、ユーザーをアクティブとカウントする基準です。最も単純な方法は、
「アプリを開いたか」
「サイトを訪れたか」
ですが、より良い方法は、ユーザーが製品の主要機能を使用し、実際に価値を得たことを示すアクションを選ぶことです。
Instagramの場合
例えば「3つ以上の投稿を閲覧した」というアクションを選ぶと良いでしょう。ユーザーがアプリを開いてすぐに離脱するケースもあるため、そのような「非アクティブユーザー」を除外することができます。Uberの場合
「ライドを完了した」ことがアクティブな使用の証拠になります。目的地に到達したユーザーは、Uberを本当に利用していると言えるからです。Google Photosの場合
Google Photosでは、「写真をフルスクリーンで閲覧した」ことをアクティブな使用の基準にしました。写真を拡大して閲覧することで、ユーザーが製品から実際に価値を得ていることが分かるからです。
アクションとして、ユーザーが製品から得る「実際の価値」と強く相関するものを選ぶことが重要です。逆に、単に製品を触っているだけの行動は避けましょう。
▶︎ 測定する時間の単位
最後に決めるべきことは、アクションを測定する時間の単位(粒度) です。これは、製品の意図する使用頻度に合わせる必要があります。
InstagramやTikTok、YouTube(SNSやエンタメ系アプリ)
毎日使うことを前提にしているので、日単位で測定するのが適切です。Google PhotosやUber(ユーティリティ系アプリ)
必ずしも毎日使うわけではないので、週単位の方が良いでしょう。Airbnb(旅行関連アプリ)
人々は年に数回しか旅行しないため、四半期単位や年単位で測定するのが適切です。
重要なのは、製品の使用頻度と一致する時間の単位を選ぶことです。これを間違えると、製品の正しい使用傾向を測定できなくなる可能性があります。
次回は具体的な測定方法についてご紹介します。
次回もお楽しみに。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。